11:15 〜 11:30
[MGI35-09] CANS+によるジェット伝搬の高空間分解能二温度磁気流体数値シミュレーション
活動銀河中心核(AGN)から噴出するジェットは、非常に長い空間スケールに渡り安定して伝播するプラズマの噴流である。母銀河を突き抜けたジェットは、遠方の銀河団間物質と激しく相互作用することで周辺環境を一変させる。その結果、ジェットが駆動した乱流が母銀河への質量降着を抑制し母銀河の成長を阻害するなど、ジェットは銀河進化や宇宙の構造形成史において主要な役割を果たしている。しかしながら、ジェットと周辺環境の相互作用の物理は、未だに良くわかっていない。
本研究では、AGNジェットにおける未解決問題の中で、収束・安定性問題に着目する。ジェットは、磁化した超音速流であり、周辺物質との速度シアを持つため、磁気流体力学(MHD)的不安定な系である。特に、ケルビン=ヘルムホルツ不安定、レイリーテイラー不定性、及び電流駆動型キンク不安定性の発達がジェットの運動に対して多大な影響を及ぼすことが指摘されている。これら不安定性の非線形成長は、ジェット自身の内部構造はもちろん、周辺環境にも大きく依存する。中でも、伝搬に伴う外圧の減少によるジェットの膨張が安定性において重要であることが指摘されている。しかしながら、周辺環境はジェット自身が自己生成するコクーンによって決定されるため、最終的にはジェット伝播問題を解く必要がある。
一方で、数値モデルと観測との整合性を検証する上で、プラズマの2温度性が重要な物理となる。高密度かつ低温なプラズマで、電子と陽子はクーロン衝突により瞬時に等温状態へと緩和される。しかし、ジェットのような低密度かつ相対論的温度に達するプラズマでは、電子と陽子はクーロン衝突による緩和が非効率な状態であり、熱緩和時間が系の年齢に匹敵する。従って、電子と陽子は、それぞれ別々の温度を持つ2温度状態となっている可能性が高い。観測量である輻射は電子が担っているため、観測と数値モデルとの比較には電子のエネルギーを正確に求めることが必要不可欠である。
これまでも、周辺環境との相互作用によるジェットの基本構造や安定性についてジェット伝播シミュレーションを用いた数値的研究が数多く行われてきた。しかしながら、数値資源の問題によって、初期ジェット半径の100倍程度の空間分解能MHDシミュレーションしか行われてこなかった。加えて、ジェット伝播問題においてプラズマの2温度性は無視されてきた。そこで、我々は空間5次精度、時間3次精度を担保するMHDコードCANS+とスーパーコンピュータ「富岳」を用いることで、初期ジェット半径の1000倍までの大スケールジェット伝播を追う高空間分解能2温度MHDシミュレーションを目指す。その結果、これまで別々に研究が行われてきたジェット根元でのノット形成と先端領域における巨大なコクーン形成とを一度の計算で取り扱うことが可能となり、ジェットで観測される多層構造の形成起源に迫ることができる。現在は、その準備研究としてに「富岳」を用いて、初期半径の300倍の空間スケールでのジェット伝播シミュレーションを行っている。
本講演では、自身の先行研究として行った2温度ジェット伝播に対する磁気エネルギー依存性についてまず報告する。シミュレーションの結果、ジェットの持つ磁気エネルギーに応じて、支配的となる流体不安定性が異なり、ジェットの形態に変化が見られることがわかった。ガス圧と磁気圧の比であるプラズマベータが100のモデルでは、ジェットはレイリー=テイラー不安定性及びケルビン=ヘルムホルツ不安定が発達することで、大きな減速を受けることがわかった。また、小スケールな乱流がコクーンを満たしていることが確認された。他方で、プラズマベータが1及び5のモデルでは磁気張力によって、上記の二つの流体力学的不安定性の発達が抑えられ、ジェットの収束・安定性に磁場が主要な役割を果たしていることが明らかとなった。しかし、強磁場であることから電流駆動型キンク不安定性の成長時間が短くなり、結果として、プラズマベータが100のモデルとは異なり、ジェットが中心軸から大きく変位することが確認された。
