09:30 〜 09:45
[MGI35-03] 不連続ガラーキン法を用いた大気境界層乱流のラージエディシミュレーション
キーワード:大気境界層、ラージエディシミュレーション、高精度流体スキーム
1. はじめに
近年, 全球大気モデルの空間解像度は, ラージエディシミュレーション(LES)が対象とする空間スケールに迫りつつある. 全球大気LESに向けた課題の一つは, 力学過程の離散精度であると考えられる. 河合・富田(2020)では, 大気境界層の内部で, 移流項の離散誤差が乱流モデルに伴う渦粘性項を卓越しないために必要な精度のオーダーを有限差分法の枠組みで議論した. 導出した条件によれば, 少なくとも 7-8 次精度が必要であることが示唆される. 次の課題として, 全ての項を厳密に高精度化した場合の効果の検証や, 力学の有効解像度を考慮した力学-物理カップリングがある. また, 大規模並列計算機を想定して, 精度の高い物理場表現と計算効率のバランスがとれた計算手法を探索する必要がある. これらの課題に対して, 不連続ガラーキン法(DGM)が有用である可能性がある. DGM では離散化を高精度化する方法が単純であり, コンパクト性も高い. 力学過程-物理過程のカップリングの観点では, 要素内の自由度を活用することで, 数値的な影響を受けていない力学場の構造を物理過程に用いるための知見を生む期待もある. 本研究では, 全球大気 LES に向けて, DGMの適用可能性を検討するため, DGM による領域大気 LES モデルを構築し, 理想化した大気境界層乱流の数値実験を実施した. 本発表ではその初期的結果を報告する.
2. DGM による大気境界層乱流の LES
2.1 計算法
力学の支配方程式系は完全圧縮方程式系であり, 乱流過程は Smagorinsky-Lilly 型の乱流モデル(Brown et al., 1994等)によって表現する. 各項の空間離散化は nodal DGM (Hesthaven & Warburton, 2008等)に基づく. 打ち切り誤差に関して8次精度を得るために, 六面体要素の内部に 83 個の節点を置く. 要素境界の数値フラックスには, 非粘性項に Rusanov フラックス, 渦粘性項に中心フラックスを使用する. 空間フィルタとして, 指数関数の形式をもつ 16 次の数値フィルタを要素ごとに適用する. これによって, 2 格子スケール周辺の短波長を速やかに取り除く. この場合, 対応する空間フィルタ長の定義が自明でないが, 2 格子から 4 格子スケールの周辺にあると考える.
2.2 実験設定
Nishizawa et al. (2015) と同様の惑星境界層乱流の理想実験を実施する. 領域は 9.6 x 9.6 x 3 km3 である. 初期の水平風は5 m/sであり, 安定成層した大気に温位擾乱を与える. 下端では 200 W/m2の熱フラックスを与えて, 4時間積分する. 8次精度の有限要素の幅は200 mに設定する. これは有限差分法の格子幅Δxとしては約 30 mに対応する. DGM での力学-物理カップリングに関する知見を得るために, エネルギースペクトルに対する, 数値フィルタの強度(最大波数での減衰時定数Tnd)と乱流モデルの空間フィルタ長 Δsgs の感度を調べる. 前者の感度は Tnd/Δt〜0.1, 10, 100 (Δtは時間刻み幅), 後者の感度は Δsgs/Δx=1, 2, 4 と変更して検証する. ここでは, Tnd/Δt〜10, Δsgs/Δx=2 を標準実験とする.
2.3 結果
各実験から得られた三次元速度のエネルギースペクトルを図に示す. 比較のために, 保存型有限差分法を用いた SCALE-RM の結果も示す(灰色線). 標準実験のエネルギースペクトルは, 波長 200 mより短波長側で-5/3乗則の傾きよりも急峻となる. 標準実験や数値フィルタが強い設定では, 波長 500m-200 mにかけて-5/3乗則の傾きに比べてスペクトルの傾きがやや浅く, エネルギーの蓄積が見られる. 本設定では, 数値フィルタ強度よりも, 空間フィルタ長の感度が高い. 力学の有効解像度を考慮した力学-物理カップリングの観点では, 本実験の数値フィルタの設定において, Δsgs/Δx= 4 が適切かと予期したが, 実際に得られた結果は散逸が最も強く, -5/3 乗則から大きく外れた. 今後は, 上述した一連の結果が得られる理由を考察するために, DGMにおけるLESの定式化を再検討する. また, 本実験では慣性小領域がやや狭く, 議論に影響を及ぼす可能性があるため高解像度実験も行う.
