日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT18] 環境リモートセンシング

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.11

コンビーナ:齋藤 尚子(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、入江 仁士(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、島崎 彦人(独立行政法人国立高等専門学校機構 木更津工業高等専門学校)、石内 鉄平(宮城大学)

17:15 〜 18:30

[HTT18-P04] 仙台平野のクロマツ植栽による人工海岸林における生育不均一性の把握

*梶原 拓人1、川東 正幸2 (1.東京都立大学大学院、2.東京都立大学)


キーワード:衛星画像、植生指数、植林、盛土材料

1.はじめに
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の津波によって,17世紀より育成されてきた仙台平野のクロマツ海岸林は深刻な被害を受けた.その後,直ちに林野庁を主体とした海岸林復旧・再生事業が始動したが,被害を受けた地域では海水の侵入による土壌の塩性化・湿地化や,高い地下水位など,クロマツの生育に不適当な環境が多数確認された.これを受けて,林野庁は仙台平野の丘陵地から持ち込んだ土壌材料をもとに植栽基盤の盛土造成による人工林を形成.発達させる再生事業を実施したが,植栽されたクロマツには現在もモザイク状の生育差がみられた.クロマツが災害防止機能を発揮するには植栽後20年程度の期間を要することから,生育差をもたらした要因を速やかに解明する必要がある.そこで本研究では,海岸林再生・復旧事業の対象地域のなかでも大規模に盛土造成が行われた地域を対象に,正規化植生指標(Normalized Difference Vegetation Index : NDVI)を用いてクロマツの面的な生育状況を定量化し,生育の不均質性を可視化することによって造成盛土の植栽基盤としてのポテンシャル評価を行なう.
2.研究手法
研究対象地は,宮城県仙台市若林区荒浜海岸林であり,植栽年度が異なる35区画のすべての工区とした.Sentinel-2によって2020年8月20日に撮影された衛星画像から対象地全域について,ArcMap10.5.1を用いてNDVI値の算出と地図化を実施した.また,各工区内で算出されたピクセル毎のNDVI値をもとに,有限標本データの外挿により母集団の確率密度関数を推定するためのカーネル密度推定を行い,各工区におけるNDVI値の分布を作成した.さらに各ピクセルのNDVI値をマッピングすることによって面的なNDVI値の分布図も作成した.そして正規性,等分散性,平均値の差について統計分析を行い,各工区におけるクロマツの生育の不均一性を比較した.
3.結果および考察
同一年度に植栽されたほとんどの工区間においてNDVI値に統計的な有意差が確認された.したがって,工区内におけるクロマツには面的な生育差が生じている可能性が高いと考えられた.また,各工区のNDVI値の分布の特徴は異なり,同一工区内においてもNDVI値にはばらつきがみられた.このことから,調査地におけるクロマツの生育差は極めて小さなスケールでも発生していることが分かった.さらに,各工区には日照や降水に関わる気象条件に大きな差が無いことを考慮すると,クロマツの生育差は土壌特性に関わるミクロな環境の違いに起因すると推測された.
なお,造成された植栽基盤では重機の踏圧などによって土壌の固結や通気通水不良が発生しやすい点が問題とされており,本研究における調査地において水溜まりが発生した植栽基盤について報告されている.これらの要素はクロマツの根の伸長阻害などに結び付くことから,センチメートル単位の微地形の変化による地表面の水の動きがクロマツの生育不良を引き起こす可能性も考えられた.したがって,クロマツの生育差をもたらす原因を明らかにするためには,ミクロなスケールにおいて変化する微地形や土壌特性を把握する必要があると考えられた.