17:15 〜 18:30
[MGI35-P02] 三次元球殻モデルによる月内部マントルの対流安定性についての数値実験
キーワード:月、熱史、マントル対流、対流安定性、3次元球殻シミュレーション
月の表面には46億年間の火山活動や隕石衝突の証拠がよく残されており、これらを用いて月の形成と進化を研究することは、もっとも単純な岩石惑星進化の解明につながる。月の形成過程として最も有力な巨大衝突説によると、形成期の月の内部は高温で大部分が融解していたことが期待される。しかしこの初期条件から出発して簡単なモデルを用いて月の熱史を再現しようとすると、その結果は観測から制約される月の膨張収縮史、火山活動史、現在の月内部温度構造と整合しない。
これらの問題を解決することを最終目的として月の熱史における対流の効果を再評価する。月の膨張収縮史を説明するために、本研究では月の初期温度分布についてマントル浅部が高温であり深部が比較的低温であるという仮定を与え、月内部の熱的進化を数値的にシミュレートした。熱源を有する球殻熱対流についての線形安定性解析によると、このような温度分布に対応するレイリー数(RaH )は臨界レイリー数を下回り初期には対流が発生しないと予想される。
より具体的に初期温度分布を推定するために、球対称マントルにおける一次元熱拡散方程式を数値的に解き、月内部の温度分布変化と膨張収縮史を観察した。初期温度分布は浅部の温度がマグマオーシャン説に則ってソリダスに達していたものとし、コアマントル境界温度はそれよりも低温であるとした。コアマントル境界温度やソリダスに達する浅部の深さを様々に変化させて膨張収縮史を観察したところ、初期コアマントル境界温度が1000K程度、初期マグマオーシャンの深さが300㎞程度であれば熱伝導による熱史は観測される膨張収縮史と整合的であることが分かった。この初期温度分布を三次元球殻熱対流計算に用いることでより正確に月の熱史を再現することを目指した。
三次元シミュレーションでは三次元球殻内で粘性率が温度に依存する粘性流体の熱対流を差分法で計算した。まず、放射性熱源を球殻内で均一に分布させた簡単な場合を考え、マントルの流動特性(粘性率温度依存性)を変化させて対流の有無とそれによる内部温度分布の変化、膨張収縮史を観察した。次に月表面に存在する地殻とレゴリスの影響を見るために、これらを模した熱伝導率が低く薄い層を地表面付近に与え、熱史を観察した。さらに実際に月の表側に存在するProcellarum KREEP Terraneのような地表面付近の一部分に放射性熱源が濃集する熱源の不均一分布を与え、熱史に与える影響を見た。
計算結果から粘性率の温度依存性を十分に強くすることで初期のレイリー数(RaH )を臨界レイリー数より十分に小さくすると月内部の熱輸送において熱伝導が支配的になり観測から推定されるものに近い膨張収縮を再現できることが示された。熱源均一分布を用いた計算では最近の10億年の熱収縮量が1㎞程度であり、これは観測結果と近い値であった。4.6Gyr経過後の水平平均温度の鉛直プロファイルは拡散プロファイルに近く、これも従来の数値モデルより観測に近い結果となった。またレゴリス、地殻の保温効果を導入することで初期時代約10億年間の膨張量が増えて1㎞程度となり、こちらも観測に近づけることができた。しかしPKTに対応する放射性元素濃集域を導入した場合は、放射性元素が均一に分布する場合と比較して深部マントルが有する放射性熱源が少なくなったため浅部マントルの冷却の効果が強くなり、膨張収縮史を再現することができなかった。
今後の研究では、今回考慮できなかったマントルの溶融による体積変化やマグマの移動によるエネルギーと放射性熱源の移動、初期時代のマグマオーシャンによるマントル分化などの要素を取り入れることでさらに詳細に月の熱史を検証することが求められる。
これらの問題を解決することを最終目的として月の熱史における対流の効果を再評価する。月の膨張収縮史を説明するために、本研究では月の初期温度分布についてマントル浅部が高温であり深部が比較的低温であるという仮定を与え、月内部の熱的進化を数値的にシミュレートした。熱源を有する球殻熱対流についての線形安定性解析によると、このような温度分布に対応するレイリー数(RaH )は臨界レイリー数を下回り初期には対流が発生しないと予想される。
より具体的に初期温度分布を推定するために、球対称マントルにおける一次元熱拡散方程式を数値的に解き、月内部の温度分布変化と膨張収縮史を観察した。初期温度分布は浅部の温度がマグマオーシャン説に則ってソリダスに達していたものとし、コアマントル境界温度はそれよりも低温であるとした。コアマントル境界温度やソリダスに達する浅部の深さを様々に変化させて膨張収縮史を観察したところ、初期コアマントル境界温度が1000K程度、初期マグマオーシャンの深さが300㎞程度であれば熱伝導による熱史は観測される膨張収縮史と整合的であることが分かった。この初期温度分布を三次元球殻熱対流計算に用いることでより正確に月の熱史を再現することを目指した。
三次元シミュレーションでは三次元球殻内で粘性率が温度に依存する粘性流体の熱対流を差分法で計算した。まず、放射性熱源を球殻内で均一に分布させた簡単な場合を考え、マントルの流動特性(粘性率温度依存性)を変化させて対流の有無とそれによる内部温度分布の変化、膨張収縮史を観察した。次に月表面に存在する地殻とレゴリスの影響を見るために、これらを模した熱伝導率が低く薄い層を地表面付近に与え、熱史を観察した。さらに実際に月の表側に存在するProcellarum KREEP Terraneのような地表面付近の一部分に放射性熱源が濃集する熱源の不均一分布を与え、熱史に与える影響を見た。
計算結果から粘性率の温度依存性を十分に強くすることで初期のレイリー数(RaH )を臨界レイリー数より十分に小さくすると月内部の熱輸送において熱伝導が支配的になり観測から推定されるものに近い膨張収縮を再現できることが示された。熱源均一分布を用いた計算では最近の10億年の熱収縮量が1㎞程度であり、これは観測結果と近い値であった。4.6Gyr経過後の水平平均温度の鉛直プロファイルは拡散プロファイルに近く、これも従来の数値モデルより観測に近い結果となった。またレゴリス、地殻の保温効果を導入することで初期時代約10億年間の膨張量が増えて1㎞程度となり、こちらも観測に近づけることができた。しかしPKTに対応する放射性元素濃集域を導入した場合は、放射性元素が均一に分布する場合と比較して深部マントルが有する放射性熱源が少なくなったため浅部マントルの冷却の効果が強くなり、膨張収縮史を再現することができなかった。
今後の研究では、今回考慮できなかったマントルの溶融による体積変化やマグマの移動によるエネルギーと放射性熱源の移動、初期時代のマグマオーシャンによるマントル分化などの要素を取り入れることでさらに詳細に月の熱史を検証することが求められる。