日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[M-IS11] 生物地球化学

2021年6月4日(金) 09:00 〜 10:30 Ch.16 (Zoom会場16)

コンビーナ:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、稲垣 善之(森林総合研究所)

10:00 〜 10:15

[MIS11-05] なぜラワンブキは大きいのか?

*智和 正明1、内海 泰弘1、田代 直明1、安田 悠子1,4、篠塚 賢一1,3、楊 茹1、長野 菜穂1、村田 秀介1、中村 琢磨1、山内 康平1、壁村 勇ニ1、安藤 達郎2、澤村 寛2 (1.九州大学農学部附属演習林、2.足寄動物化石博物館、3.福岡工業大学、4.国立研究開発法人森林研究・整備機構)

キーワード:ラワンブキ、河川水質、農作物

1. はじめに
 ラワンブキはアキタブキの一種で,北海道足寄町を流れる螺湾(らわん)川や茂足寄(もあしょろ)川に沿って生育している.ラワンブキはわずか2ヶ月で約2 mまで成長し,近隣河川と比べて巨大化する.しかし,その理由についてはよくわかっていない.
 そこで螺湾川や近隣河川で水質調査を予備的に行ったところ,螺湾川上流は近隣河川(利別川)と比べてミネラル,窒素濃度が特異的に高いことがわかった.このことから,河川上流に含まれる豊富な栄養分がラワンブキを大きくさせている可能性がある.本研究では,1) 河川水質を詳細に調査し,2) ラワンブキの生育環境とラワンブキの成長との関係について解析し,3) ラワンブキの生育環境を模した施肥実験を行った.

2. 方法
1) 河川水質
螺湾川,茂足寄川,近隣河川を含む多地点で河川水を採取した.採水は2015年8月から2016年7月にかけて1−3ヶ月に1回の頻度で合計4回行った.採水した河川水の電気伝導度(EC),窒素成分(NO3-),ミネラル成分(K+, Mg2+, Ca2+),リン成分(SRP)を分析した.

2) 生育環境
ラワンブキの生育環境に関する野外調査を螺湾川沿い 3地点(R1,R2,R3),と対照区の近隣河川(利別川)沿いの3地点(T1,T2,T3)で行った.ラワンブキの収穫期にあたる6月に各地点のラワンブキを刈り取り,地上部バイオマス量や大きさを計測し,土壌の水や栄養環境(水分量,pH,電気伝導度,無機態窒素含有量,窒素無機化速度,可給態リン含有量)を調べた.

3) 施肥実験
圃場において,対照区(C),施肥区(N),灌水区(W),施肥+灌水区(N+W)の4つの処理区(各処理区の大きさは1 m × 4 m)を設置し,2016年10月にフキ地下茎を植えた.処理はフキの成長期にあたる4月下旬−6月上旬に2年間(2018年,2019年)行い,処理後に地上部バイオマス量や大きさを計測した.

3. 結果と考察
1) 河川水質
窒素成分(NO3-),リン成分(SRP),ミネラル成分(K+,Mg2+,Ca2+)はラワンブキが巨大化する螺湾川や茂足寄川で高濃度だった.螺湾川上流と茂足寄川上流域を構成する地質が近接河川流域の地質と著しく異なっていることから,地質が原因で螺湾川や茂足寄川の水質が特異的である可能性が示唆された.

2) 生育環境
螺湾川沿いに生育するラワンブキは近隣の河川(利別川)沿いに生育するフキと比べて著しく大きかった.螺湾川沿いの土壌の水分量や栄養分(窒素,リン)の含有量が多く,地上部バイオマス量と有意な正の相関関係がみられた.このことから水や栄養分が豊富な土壌の生育環境がラワンブキを大きくさせている要因と考えられた.

3) 施肥実験
フキの地上部バイオマス量や大きさ(高さ,茎径など)は施肥区や施肥+灌水区で値が高かった.このことから,土壌に栄養分が加わることでフキが大きくなることがわかった.

4. 結論
以上のことから,ラワンブキが大きいのは,螺湾川,茂足寄川上流に含まれる豊富な栄養分がラワンブキの成長を促進させているためであると考えられた.

出版物
Chiwa, M. et al. Nutrients exported from upland stream water enlarge perennial biomass crops. Scientific Reports 11, 2200, doi:10.1038/s41598-021-81191-x (2021).