日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT19] 地理情報システムと地図・空間表現

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.09

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、田中 一成(大阪工業大学工学部都市デザイン工学科)、中村 和彦(東京大学)

17:15 〜 18:30

[HTT19-P01] 亀裂を考慮した地震後の崩壊危険度評価

*山口 柊生1、笠井 美青2 (1.北海道大学大学院農学院、2.北海道大学大学院農学研究院)

キーワード:地震後の斜面崩壊、亀裂、崩壊危険度評価、WoE、ロジスティック回帰

大規模な地震が発生すると、広域にわたって多数の斜面崩壊が発生し、人命や財産、インフラに被害をもたらす。強い揺れによって地盤の強度は低下し、地表には亀裂が出現する。そのような斜面では、地震後も崩壊が発生しやすい状態が続くことから、地震直後には地形図や航空写真の判読、現地調査による亀裂の分布の把握が速やかに実施されている。しかし、この作業は、地震の規模が大きく地盤への影響が広範囲であるほど、時間と労力を必要とする。そこで本研究では、2016年の熊本地震(Mw7.0)で被災した熊本県阿蘇カルデラ南西部に位置する地区(6km2)を対象に、地震前後のLiDARデータを用いて、地震時により出現した亀裂の分布密度を迅速に把握できる数値指標(DCI:Dense Crack Index)を提案した。そして、地震後を対象とした統計的な崩壊危険度評価にDCIを用いた場合の、評価精度の向上について調べた。対象地では、地震により198箇所、続く4ヶ月の間に125箇所で表層崩壊が発生していた。
 まず、地震前後の斜面勾配を1mセルごとに求め(図1-a)、近傍の3×3のセルについて標準偏差を計算した。地震による亀裂の発生が見られたセルの75%で、標準偏差が2度以上増加していたことから、そのようなセルが集中する場(図1-b)を、近傍距離10mのカーネル密度を計算して表した。この密度をDCIとした(図1-c)。
 地震発生から4ヶ月間の崩壊危険度は、Weight of Evidence法(WoE)及びロジスティック回帰法(LR)により評価した。これら二つの統計モデルを構成する応答変数は、地震から4ヶ月後の航空写真と地形図から判読した表層崩壊の発生場/非発生場をとした。また、説明変数には、DCIに加え、斜面勾配、断面曲率、斜面方位、地震で発生した崩壊縁辺からの距離、震源断層からの距離、表面最大加速度(PGA)を採用した。なお、本研究では対象範囲が小さいことから、範囲内の地質、植生、降雨条件は同一とみなした。
 WoE法からは、遷急線付近(断面曲率:-6--4m-1)の急勾配斜面(勾配:40-55度)に、強震動(PGA:1050-1150gal)によって亀裂が集中的に出現した箇所(DCI:0.2以上)で地震後に崩壊が発生しやすかったことが示され、この結果は対象地で実施された現地調査の報告(熊本県、2019)と一致した。また、DCIを含む説明変数で構成された、WoEとLRの崩壊危険度の評価精度は、ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線のAUC(Area Under the Curve)がともに0.80-0.90であり、DCIを含まないモデル(AUC:0.70-0.85)と比較して、評価精度はやや向上していた。
 以上より、DCIは地震動により不安定化した斜面を推定する際に重要であることが示唆された。また、DCIを統計的な危険度評価モデルに含めることで、現地からの報告と一致する危険箇所を抽出できることが分かった。

参考文献:立野地区亀裂対策検討委員会(2019), 報告書, 熊本県, pp.106

図1:DCIの計算例(a : 地震前後の勾配図, b : 勾配の標準偏差が地震前後で2以上増加したセルを赤で示す, c : DCIの分布図)