日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG38] 福島原発事故から10年:放射性核種の環境動態

2021年6月6日(日) 15:30 〜 17:00 Ch.09 (Zoom会場09)

コンビーナ:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、北 和之(茨城大学理学部)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、北 和之(茨城大学理学部)

15:30 〜 15:45

[MAG38-07] 福島第一原発から80km圏内の30の河川観測点における137Cs移行の10年間にわたるモニタリング

★招待講演

*谷口 圭輔1、恩田 裕一1、藤田 一輝2、竹内 幸生2、勝野 和美2、新井 宏受2、那須 康輝2 (1.筑波大学アイソトープ環境動態研究センター、2.福島県環境創造センター)

キーワード:セシウム137、河川、福島第一原子力発電所事故

東京電力福島第一原子力発電所(FDNPP)の事故から10年が経過した。この事故で、東日本の陸域に約2.7PBqの137Csが沈着したと考えられている。137Csが河川を通じてどのように移動するのかを知ることは、流域に生活する住民の安全の確保や、海洋への137Csの供給量の把握のために重要である。そこで、FDNPPから80km圏内に位置する9つの河川流域に30か所の河川観測点を設置し、形態別の放射性Cs濃度の測定と水位・濁度の連続観測を開始した。阿武隈川とその支流の口太川に位置する6つの観測点では2011年から、その他の24地点では2012年から観測を実施し、現在も継続している。懸濁態137Cs濃度は、各観測点に設置した浮遊砂サンプラー内に捕集された浮遊物質(SS)を数週~数か月おきに回収し、乾燥させた後、ゲルマニウム半導体検出器により測定した。溶存態137Cs濃度は、数か月~半年間隔で60-100Lの河川水を採取し、孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過した後、そのろ液に含まれる137Csを、AMP共沈法または陽イオン交換樹脂法で捕集し、同様にゲルマニウム半導体検出器測定した。137Csの固液分配係数(Kd)は、懸濁態濃度を溶存態濃度で除すことで算出した。水位・濁度の連続データより、それぞれ河川流量(Q)とSS濃度(SSC)を推定した。その上で、QにSSCの値を乗じることでSS移行量(Qss)を、Qssに当該期間の137Cs濃度を乗じることで137Cs移行量(L)を算出した。FDNPP事故から10年の間に、溶存態・懸濁態137Cs濃度は大きく低下した。事故直後の1年間に急激な濃度低下を示した後、2年目以降にはやや緩やかな低下傾向へと変化した。事故から1年以内での137Cs濃度の実効環境半減期は、溶存態で約0.11年(4地点)、懸濁態で約0.57年(6地点)であったが、2年目以降では、溶存態で約2.4年(29地点)、懸濁態で約3.0年(29地点)であった。固液分配係数(Kd)については、経時的な変動は認められず、その幾何平均値は2.9×105 L/kg(30地点)であった。2011年8月から2019年12月までに阿武隈川から太平洋へ流出した137Csの量は約49TBqで、流域に沈着した137Csの2.4%程度であった。事故から1年以内 (2011/8-2012/3) に流出した137Csは0.9%であったのに対し、2019年に流出した137Csは0.19%程度まで低下した。2019年の総移行量の約80%は、台風19号(ハギビス)による豪雨が発生した10月に流出した。チェルノブイリ事故後の欧州の河川の事例では、137Csの濃度低下速度は、事故後7年目ころからさらに緩やかになった。福島の河川においても、同様の傾向がみられる可能性がある。。また、上流に位置する森林から河川を介して137Csが下流に供給されるのではという懸念もいまだ存在している。そのため、今後もデータを蓄積し、その傾向を注視していく必要がある。