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[MIS11-08] 降雨に伴う渓流水硝酸濃度増大の原因解明とその大気硝酸直接流出率算出への影響評価
キーワード:窒素飽和、森林渓流水、直接流出率、降雨、大気硝酸
森林生態系は一般に窒素栄養塩が欠乏していると考えられている。しかし、大気沈着などを通じて大量の窒素が負荷されている森林生態系では、高濃度の窒素が硝酸(NO3-)の形で渓流水を通じて流出する「窒素飽和」と呼ばれる現象が見られることがある。硝酸に富む渓流水は、下流域の湖沼や沿岸海域に対して、富栄養化をもたらしたり、大気に対する温室効果ガス(N2O)放出量を増大させたりする可能性がある。Nakagawa et al.(2018)では、大気から沈着する硝酸が17Oを異常濃縮していることを利用することで、大気硝酸の「直接流出率」、すなわち各森林生態系に沈着した大気硝酸の中で、森林生態系に利用されずに渓流水を通じて直接流出する大気硝酸の比率を正確に見積もった。そして、この直接流出率を指標とすることで、各森林生態系の窒素循環を定量化したり、窒素飽和ステージを客観的に評価したりできることを示した。しかし、森林渓流水中の硝酸濃度は降雨などに伴って短時間に大きく変動することが知られている。このような降雨に伴って流出する硝酸の大気硝酸の含有率が、通常時に流出する硝酸の大気硝酸の含有率と大きく異る場合、通常時の渓流水のみの観測から見積もった大気硝酸の流出率は過大もしくは過小評価になる恐れがある。したがって、渓流水中の異常な濃度増大の原因や、この変動が大気硝酸の直接流出率に与える影響を明らかにすることは極めて重要である。
そこで本研究は、大気硝酸の直接流出率が測定・報告されている新潟県の加治川森林集水域(KJ)と岐阜県の伊自良湖森林集水域(IJ1)で渓流水の観測を行った。加治川森林集水域(KJ)では2017年5月から2020年3月までの期間に月1回の頻度で採水を行った他、降雨に伴って渓流水が増水した2019年8月12日(8月)と2019年10月22日(10月)に1時間おきに24時間の集中採水を行った。伊自良湖森林集水域(IJ1)では2017年5月から2019年12月までの期間に月2回の頻度で採水し、この中で降水に伴って観測された硝酸濃度増大イベントに関してその詳細を解析した。渓流水中の硝酸濃度は、イオンクロマトグラフを用いて定量し、硝酸のδ15N値とδ18O値はChemical Conversion法を用いてNO3-をN2O化した後、連続フロー型質量分析システム(CF-IRMS)で定量した。Δ17O値は780 °Cの金チューブを用いてオンラインでO2化した上でCF-IRMSに導入し測定した。
加治川集水域(KJ)で24時間連続採水した渓流水の硝酸濃度は、いずれも渓流水の流量の増減と同期して変動し、降雨開始前の硝酸濃度である30 µmol/Lから最大130 µmol/Lに上昇した。一方、硝酸のΔ17O値は、濃度の増加とは逆相関して変動し、Δ17O値と硝酸濃度の逆数の間には明瞭な直線関係(p<0.001)が見られた。直線の切片として求められる高濃度側の端成分の硝酸のΔ17O値は+0.10~ +0.15‰となり、Nakagawa et al.(2018)が報告した河畔部土壌水中の硝酸のΔ17O値(+0.10〜+0.20‰)と一致した。降雨に伴う硝酸濃度の上昇は降雨に伴う増水によって水位が上昇し、河畔部の土壌水中の高濃度の硝酸が渓流水中に流出することで引き起されていると結論した。増水時の渓流水中の平均大気硝酸濃度を求めると、8月は1.7±0.2 µmol/L、10月は1.8±0.3 µmol/Lとなり、同月の大気硝酸濃度である1.6±0.3 µmol/L(8月)や1.8±0.3 µmol/L(10月)と比べて有意な差は見られなかった。つまり、降雨に伴う硝酸濃度の上昇は主に土壌中の硝化反応由来の再生硝酸の流出によって引き起こされるものであって、渓流水中の硝酸の濃度上昇が大気硝酸の直接流出率に与える影響は無視できると結論した。
