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[MAG38-P02] 広葉樹リター層中の放射性セシウム移動における真菌の菌糸伸長の寄与
キーワード:放射性セシウム、落葉広葉樹、リター層、福島第一原子力発電所事故
はじめに
2011年3月11日に発生した東日本大地震により引き起こされた津波に伴う福島第一原子力発電所の事故により放射性物質が飛散し、福島県の県土の7割近くの面積を占める森林域にも放射性物質は沈着した。沈着した放射性物質のうち半減期の比較的長い放射性セシウムが環境中に残っている。生活圏に近い森林の一部では、放射性物質の除染作業は行われたが、大部分の森林では除染は行われていない。森林からの放射性セシウムの流出は、非常に小さいことから[1]、森林内に放射性セシウムがとどまり森林内において循環するものと考えられる。林床表面の鉱質土壌の放射性セシウムは粘土鉱物により強く吸着されるため循環への寄与は小さくなると考えられる。これに対し、林床のリター層は、生物に取り込まれやすい溶存態放射性セシウムが生成しやすく、溶存態放射性セシウムの供給源のひとつであると考えられる。、林床に設置したリターバッグの放射性セシウム濃度が上昇することから、林床からリターへ放射性セシウムが移動する可能性が示されており[2,3,4]、リター層未除去の林床で最もリターバッグの放射性セシウム濃度が上昇することが報告されている[3]。フィールドにおけるリターへの放射性セシウム移動の一因として真菌の活動が示されている[2]。室内試験では、鉱質土壌からヒノキのリターへの放射性セシウムの上方移動について微生物の活動が関与していると報告されているが[4]、リター層中の放射性セシウム移動における菌類活動の寄与は明らかになっていない。本報告では、生物利用性の高い溶存態放射性セシウムの林床での移行挙動のうち、リター間の放射性セシウム移動における真菌の菌糸伸長の寄与に関する室内試験の結果を報告する。
方法
リター間の放射性セシウム移動における菌糸の寄与を調べるために、試験区Ⅰ;菌が存在しない系、試験区Ⅱ;落葉分解性の真菌が存在する系、を設定し放射性セシウム濃度の変化を比較した。
容量100mLの容器の中央をメッシュで仕切った上下にそれぞれ放射性セシウム濃度が低いリター;Cs(L)(≈10Bq/kg)と放射性セシウム濃度が高いリター;Cs(H)(≈2×103Bq/kg)を入れ、オートクレーブにより滅菌した。使用したリターの含水率は65%とした。培養に用いた真菌は、落葉を白色腐朽する落葉分解性の担子菌を用い、容器下部のCs(H)に植菌し、上部のCs(L)側に菌糸が伸長する系とした。23℃で最大150日間静置し、その後放射性セシウム濃度を測定することにより、放射性セシウム移動における菌糸伸長の寄与を考察した。
結果および考察
試験区Ⅱでは、試験開始40から60日で系全体へ菌糸が拡がったことが確認され、その後、落葉分解菌の白色腐朽によるリターの脱色が進み菌糸によるリターの分解が確認された。試験区ⅠおよびⅡにおいて試験開始から50日目にはCs(L)のリターのCs-137濃度は約50Bq/kgまで上昇し、その後緩やかに上昇し、試験開始150日目にはCs-137濃度は約100Bq/kgとなった。試験区Ⅰと試験区Ⅱにおける試験期間中の放射性セシウム濃度の変化に違いは認められなかった。このため、本試験条件では、リター間の放射性セシウム移動における真菌類の菌糸伸長の寄与は認められないことが明らかになった。実際のフィールドにおける有機物分解は複雑な過程を経て行われ、それに伴い放射性セシウムの挙動も変化するものと考えられる。本試験は単一菌を使用した室内試験であり、フィールドにおける現象と単純な比較はできないものの、本試験の結果は、リターにおける放射性セシウムの移動が真菌の活動以外の物理的な作用による可能性を示唆した。林床リターの逐次抽出試験では、微生物に分解されにくい酸難溶性画分に一部の放射性セシウムが強く吸着されるとの知見が報告されており[5]、これまで考えられてきたよりも長くリター層において放射性セシウムが保持される可能性も考えられる。今後、山菜やキノコ等の生物に取り込まれる放射性セシウムの挙動の将来予測のために、リター層における放射性セシウム移動機構に関する更なる研究が必要である。
[1] Niizato et al., 2016, J. Environ. Radioact. 161, 11-21.
[2] Huang et al., 2016, J. Environ. Radioact. 152, 28-34.
[3] 斎藤ほか., 2017 日緑工誌. 43, 168-173
[4] Fukuyama et al., 2004, Sci. total. Environ. 318, 187-195
[5] Manaka et al., 2020, J. Environ. Radioact. 220-221, 106306.
