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[MIS11-02] 湖と河川における溶存有機物の分子サイズ別の生分解速度
キーワード:水圏環境、溶存有機物、分子サイズ、琵琶湖、微生物
湖沼、河川、海洋などの水圏環境中の溶存有機物(DOM)は、多種多様かつ挙動の異なる有機分子の混合物であり、その特性や動態の理解には、DOM全体(バルク)の分析だけではなく、DOMの中身を細かく分けて調べることが重要になる。これまでに、DOMの特性の中でも、特に分子サイズと生分解性が関連する傾向が明らかになり、「サイズ-反応性連続体モデル」(比較的易分解な高分子DOMが分解を受けて、難分解な低分子DOMに徐々に変換されていくとするモデル)が提唱されている(Amon & Benner, 1996, Limnol. Oceanogr. 41:41-51; Benner & Amon, 2015, Annu. Rev. Mar. Sci. 7:185–205)。しかし、天然レベル濃度(特に中~貧栄養湖や海洋遠洋域などDOM濃度の低い環境)の水圏DOMについて、分子サイズ別の生分解過程を直接調べた研究は乏しい。そのため、DOMの分子サイズと生分解性の詳細な対応関係や、関係性のメカニズムについては、謎が多い。
本研究では、琵琶湖および野洲川(琵琶湖への代表的な流入河川)の天然DOMについて、長期生分解実験により分子サイズ別に生分解速度を推定した。試料は、2018年8月には琵琶湖の成層期表層(湖底水深89mの北湖17B地点の水深5m:LB1808)で、2019年8月には野洲川河口付近(YR1908)で、2020年3月には琵琶湖の循環期深層(北湖17B地点の水深60 m:LB2003)で採取した。分解実験は、暗所20℃で行い、200~400日以上の期間について時系列でDOM試料を採取した。DOM試料について、サイズ排除クロマトグラフ-全有機炭素計(HPSEC-TOC:国立環境研究所と島津製作所による共同開発)で分析し、溶存有機炭素(DOC)の分子サイズ分布を定量した。これにより、時間経過に伴う水圏DOM分子サイズ分布の変化を、低濃度な高分子DOMも含めて有機炭素量ベースで初めて詳細に追跡した。
琵琶湖湖水および野洲川河川水のDOMは、沿岸海洋や霞ヶ浦の天然DOMをHPSEC-TOC分析した先行研究(Shimotori et al., 2016, Limnol. Oceanogr. Meth. 14:637-648)と同様に、重量平均分子量が150kDa程度の高分子DOMと、重量平均分子量が2kDa程度の低分子DOMの二つのピークに分かれた。実験0日目での高分子DOMと低分子DOMの有機炭素濃度はそれぞれ、LB1808では0.132 mgC/L、1.025 mgC/L、YR1908では0.09 mgC/L、1.093 mgC/L、LB2003では0.101 mgC/L、0.965 mgC/Lだった。高分子DOMは、本研究の実験の時間スケールでは、すべて準易分解性であり、LB1808では101日目、YR1908では53日目、LB2003では191日目で、それぞれ有機炭素濃度が検出限界以下となった。一方で低分子DOMは、LB1808では402日目で0.669 mgC/L、YR1908では406日目で0.699 mgC/L、LB2003では251日目で0.800 mgC/Lが残存していた。そのため、低分子DOMは、数十日~数百日スケールで分解される準易分解性画分(SLDOM)と、数百日経過後も分解されない難分解性画分(RDOM)の混合であることが示唆された。つまり、琵琶湖湖水と野洲川河川水のDOMは、三つの画分の混合(①高分子DOMが10%程度、②低分子SLDOMが30%程度、③低分子RDOMが60%程度)として近似できる。各実験において、高分子DOMの分解速度(分解速度定数k-dが0.02~0.04程度)は、低分子SLDOM(分解速度定数k-dが0.01~0.02程度)よりも2倍程度速く、「サイズ-反応性連続体モデル」と整合的だった。一方で、低分子SLDOMと低分子RDOMの重量平均分子量はほぼ同じだったため、低分子DOMピークの中では分子サイズと生分解性が対応しておらず、「サイズ-反応性連続体モデル」とは整合的ではない結果となった。
本研究では、琵琶湖および野洲川(琵琶湖への代表的な流入河川)の天然DOMについて、長期生分解実験により分子サイズ別に生分解速度を推定した。試料は、2018年8月には琵琶湖の成層期表層(湖底水深89mの北湖17B地点の水深5m:LB1808)で、2019年8月には野洲川河口付近(YR1908)で、2020年3月には琵琶湖の循環期深層(北湖17B地点の水深60 m:LB2003)で採取した。分解実験は、暗所20℃で行い、200~400日以上の期間について時系列でDOM試料を採取した。DOM試料について、サイズ排除クロマトグラフ-全有機炭素計(HPSEC-TOC:国立環境研究所と島津製作所による共同開発)で分析し、溶存有機炭素(DOC)の分子サイズ分布を定量した。これにより、時間経過に伴う水圏DOM分子サイズ分布の変化を、低濃度な高分子DOMも含めて有機炭素量ベースで初めて詳細に追跡した。
琵琶湖湖水および野洲川河川水のDOMは、沿岸海洋や霞ヶ浦の天然DOMをHPSEC-TOC分析した先行研究(Shimotori et al., 2016, Limnol. Oceanogr. Meth. 14:637-648)と同様に、重量平均分子量が150kDa程度の高分子DOMと、重量平均分子量が2kDa程度の低分子DOMの二つのピークに分かれた。実験0日目での高分子DOMと低分子DOMの有機炭素濃度はそれぞれ、LB1808では0.132 mgC/L、1.025 mgC/L、YR1908では0.09 mgC/L、1.093 mgC/L、LB2003では0.101 mgC/L、0.965 mgC/Lだった。高分子DOMは、本研究の実験の時間スケールでは、すべて準易分解性であり、LB1808では101日目、YR1908では53日目、LB2003では191日目で、それぞれ有機炭素濃度が検出限界以下となった。一方で低分子DOMは、LB1808では402日目で0.669 mgC/L、YR1908では406日目で0.699 mgC/L、LB2003では251日目で0.800 mgC/Lが残存していた。そのため、低分子DOMは、数十日~数百日スケールで分解される準易分解性画分(SLDOM)と、数百日経過後も分解されない難分解性画分(RDOM)の混合であることが示唆された。つまり、琵琶湖湖水と野洲川河川水のDOMは、三つの画分の混合(①高分子DOMが10%程度、②低分子SLDOMが30%程度、③低分子RDOMが60%程度)として近似できる。各実験において、高分子DOMの分解速度(分解速度定数k-dが0.02~0.04程度)は、低分子SLDOM(分解速度定数k-dが0.01~0.02程度)よりも2倍程度速く、「サイズ-反応性連続体モデル」と整合的だった。一方で、低分子SLDOMと低分子RDOMの重量平均分子量はほぼ同じだったため、低分子DOMピークの中では分子サイズと生分解性が対応しておらず、「サイズ-反応性連続体モデル」とは整合的ではない結果となった。