プラズマの2温度性の観点からは、衝撃波によって陽子が優先的に加熱されることで、高温な陽子と低温な電子がコクーンの中を満たす結果となった。本結果は、ジェットの膨張は熱的な陽子が支えていることを示すものである。一方で、熱電子は磁場と相互作用することで、磁場と電子が等エネルギー状態になるように熱進化することがわかった。すなわち、ジェット中の電子温度は、ジェットの持つ磁気エネルギーと正の相関があることを明らかとした。本講演では、これらの結果に加えて、実際に「富岳」計算を実施している大スケールジェット伝播シミュレーションの進捗結果についても報告する。
本研究では、AGNジェットにおける未解決問題の中で、収束・安定性問題に着目する。ジェットは、磁化した超音速流であり、周辺物質との速度シアを持つため、磁気流体力学(MHD)的不安定な系である。特に、ケルビン=ヘルムホルツ不安定、レイリーテイラー不定性、及び電流駆動型キンク不安定性の発達がジェットの運動に対して多大な影響を及ぼすことが指摘されている。これら不安定性の非線形成長は、ジェット自身の内部構造はもちろん、周辺環境にも大きく依存する。中でも、伝搬に伴う外圧の減少によるジェットの膨張が安定性において重要であることが指摘されている。しかしながら、周辺環境はジェット自身が自己生成するコクーンによって決定されるため、最終的にはジェット伝播問題を解く必要がある。
一方で、数値モデルと観測との整合性を検証する上で、プラズマの2温度性が重要な物理となる。高密度かつ低温なプラズマで、電子と陽子はクーロン衝突により瞬時に等温状態へと緩和される。しかし、ジェットのような低密度かつ相対論的温度に達するプラズマでは、電子と陽子はクーロン衝突による緩和が非効率な状態であり、熱緩和時間が系の年齢に匹敵する。従って、電子と陽子は、それぞれ別々の温度を持つ2温度状態となっている可能性が高い。観測量である輻射は電子が担っているため、観測と数値モデルとの比較には電子のエネルギーを正確に求めることが必要不可欠である。
これまでも、周辺環境との相互作用によるジェットの基本構造や安定性についてジェット伝播シミュレーションを用いた数値的研究が数多く行われてきた。しかしながら、数値資源の問題によって、初期ジェット半径の100倍程度の空間分解能MHDシミュレーションしか行われてこなかった。加えて、ジェット伝播問題においてプラズマの2温度性は無視されてきた。そこで、我々は空間5次精度、時間3次精度を担保するMHDコードCANS+とスーパーコンピュータ「富岳」を用いることで、初期ジェット半径の1000倍までの大スケールジェット伝播を追う高空間分解能2温度MHDシミュレーションを目指す。その結果、これまで別々に研究が行われてきたジェット根元でのノット形成と先端領域における巨大なコクーン形成とを一度の計算で取り扱うことが可能となり、ジェットで観測される多層構造の形成起源に迫ることができる。現在は、その準備研究としてに「富岳」を用いて、初期半径の300倍の空間スケールでのジェット伝播シミュレーションを行っている。
本講演では、自身の先行研究として行った2温度ジェット伝播に対する磁気エネルギー依存性についてまず報告する。シミュレーションの結果、ジェットの持つ磁気エネルギーに応じて、支配的となる流体不安定性が異なり、ジェットの形態に変化が見られることがわかった。ガス圧と磁気圧の比であるプラズマベータが100のモデルでは、ジェットはレイリー=テイラー不安定性及びケルビン=ヘルムホルツ不安定が発達することで、大きな減速を受けることがわかった。また、小スケールな乱流がコクーンを満たしていることが確認された。他方で、プラズマベータが1及び5のモデルでは磁気張力によって、上記の二つの流体力学的不安定性の発達が抑えられ、ジェットの収束・安定性に磁場が主要な役割を果たしていることが明らかとなった。しかし、強磁場であることから電流駆動型キンク不安定性の成長時間が短くなり、結果として、プラズマベータが100のモデルとは異なり、ジェットが中心軸から大きく変位することが確認された。
プラズマの2温度性の観点からは、衝撃波によって陽子が優先的に加熱されることで、高温な陽子と低温な電子がコクーンの中を満たす結果となった。本結果は、ジェットの膨張は熱的な陽子が支えていることを示すものである。一方で、熱電子は磁場と相互作用することで、磁場と電子が等エネルギー状態になるように熱進化することがわかった。すなわち、ジェット中の電子温度は、ジェットの持つ磁気エネルギーと正の相関があることを明らかとした。本講演では、これらの結果に加えて、実際に「富岳」計算を実施している大スケールジェット伝播シミュレーションの進捗結果についても報告する。