日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS11] 生物地球化学

2021年6月4日(金) 10:45 〜 12:15 Ch.16 (Zoom会場16)

コンビーナ:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、座長:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)

11:15 〜 11:30

[MIS11-09] 四万十川森林流域における塩素の動態

*稲垣 善之1、酒井 寿夫1、鳥居 厚志1、篠宮 佳樹1、藤井 一至1 (1.森林総合研究所)

キーワード:塩化物イオン、森林、海塩

森林生態系におけるCl-の供給は、海塩と石炭燃焼などの人為起源の2つの供給源がある。四万十川流域の森林生態系における観測では、林外雨によるCl-供給量に対して、渓流水からのCl-流出量が上回っている。また20年間で降水や渓流水のCl-が低下する傾向が認められている。これらのことから、乾性降下物に由来するCl-が林内雨として多く供給されること、乾性降下物によるCl-の供給は経時的に変化することが予想される。このことを明らかにするために、本研究では、約1年間にわたり四万十川流域のモミ天然林、スギ・ヒノキ人工林における林内雨と林外雨によるCl-の供給を明らかにすること、20年間における降水によるCl-の供給と森林流域に塩化物イオンの流出を明らかにすることを目的とする。

 2020年2月~2021年1月までの観測で、モミ、スギ、ヒノキ林におけるCl-の供給は、それじれ1.75 kmolc ha-1,0.95 kmolc ha-1,0.82 kmolc ha-1であり、林外雨(0.60 kmolc ha-1)のそれぞれ2.9倍,1.6倍.1.4倍を示した。非海塩性のCl-は林外雨およびモミ、スギ、ヒノキ林の林内雨でそれぞれ1%,17%,11%、11%を占めた。非海塩性の起源としては樹冠による交換と人為起源による乾性降下物の2つの起源がある。モミ林ではK+の溶脱が大きく(1.35 kmolc ha-1)、K+とともにCl-が移動したと考えられる。また、春季にはカリウム濃度の増加を伴わない非海塩性の塩素の供給も認められ、人為起源によるものであると推察された。

 2000年から2019年までの20年間において、林外雨によるCl-供給量の平均は0.65 kmolc ha-1であり、モミ林、人工林におけるCl-流出量はそれぞれ1.54 kmolc ha-1、1.17 kmolc ha-1であった。Cl-供給量に対するCl-流出量の比はそれぞれ2.4倍、1.8倍であった。前述の林内雨の結果の比を用いて収支を計算すると、モミ林では林内雨による供給量より流出量のほうが小さく、人工林では流出量のほうが大きくなった。モミ林では樹冠内でのCl-の交換が大きく、その分Cl-供給量を過大に評価したと考えられる。測定期間について前半と後半の10年ごとに平均値を算出すると、後半のCl-の供給量は前半の0.76倍の値を示した。一方、モミ林と人工林の流出量はそれぞれ0.86倍、0.85倍を示した。供給と流出が等しいと仮定すると全体のCl-供給量に対する乾性降下物によるCl-供給量の割合が後半10年間で大きいことが示唆された。