10:45 〜 11:00
[MIS11-07] 北方林における林床植生の除去が土壌の無機窒素量と外生菌根菌組成に及ぼす影響
キーワード:ミズナラ、クマイザサ、アンモニウム態窒素、硝酸態窒素、根端
森林において樹木と林床植生は地下資源をめぐって競争関係にある.林床植生の中には生産量において樹木に匹敵もしくは樹木を上回るものがあることが知られている.ササは日本の冷温帯林の代表的な林床植生の一つであり,そのバイオマスや生産量の森林全体に対する寄与は大きいことが報告されている一方,近年シカの被食により急激に減少している.他方,ほとんどの陸上植物は菌根菌と共生関係を結んでおり,ササを含む多くの草本植物はAM菌と共生している一方で,樹木ではEcM菌との共生関係がみられる.しかし,EcM菌根の形成や群集組成と土壌-植生間の窒素動態などの生態系機能の関係は,植生の構造や環境要因によっても変わりうるにもかかわらず不明な点が多い.AM菌と共生する林床植生の減少は,森林におけるEcMの動態やEcMと窒素動態との関係に影響を与える可能性がある.本研究では,ササ消失が土壌の窒素態動態とEcM動態に及ぼす影響を明らかにするため,ササ地上部を実験的に除去し,その前後で土壌中の無機態窒素量や土壌理化学性,外生菌根化率,EcMの群集組成を調べた.ササ除去後にはササによる窒素吸収が減少するため土壌中の無機態窒素量は増加し,EcM菌根の形成,EcM菌組成は変化するだろうと予想した.
北海道北部に位置する北海道大学中川研究林の天然生冷温帯林内に生育する成熟したミズナラ(Quercus crispula)個体の周囲に半径8mのプロットを12個設定した.そのうち半数のササ除去区においては2017年6月に林床に生育するクマイザサ(Sasa senanensis)地上部を刈り取り,プロット外へ搬出した.除去前の2017年5月と除去後の2017年9月に表層10㎝の土壌を樹冠下にて採取した.実験室に持ち帰った土壌サンプルについて,土壌含水率を測定した.また,0.5M K2SO4(土壌:0.5M K2SO4=1:10)を用いた土壌抽出により,土壌中の無機態窒素量および,土壌中の溶存有機炭素(DOC),溶存有機窒素(DON)を測定した.微生物バイオマス炭素(MBC),微生物バイオマス窒素(MBN)をクロロホルム燻蒸法により測定した.また,ササ除去前の2016年10月と除去後の2017年9月にミズナラ樹幹の周囲においてミズナラ根を採取した.実体顕微鏡を用いサンプル当たり300根端を観察し,EcM菌根・非菌根を計数した.EcM菌根はさらに菌鞘の形態からタイプごとに根端数を記録した.全根端に占めるEcM菌根の割合を菌根化率とした.各タイプのEcM根端をDNA抽出後にシーケンス分析を行い,ヌクレオチド検索による相同性解析を行ってOTU(operational taxonomic unit)を同定した.EcM菌の群集構造について,非計量多次元尺度法(NMDS)およびPerMANOVAによる解析により,各処理区での群集構造およびササ除去処理と土壌環境が群集構造に及ぼす影響について検討した.
土壌中の無機態窒素,DOC,DON,DOC/DON,MBC,MBNおよびMBC/MBNに処理区間で有意な差はみられなかった.EcMの菌根化率は処理前後ともササ除去処理区間で有意な差はなかった.またその処理前後での変化率も同様に有意ではなかった.EcM組成に関してはササ除去前後にそれぞれ11OTU,10OTUが同定された.処理前後ともに優占していたのはHelotiales,Russula,Lactariusであった.群集構造解析の結果,処理前後または処理区間で有意な差はみられず,ササ除去処理によるEcM菌の群集構造の変化はなかった.またササ除去処理およびいずれの土壌環境要因もEcM菌の群集構造に有意に影響していなかった.このようにEcM菌の群集構造がササ除去前後で安定していたのは,ササ除去前後で土壌環境が比較的安定していたこと,そして根端のEcM菌相は宿主の樹木が残存している場合には短期では変化しにくいためであると考えられた.また,ササ除去前にも優占種であったRussula,Lactariusは窒素が豊富な環境で出現することが報告されており,本調査地のササ除去前の土壌窒素環境が貧栄養ではなかったためである可能性もある.以上から冷温帯林におけるササ除去後の短期間では,土壌窒素動態とEcM菌組成の変化は小さいことが示された.
北海道北部に位置する北海道大学中川研究林の天然生冷温帯林内に生育する成熟したミズナラ(Quercus crispula)個体の周囲に半径8mのプロットを12個設定した.そのうち半数のササ除去区においては2017年6月に林床に生育するクマイザサ(Sasa senanensis)地上部を刈り取り,プロット外へ搬出した.除去前の2017年5月と除去後の2017年9月に表層10㎝の土壌を樹冠下にて採取した.実験室に持ち帰った土壌サンプルについて,土壌含水率を測定した.また,0.5M K2SO4(土壌:0.5M K2SO4=1:10)を用いた土壌抽出により,土壌中の無機態窒素量および,土壌中の溶存有機炭素(DOC),溶存有機窒素(DON)を測定した.微生物バイオマス炭素(MBC),微生物バイオマス窒素(MBN)をクロロホルム燻蒸法により測定した.また,ササ除去前の2016年10月と除去後の2017年9月にミズナラ樹幹の周囲においてミズナラ根を採取した.実体顕微鏡を用いサンプル当たり300根端を観察し,EcM菌根・非菌根を計数した.EcM菌根はさらに菌鞘の形態からタイプごとに根端数を記録した.全根端に占めるEcM菌根の割合を菌根化率とした.各タイプのEcM根端をDNA抽出後にシーケンス分析を行い,ヌクレオチド検索による相同性解析を行ってOTU(operational taxonomic unit)を同定した.EcM菌の群集構造について,非計量多次元尺度法(NMDS)およびPerMANOVAによる解析により,各処理区での群集構造およびササ除去処理と土壌環境が群集構造に及ぼす影響について検討した.
土壌中の無機態窒素,DOC,DON,DOC/DON,MBC,MBNおよびMBC/MBNに処理区間で有意な差はみられなかった.EcMの菌根化率は処理前後ともササ除去処理区間で有意な差はなかった.またその処理前後での変化率も同様に有意ではなかった.EcM組成に関してはササ除去前後にそれぞれ11OTU,10OTUが同定された.処理前後ともに優占していたのはHelotiales,Russula,Lactariusであった.群集構造解析の結果,処理前後または処理区間で有意な差はみられず,ササ除去処理によるEcM菌の群集構造の変化はなかった.またササ除去処理およびいずれの土壌環境要因もEcM菌の群集構造に有意に影響していなかった.このようにEcM菌の群集構造がササ除去前後で安定していたのは,ササ除去前後で土壌環境が比較的安定していたこと,そして根端のEcM菌相は宿主の樹木が残存している場合には短期では変化しにくいためであると考えられた.また,ササ除去前にも優占種であったRussula,Lactariusは窒素が豊富な環境で出現することが報告されており,本調査地のササ除去前の土壌窒素環境が貧栄養ではなかったためである可能性もある.以上から冷温帯林におけるササ除去後の短期間では,土壌窒素動態とEcM菌組成の変化は小さいことが示された.