日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS02] アストロバイオロジー

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.17

コンビーナ:薮田 ひかる(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、杉田 精司(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、深川 美里(国立天文台)、藤島 皓介(東京工業大学地球生命研究所)

17:15 〜 18:30

[MIS02-P05] 小天体における水質変質過程を模擬した加熱及びガンマ線照射実験によるアミノ酸の生成

*石川 あかり1、癸生川 陽子1、依田 功2、小林 憲正1 (1.横浜国立大学、2.東京工業大学)

キーワード:アミノ酸、ガンマ線、水質変質、炭素質コンドライド

小天体における水質変質過程を模擬した加熱及びガンマ線照射実験によるアミノ酸の生成

Amino acid production by heating and gamma-ray irradiation experiments simulating aqueous alteration in small bodies



*石川 あかり1、癸生川 陽子1、依田 功2、小林 憲正1

*Akari Ishikawa1、Yoko Kebukawa1、Isao Yoda2、 Kobayashi1



1.横浜国立大学、2.東京工業大学

1.Yokohama National University、2.Tokyo Institute of Technology


緒言
生命の誕生にはアミノ酸などの生体関連有機物が必須であり、それらは小惑星などを起源とする隕石などにより地球外から持ち運ばれた可能性が考えられている。太陽系形成初期の小惑星では26Alなど短寿命放射性核種の放射性崩壊による熱により、小惑星の氷が溶けて水質変質が起こったことが知られている。このような液体の水を伴う過程において高分子有機物やアミノ酸が生成された可能性がある[1][2]。一方で、26Alなどの崩壊に伴い放出されるガンマ線のエネルギーが直接アミノ酸の形成に寄与する可能性も考えられる。この説をもとに、小惑星の水質変成を 模擬した実験で、HCHO、NH3水溶液を加熱またはガンマ線照射するとアミノ酸前駆体が形成されることかがわかった[3]。本研究では、小惑星内に存在すると考えられるHCHO,NH3,グリコールアルデヒド ,ヘキサメチレンテトラミン(HMT)等を含む水溶液を加熱またはガンマ線照射することによって、ガンマ線がアミノ酸の生成にどのような影響を与えるのかについて検討した。


実験
出発物質として(1)HCHO:グリコールアルデヒド:NH3:Ca(OH)2:H2O=3.60:1.80:0.72:0.36:100、(2)HMT:HO=1:100、(3)HCHO:NH3:H2O=5:5:100のモル比率の混合溶液を調製し、200μLずつガラス管内に真空封管した。3種類の試料をそれぞれ加熱(150℃で24,48,72 h)または60Co線源(東工大)からのガンマ線照射(0.5, 1.5 kGy/hで5, 20 h)を行った。生成物は6Mの塩酸で酸加水分解を行い(110 ℃で24 h)、遠心乾燥した後、陽イオン交換高速液体クロマトグラフィーでアミノ酸の分析を行った。


結果
アミノ酸標準溶液試料の分析のより、各アミノ酸の保持時間とピークのクロマトグラムを得た。(1)〜(3)の試料の分析によって得られたアミノ酸はグリシン(Gly)、アラニン(Ala)、β-アラニン(β-Ala)を中心に、各試料2種類から10種類であった。他にも、セリン(Ser)やロイシン(Leu)、β-アミノイソ酪酸(β-AiBA)などが検出された。検出したアミノ酸の種類は加熱とガンマ線照射どちらの場合も(3)の系の試料が最も多く、ガンマ線照射の場合、(2)の系、(1)の系の順に、加熱の場合、(1)の系、(2)の系の順であった。また、アミノ酸の全生成量はガンマ線照射試料、加熱試料ともに(3)の系が最も多く、続いて(1)の系、(2)の系であった。

ガンマ線を照射した試料を生成量が多いGlyとAlaについて定量分析した結果について話す。加熱試料、ガンマ線照射試料のどちらも(3)の系が最大の生成量を検出した。(1)、(2)の系はAlaよりもGlyの方が多く、(3)の系はAlaの方がより多く検出された。

加熱試料とガンマ線照射試料を比較すると、(1)と(3)の系ではガンマ線照射試料の方が検出されたアミノ酸の種類が多いが、検出されたアミノ酸のほとんどが加熱した方が生成量が多い。(2)の系は加熱試料とガンマ線照射試料で生成されたアミノ酸の種類が大きく異なった。

加熱時間の差で比較した時、加熱時間が長い試料の方がアミノ酸の生成量が多かった。特に、(1)と(2)の系はGly, Ala, β-Alaなどが特に時間に応じて生成量も増加していた。一方、ガンマ線照射量の差で比較した時、照射線率と照射時間が異なる4つの条件の結果で、若干総照射線量が多い方がアミノ酸の生成量が多かったが強い相関関係は確認できなかった。

(2)の生成量が少なかったのは、HMTは一部がHCHOとNH3に分解していたためであると考えられる[4]。また、(1)の生成量が少なかったのは、HCHO、グリコールアルデヒドに比べてNH3が少なかったためと考えられます。また、アミノ酸以外の高分子が生成した可能性も考えられます。


結言
本研究によって、加熱やガンマ線照射などのエネルギーを加えると無機物からアミノ酸の前駆体となる有機物が生成されることがわかった。加熱は長時間行った方がより多くのアミノ酸前駆体が得られると考えられるが、ガンマ線照射は照射量によっての生成量の違いは明確にはできなかった。また、3つの系を出発物質としたところ、(3)の系が最も多くの量と種類のアミノ酸前駆体を生成していることがわかった。


参考文献
[1] G. D. Cody et al., PNAS 2011, 108, 19171-16.

[2] Y. Kebukawa et al., Sci. Adv. 2017, 3, e1602093.

[3] Y. Kebukawa et al., 81st Annual Meeting of The Meteoritical Society, 2018, LPI Contribution No. 2067.

[4] V. Vinogradoff et al., ACS Earth Space Chem. 2020, 4, 1398-1407.