日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS02] アストロバイオロジー

2021年6月3日(木) 15:30 〜 17:00 Ch.26 (Zoom会場26)

コンビーナ:薮田 ひかる(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、杉田 精司(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、深川 美里(国立天文台)、藤島 皓介(東京工業大学地球生命研究所)、座長:藤島 皓介(東京工業大学地球生命研究所)、深川 美里(国立天文台)、杉田 精司(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、薮田 ひかる(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)

15:45 〜 16:00

[MIS02-06] 鉄やモリブデンを含む金属硫黄クラスターの無生物的合成とその触媒機能の評価

*袖井 俊次郎1、Sebastian Sanden1、石川 大輔1、Shawn McGlynn2、原 正彦1 (1.東京工業大学、2.東京工業大学地球生命研究所)

キーワード:化学進化、鉄硫黄クラスター、金属タンパク質

化学進化説は地球上の⽣命の起源を記述する学説として広く受け入れられているが,その化学進化過程における具体的な反応経路やおよび触媒は未だ解明されていない.そこで現在の⽣命に着目すると,金属原子と硫黄原子からなるクラスターを活性中心に有する⾦属タンパク質が代謝系の多くの⽣体反応に対して触媒として作用しており[1],したがってその金属硫黄クラスター自体が化学進化において触媒の役割を果たしたと推測されている[2].しかし,化学進化を想定して金属硫黄クラスターを触媒に用いた反応の報告例は限られており[3],また,その多くは鉄硫黄クラスターを触媒とする反応であり,鉄以外の金属原子を含む金属硫黄クラスターの触媒機能がどのように化学進化に寄与し得るかは明らかになっていない.以上の背景のもと,本研究は,初期地球上の化学進化における金属硫黄クラスターの役割を実験的に評価することを目的とする.具体的には,フェレドキシンなどの鉄硫黄タンパク質の活性中心である鉄硫⻩クラスター[4]に加え,ニトロゲナーゼの活性中⼼の一つである鉄モリブデン硫⻩クラスター[5]に注目し,鉄やモリブデンを構造中に含む金属硫黄クラスターが無生物的に合成され,触媒として機能するか検証を行った.

金属源として塩化鉄(II),塩化鉄(III),テトラチオモリブデン酸アンモニウムを,硫黄源として硫化ナトリウムを,また配位子としてグルタチオン,2-メルカプトエタノールを用い,それらを水溶液中で混合することで,特徴的な紫外可視光吸収スペクトルを持つ溶液が得られた.この結果は,鉄やモリブデンを構造中に含む金属硫黄クラスターが無生物的に合成されたことを示唆している.また,酸化還元指示薬としてアントラキノン-2-スルホン酸を用いた試験により,一部の溶液は酸化還元反応に関与することが確認された.

今後は,有機化合物の還元などの反応におけるクラスターの触媒活性を評価する予定である.

参考文献
[1] J. Winkler & H. Gray, Chem. Rev. 114, 3369-3380 (2014)
[2] L. Belmonte & S. Mansy, Elements 12, 413-418 (2016)
[3] C.Bonfio, et al., Nat. Catal. 1, 616-623 (2018)
[4] P. Venkateswara Rao & R. Holm, Chem. Rev. 104, 527-559 (2004)
[5] C. Van Stappen, et al., Chem. Rev. 120, 5005-5081 (2020)