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[MIS11-12] 日本各地域の農地の栄養塩流出に関するフットプリント分析
キーワード:RUSLEモデル、窒素フットプリント、リンフットプリント、産業連関分析
降雨に伴う土壌侵食は、土壌とともに施肥された栄養塩の一部を水圏に流出させ、水質汚染や富栄養化の一因となる。食料システム全体を通じて栄養塩の環境への流出を防ぐ対策を立案するためには、サプライチェーンを通じた栄養塩流出と消費の定量的関係の情報が必要である。資源消費によってサプライチェーンを通じて誘発される環境への窒素・リンのロス量を窒素・リンフットプリントという。本研究は、日本各地域の水田を除く農地からの降雨による土壌侵食に伴う窒素・リン流出量が、どの地域の水稲を除く農作物の消費と結びついているのかについて、産業連関表を用いたフットプリント解析により定量的に明らかにすることを目的とする。
土砂侵食量推定モデルであるRevised Universal Soil Loss Equation (RUSLE)を用いて2011年の水田を除く農地(平坦なため水田からの土砂侵食量は無視できると仮定した)の土壌侵食量を1 kmメッシュごとに算出した。RUSLEでは、年間土壌侵食量Y [t ha-1 year-1]を式Y = R·K·LS·C·P (1)で表す。ここで、Rは降雨係数[MJ mm ha-1 hour-1 year-1]、Kは土壌係数[t hour MJ-1 mm-1]、LSは地形係数[無次元]、Cは作物係数[無次元]、Pは保全管理係数[無次元]である。Rは、降雨の浸食エネルギーを表す係数で、有働(2019)に倣い、年間の降雨事象数n、任意の降雨事象iにおける降雨強度Ii [mm hour-1]から与えられる降雨1 mmあたりの運動エネルギー[MJ ha-1 mm-1]、降雨量ri [mm]、60分間最大雨量I60i [mm hour-1]によって、式R=∑ni=1(0.119+0.0873 log Ii) ri I60i (2)で求めた。降雨データは、(財)気象業務支援センターのレーダー・アメダス解析雨量(1 km解像度で、1時間雨量のデータ)を用いた。ここでは、降雪量も降雨量とみなした。Kは、土壌の流れやすさを示す係数で、土壌環境基礎調査4巡目(1994~1998年)の383地点の作土層(第1層)データを用いて、谷山(2003)と同様に、100K={2.1M1.14(10-4)(12- α)+3.25(β-2)+2.5(γ-3)}×0.1317 (3)、M=(μ+ν)(100-ξ) (4)の2式より推計した。ここで、α は土壌の有機物含量[%]、β は土壌構造コード[無次元]、γ は土壌断面の透水性を示す飽和透水係数コード[無次元]、μ はシルト含量[%]、ν は極微砂含量[%]、ξ は粘土含量[%]である。求めた383地点のK値から、包括的土壌分類第1次試案の土壌統群別の値を設定した。地形係数LSについては、農研機構の農耕地包括土壌図に基づく農地域(100m解像度)と,(財)日本地図センターのJMC50mメッシュ(標高)の標高データ(50m解像度)から,各計算格子(1km解像度)における農地内の平均勾配を計算し、神山ら(2012)の傾斜度とLS値に関する統計式を用いて推計した。作物係数Cは,前述の農耕地包括土壌図の農地域データを基に,谷山(2003)及び今井・石渡(2007)の値を各計算格子内で平均した。普通畑については、農林水産省の農作物作付(栽培)延べ面積から、都道府県別に作物群毎の面積比率を反映した値を設定した。保全管理係数Pは圃場毎の管理状況が把握できないことから、神山ら(2012)に倣い一律に1とした。
次に、土壌環境基礎調査4巡目(1994~1998年)の作土層のデータ(窒素:6498地点、リン:6604地点)から土壌分類ごとの窒素・リンの含有量を推計し、上で算出した2011年の年間土壌侵食量に乗じることにより、水田を除く農地1kmメッシュ毎の土壌侵食に伴う窒素・リンの年間流出量を算出した(図1)。全国スケールでの年間流出総量は、窒素656 Gg-N year-1、リン96 Gg-P year-1と推計された。都道府県スケールでみると、対象面積が比較的大きく強雨が多く比較的傾斜が大きい静岡県(全国の流出量に占める割合は窒素8.5%、リン8.8%)、対象面積が全国の4割以上を占めるものの強雨が少なく傾斜が中程度の北海道(窒素7.9%、リン7.3%)、対象面積が比較的大きく強雨が多く傾斜が中程度の鹿児島県(窒素7.9%、リン6.8%)などで窒素・リンの年間流出量が高かった。また、対象面積が比較的小さく強雨と傾斜が中程度の東京都(窒素0.2%、リン0.1%)・石川県(窒素0.3%、リン0.3%)、対象面積が比較的小さく強雨が中程度で傾斜が小さい滋賀県(窒素0.3%、リン0.3%)などで窒素・リンの年間流出量が小さかった。
今後、2011年の都道府県間産業連関表を用いた解析により、日本各地域の食料等の消費と窒素・リンの流出量の定量的関係を推計し、各都道府県の窒素・リンフットプリントを算出する予定である。本研究の結果は、国内地域の栄養塩流出対策において重要なサプライチェーンを示すことで、食料システム全体の栄養塩管理の適正化に貢献するものである。
参考文献:
今井啓, 石渡輝夫(2007) 統計資料等を用いて整理した都道府県別の土壌侵食因子の地域性について, 寒地土木研究所月報, 645: 49–54.
