日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI35] 計算科学が拓く宇宙の構造形成・進化から惑星表層環境変動まで

2021年6月4日(金) 09:00 〜 10:30 Ch.03 (Zoom会場03)

コンビーナ:林 祥介(神戸大学・大学院理学研究科 惑星学専攻/惑星科学研究センター(CPS))、牧野 淳一郎(国立大学法人神戸大学)、草野 完也(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、井田 茂(東京工業大学地球生命研究所)、座長:牧野 淳一郎(国立大学法人神戸大学)、林 祥介(神戸大学・大学院理学研究科 惑星学専攻/惑星科学研究センター(CPS))、草野 完也(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、小久保 英一郎(自然科学研究機構国立天文台科学研究部)、斎藤 貴之(神戸大学)

09:00 〜 09:15

[MGI35-01] 全球非静力学金星大気モデルの開発:簡易金星計算

*樫村 博基1、八代 尚2、西澤 誠也3、富田 浩文3、高木 征弘4、杉本 憲彦5、小郷原 一智4、黒田 剛史6、中島 健介7、石渡 正樹8、高橋 芳幸1、林 祥介1 (1.神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻、2.国立環境研究所地球環境研究センター、3.理化学研究所計算科学研究センター、4.京都産業大学理学部、5.慶應義塾大学法学部日吉物理学教室、6.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻、7.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門、8.北海道大学大学院理学院宇宙理学専攻)

キーワード:金星大気、全球非静力学モデル、高解像度シミュレーション

金星は全球が濃硫酸の分厚い雲で覆われており、その大気の循環構造や内在する諸現象の全貌は明らかになっていない。しかし近年、金星探査機「あかつき」の観測によって、惑星規模の弓状構造 (Fukuhara et al., 2017) や筋状構造 (Kashimura et al., 2019)、前線のような構造、数百km程度の小規模な渦や波 (Limaye et al., 2018) などといった様々な大気現象が発見されている。また、これらの現象を大気大循環モデルで再現し、そのメカニズムに迫る試みも活発に行われている。なかでも、地球シミュレータに最適化された大気大循環モデル「AFES」(Ohfuchi et al., 2004; Enomoto et al., 2008) をもとに開発されたAFES-Venus (Sugimoto et al., 2014) によって、高解像度のシミュレーションが実現され、惑星規模の筋状構造や熱潮汐波、重力波、子午面循環などの構造が解析されてきた (e.g., Kashimura et al., 2019; Takagi et al., 2018; Sugimoto et al., in revision; Takagi et al., in prep.)。しかし、AFESは静力学平衡を仮定した大気モデルであり、水平数十km規模以下の現象には適しておらず、雲層の対流活動を陽に扱うこともできない。雲層の対流活動は、それ自身が興味深いだけでなく、対流の結果として生じる中立あるいは低安定度の層が、惑星規模の弓状構造や筋状構造の成因に深く関わっており、金星大気において非常に重要だと考えられる。これまでに、非静力学の領域モデルによって雲層の対流活動やそこから生じる重力波などが研究されてきた (e.g., Baker et al., 1998; Imamura et al., 2014; Yamamoto 2014, Lefèvre et al., 2017) が、計算領域が限定されるがゆえに、大規模現象に対する影響を調べることは出来ていない。

そこで我々は、雲層の対流活動を陽に表現した金星大気の全球シミュレーションを実現すべく、非静力学の金星大気大循環モデルの開発を始めている。大気運動や座標系を担う力学コアには「SCALE-GM」(http://r-ccs-climate.riken.jp/scale/)を利用する。SCALE-GMは、完全圧縮方程式系を正二十面体準一様格子 (Tomita et al., 2001, 2002) 上で有限体積法で解く力学コアである。開発の最初の一歩として、惑星・大気の諸定数を金星の値に変更し、AFES-Venusで使われていた加熱強制・ニュートン冷却 (Tomasko et al., 1980; Crisp et al., 1986; Sugimoto et al., 2014) を与えられるようにした。そして、AFES-Venusと同様の簡易金星計算を様々な解像度で試行し、必要な時間刻み幅や数値拡散やスポンジ層の強さなどを探った。水平格子間隔 dx ~ 52 km、鉛直120層 (dz = 1 km) の解像度において、水平拡散として2次のラプラシアン、最小スケールに対する緩和時間を100 sとした場合に、惑星規模の筋状構造が、AFES-Venusと同様に表現されることが確認できた。一方SCALE-GMでは、計算安定のためには平均東西風も減速させる強いスポンジ層をモデル上部に導入する必要があった。このため、スーパーローテーションの強度や大気の角運動量収支に、人口的なスポンジ層が影響を与えてしまっており、さらなる工夫が必要である。また、より高解像度で鉛直240層 (dz = 500 m) の計算も試行しており、本発表ではこれらの結果も紹介したい。