2011年3月11日に発生した東日本大地震により引き起こされた津波に伴う福島第一原子力発電所の事故により放射性物質が飛散し、福島県の県土の7割近くの面積を占める森林域にも放射性物質は沈着した。沈着した放射性物質のうち半減期の比較的長い放射性セシウムが環境中に残っている。生活圏に近い森林の一部では、放射性物質の除染作業は行われたが、大部分の森林では除染は行われていない。森林からの放射性セシウムの流出は、非常に小さいことから[1]、森林内に放射性セシウムがとどまり森林内において循環するものと考えられる。林床表面の鉱質土壌の放射性セシウムは粘土鉱物により強く吸着されるため循環への寄与は小さくなると考えられる。これに対し、林床のリター層は、生物に取り込まれやすい溶存態放射性セシウムが生成しやすく、溶存態放射性セシウムの供給源のひとつであると考えられる。、林床に設置したリターバッグの放射性セシウム濃度が上昇することから、林床からリターへ放射性セシウムが移動する可能性が示されており[2,3,4]、リター層未除去の林床で最もリターバッグの放射性セシウム濃度が上昇することが報告されている[3]。フィールドにおけるリターへの放射性セシウム移動の一因として真菌の活動が示されている[2]。室内試験では、鉱質土壌からヒノキのリターへの放射性セシウムの上方移動について微生物の活動が関与していると報告されているが[4]、リター層中の放射性セシウム移動における菌類活動の寄与は明らかになっていない。本報告では、生物利用性の高い溶存態放射性セシウムの林床での移行挙動のうち、リター間の放射性セシウム移動における真菌の菌糸伸長の寄与に関する室内試験の結果を報告する。
方法
リター間の放射性セシウム移動における菌糸の寄与を調べるために、試験区Ⅰ;菌が存在しない系、試験区Ⅱ;落葉分解性の真菌が存在する系、を設定し放射性セシウム濃度の変化を比較した。
容量100mLの容器の中央をメッシュで仕切った上下にそれぞれ放射性セシウム濃度が低いリター;Cs(L)(≈10Bq/kg)と放射性セシウム濃度が高いリター;Cs(H)(≈2×103Bq/kg)を入れ、オートクレーブにより滅菌した。使用したリターの含水率は65%とした。培養に用いた真菌は、落葉を白色腐朽する落葉分解性の担子菌を用い、容器下部のCs(H)に植菌し、上部のCs(L)側に菌糸が伸長する系とした。23℃で最大150日間静置し、その後放射性セシウム濃度を測定することにより、放射性セシウム移動における菌糸伸長の寄与を考察した。
結果および考察
試験区Ⅱでは、試験開始40から60日で系全体へ菌糸が拡がったことが確認され、その後、落葉分解菌の白色腐朽によるリターの脱色が進み菌糸によるリターの分解が確認された。試験区ⅠおよびⅡにおいて試験開始から50日目にはCs(L)のリターのCs-137濃度は約50Bq/kgまで上昇し、その後緩やかに上昇し、試験開始150日目にはCs-137濃度は約100Bq/kgとなった。試験区Ⅰと試験区Ⅱにおける試験期間中の放射性セシウム濃度の変化に違いは認められなかった。このため、本試験条件では、リター間の放射性セシウム移動における真菌類の菌糸伸長の寄与は認められないことが明らかになった。実際のフィールドにおける有機物分解は複雑な過程を経て行われ、それに伴い放射性セシウムの挙動も変化するものと考えられる。本試験は単一菌を使用した室内試験であり、フィールドにおける現象と単純な比較はできないものの、本試験の結果は、リターにおける放射性セシウムの移動が真菌の活動以外の物理的な作用による可能性を示唆した。林床リターの逐次抽出試験では、微生物に分解されにくい酸難溶性画分に一部の放射性セシウムが強く吸着されるとの知見が報告されており[5]、これまで考えられてきたよりも長くリター層において放射性セシウムが保持される可能性も考えられる。今後、山菜やキノコ等の生物に取り込まれる放射性セシウムの挙動の将来予測のために、リター層における放射性セシウム移動機構に関する更なる研究が必要である。
[1] Niizato et al., 2016, J. Environ. Radioact. 161, 11-21.
[2] Huang et al., 2016, J. Environ. Radioact. 152, 28-34.
[3] 斎藤ほか., 2017 日緑工誌. 43, 168-173
[4] Fukuyama et al., 2004, Sci. total. Environ. 318, 187-195
[5] Manaka et al., 2020, J. Environ. Radioact. 220-221, 106306.