一方伊自良湖集水域(IJ1)では、2018年8月12日の降雨に伴って、年平均値の2.5倍ほどの高濃度の硝酸(約64.1 µmol/L)が観測された。一方、この時の大気硝酸濃度は3.4±0.4 µmol/Lとなり、2018年7月31日の1.5±0.2 µmol/Lや2018年8月31日は+1.2±0.1 µmol/Lと比べて、有意に増加していることが明らかになった。つまりIJ1における降雨に伴う渓流水硝酸濃度の増大においては、土壌中の硝化反応由来の再生硝酸の流出量だけではなく、大気硝酸の流出量も同時に増大したことが明らかになった。そこでIJ1では、降雨に伴う硝酸濃度増大や大気硝酸増大の応答を降水量の関数として定式化することで、渓流水中の硝酸の濃度上昇が大気硝酸の直接流出率に対して与える影響を定量化した。
謝辞:伊自良湖集水域の試料は、環境省越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング事業によって得られた。加治川集水域の集中調査は、科研費研究(JP19H00955)の支援を得た。
そこで本研究は、大気硝酸の直接流出率が測定・報告されている新潟県の加治川森林集水域(KJ)と岐阜県の伊自良湖森林集水域(IJ1)で渓流水の観測を行った。加治川森林集水域(KJ)では2017年5月から2020年3月までの期間に月1回の頻度で採水を行った他、降雨に伴って渓流水が増水した2019年8月12日(8月)と2019年10月22日(10月)に1時間おきに24時間の集中採水を行った。伊自良湖森林集水域(IJ1)では2017年5月から2019年12月までの期間に月2回の頻度で採水し、この中で降水に伴って観測された硝酸濃度増大イベントに関してその詳細を解析した。渓流水中の硝酸濃度は、イオンクロマトグラフを用いて定量し、硝酸のδ15N値とδ18O値はChemical Conversion法を用いてNO3-をN2O化した後、連続フロー型質量分析システム(CF-IRMS)で定量した。Δ17O値は780 °Cの金チューブを用いてオンラインでO2化した上でCF-IRMSに導入し測定した。
加治川集水域(KJ)で24時間連続採水した渓流水の硝酸濃度は、いずれも渓流水の流量の増減と同期して変動し、降雨開始前の硝酸濃度である30 µmol/Lから最大130 µmol/Lに上昇した。一方、硝酸のΔ17O値は、濃度の増加とは逆相関して変動し、Δ17O値と硝酸濃度の逆数の間には明瞭な直線関係(p<0.001)が見られた。直線の切片として求められる高濃度側の端成分の硝酸のΔ17O値は+0.10~ +0.15‰となり、Nakagawa et al.(2018)が報告した河畔部土壌水中の硝酸のΔ17O値(+0.10〜+0.20‰)と一致した。降雨に伴う硝酸濃度の上昇は降雨に伴う増水によって水位が上昇し、河畔部の土壌水中の高濃度の硝酸が渓流水中に流出することで引き起されていると結論した。増水時の渓流水中の平均大気硝酸濃度を求めると、8月は1.7±0.2 µmol/L、10月は1.8±0.3 µmol/Lとなり、同月の大気硝酸濃度である1.6±0.3 µmol/L(8月)や1.8±0.3 µmol/L(10月)と比べて有意な差は見られなかった。つまり、降雨に伴う硝酸濃度の上昇は主に土壌中の硝化反応由来の再生硝酸の流出によって引き起こされるものであって、渓流水中の硝酸の濃度上昇が大気硝酸の直接流出率に与える影響は無視できると結論した。
一方伊自良湖集水域(IJ1)では、2018年8月12日の降雨に伴って、年平均値の2.5倍ほどの高濃度の硝酸(約64.1 µmol/L)が観測された。一方、この時の大気硝酸濃度は3.4±0.4 µmol/Lとなり、2018年7月31日の1.5±0.2 µmol/Lや2018年8月31日は+1.2±0.1 µmol/Lと比べて、有意に増加していることが明らかになった。つまりIJ1における降雨に伴う渓流水硝酸濃度の増大においては、土壌中の硝化反応由来の再生硝酸の流出量だけではなく、大気硝酸の流出量も同時に増大したことが明らかになった。そこでIJ1では、降雨に伴う硝酸濃度増大や大気硝酸増大の応答を降水量の関数として定式化することで、渓流水中の硝酸の濃度上昇が大気硝酸の直接流出率に対して与える影響を定量化した。
謝辞:伊自良湖集水域の試料は、環境省越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング事業によって得られた。加治川集水域の集中調査は、科研費研究(JP19H00955)の支援を得た。