近年, 全球大気モデルの空間解像度は, ラージエディシミュレーション(LES)が対象とする空間スケールに迫りつつある. 全球大気LESに向けた課題の一つは, 力学過程の離散精度であると考えられる. 河合・富田(2020)では, 大気境界層の内部で, 移流項の離散誤差が乱流モデルに伴う渦粘性項を卓越しないために必要な精度のオーダーを有限差分法の枠組みで議論した. 導出した条件によれば, 少なくとも 7-8 次精度が必要であることが示唆される. 次の課題として, 全ての項を厳密に高精度化した場合の効果の検証や, 力学の有効解像度を考慮した力学-物理カップリングがある. また, 大規模並列計算機を想定して, 精度の高い物理場表現と計算効率のバランスがとれた計算手法を探索する必要がある. これらの課題に対して, 不連続ガラーキン法(DGM)が有用である可能性がある. DGM では離散化を高精度化する方法が単純であり, コンパクト性も高い. 力学過程-物理過程のカップリングの観点では, 要素内の自由度を活用することで, 数値的な影響を受けていない力学場の構造を物理過程に用いるための知見を生む期待もある. 本研究では, 全球大気 LES に向けて, DGMの適用可能性を検討するため, DGM による領域大気 LES モデルを構築し, 理想化した大気境界層乱流の数値実験を実施した. 本発表ではその初期的結果を報告する.
2. DGM による大気境界層乱流の LES
2.1 計算法
力学の支配方程式系は完全圧縮方程式系であり, 乱流過程は Smagorinsky-Lilly 型の乱流モデル(Brown et al., 1994等)によって表現する. 各項の空間離散化は nodal DGM (Hesthaven & Warburton, 2008等)に基づく. 打ち切り誤差に関して8次精度を得るために, 六面体要素の内部に 83 個の節点を置く. 要素境界の数値フラックスには, 非粘性項に Rusanov フラックス, 渦粘性項に中心フラックスを使用する. 空間フィルタとして, 指数関数の形式をもつ 16 次の数値フィルタを要素ごとに適用する. これによって, 2 格子スケール周辺の短波長を速やかに取り除く. この場合, 対応する空間フィルタ長の定義が自明でないが, 2 格子から 4 格子スケールの周辺にあると考える.
2.2 実験設定
Nishizawa et al. (2015) と同様の惑星境界層乱流の理想実験を実施する. 領域は 9.6 x 9.6 x 3 km3 である. 初期の水平風は5 m/sであり, 安定成層した大気に温位擾乱を与える. 下端では 200 W/m2の熱フラックスを与えて, 4時間積分する. 8次精度の有限要素の幅は200 mに設定する. これは有限差分法の格子幅Δxとしては約 30 mに対応する. DGM での力学-物理カップリングに関する知見を得るために, エネルギースペクトルに対する, 数値フィルタの強度(最大波数での減衰時定数Tnd)と乱流モデルの空間フィルタ長 Δsgs の感度を調べる. 前者の感度は Tnd/Δt〜0.1, 10, 100 (Δtは時間刻み幅), 後者の感度は Δsgs/Δx=1, 2, 4 と変更して検証する. ここでは, Tnd/Δt〜10, Δsgs/Δx=2 を標準実験とする.
2.3 結果
各実験から得られた三次元速度のエネルギースペクトルを図に示す. 比較のために, 保存型有限差分法を用いた SCALE-RM の結果も示す(灰色線). 標準実験のエネルギースペクトルは, 波長 200 mより短波長側で-5/3乗則の傾きよりも急峻となる. 標準実験や数値フィルタが強い設定では, 波長 500m-200 mにかけて-5/3乗則の傾きに比べてスペクトルの傾きがやや浅く, エネルギーの蓄積が見られる. 本設定では, 数値フィルタ強度よりも, 空間フィルタ長の感度が高い. 力学の有効解像度を考慮した力学-物理カップリングの観点では, 本実験の数値フィルタの設定において, Δsgs/Δx= 4 が適切かと予期したが, 実際に得られた結果は散逸が最も強く, -5/3 乗則から大きく外れた. 今後は, 上述した一連の結果が得られる理由を考察するために, DGMにおけるLESの定式化を再検討する. また, 本実験では慣性小領域がやや狭く, 議論に影響を及ぼす可能性があるため高解像度実験も行う.