有働恵子(2019) 気候変動の我が国の砂浜への影響, 混相流, 33 (1): 28-35.
神山和則, 谷山一郎, 大倉利明, 中井信 (2012) 土壌侵食量推定のための1kmメッシュデータの作成, インベントリ―, 10: 3–9.
谷山一郎 (2003) 農耕地からの表面流去水の発生に係わる土壌要因の解明とMIの策定. 農林水産業及び農林水産物貿易と資源・環境に関する総合研究, 農林水産技術会議事務局, 414: 149–152.
土砂侵食量推定モデルであるRevised Universal Soil Loss Equation (RUSLE)を用いて2011年の水田を除く農地(平坦なため水田からの土砂侵食量は無視できると仮定した)の土壌侵食量を1 kmメッシュごとに算出した。RUSLEでは、年間土壌侵食量Y [t ha-1 year-1]を式Y = R·K·LS·C·P (1)で表す。ここで、Rは降雨係数[MJ mm ha-1 hour-1 year-1]、Kは土壌係数[t hour MJ-1 mm-1]、LSは地形係数[無次元]、Cは作物係数[無次元]、Pは保全管理係数[無次元]である。Rは、降雨の浸食エネルギーを表す係数で、有働(2019)に倣い、年間の降雨事象数n、任意の降雨事象iにおける降雨強度Ii [mm hour-1]から与えられる降雨1 mmあたりの運動エネルギー[MJ ha-1 mm-1]、降雨量ri [mm]、60分間最大雨量I60i [mm hour-1]によって、式R=∑ni=1(0.119+0.0873 log Ii) ri I60i (2)で求めた。降雨データは、(財)気象業務支援センターのレーダー・アメダス解析雨量(1 km解像度で、1時間雨量のデータ)を用いた。ここでは、降雪量も降雨量とみなした。Kは、土壌の流れやすさを示す係数で、土壌環境基礎調査4巡目(1994~1998年)の383地点の作土層(第1層)データを用いて、谷山(2003)と同様に、100K={2.1M1.14(10-4)(12- α)+3.25(β-2)+2.5(γ-3)}×0.1317 (3)、M=(μ+ν)(100-ξ) (4)の2式より推計した。ここで、α は土壌の有機物含量[%]、β は土壌構造コード[無次元]、γ は土壌断面の透水性を示す飽和透水係数コード[無次元]、μ はシルト含量[%]、ν は極微砂含量[%]、ξ は粘土含量[%]である。求めた383地点のK値から、包括的土壌分類第1次試案の土壌統群別の値を設定した。地形係数LSについては、農研機構の農耕地包括土壌図に基づく農地域(100m解像度)と,(財)日本地図センターのJMC50mメッシュ(標高)の標高データ(50m解像度)から,各計算格子(1km解像度)における農地内の平均勾配を計算し、神山ら(2012)の傾斜度とLS値に関する統計式を用いて推計した。作物係数Cは,前述の農耕地包括土壌図の農地域データを基に,谷山(2003)及び今井・石渡(2007)の値を各計算格子内で平均した。普通畑については、農林水産省の農作物作付(栽培)延べ面積から、都道府県別に作物群毎の面積比率を反映した値を設定した。保全管理係数Pは圃場毎の管理状況が把握できないことから、神山ら(2012)に倣い一律に1とした。
次に、土壌環境基礎調査4巡目(1994~1998年)の作土層のデータ(窒素:6498地点、リン:6604地点)から土壌分類ごとの窒素・リンの含有量を推計し、上で算出した2011年の年間土壌侵食量に乗じることにより、水田を除く農地1kmメッシュ毎の土壌侵食に伴う窒素・リンの年間流出量を算出した(図1)。全国スケールでの年間流出総量は、窒素656 Gg-N year-1、リン96 Gg-P year-1と推計された。都道府県スケールでみると、対象面積が比較的大きく強雨が多く比較的傾斜が大きい静岡県(全国の流出量に占める割合は窒素8.5%、リン8.8%)、対象面積が全国の4割以上を占めるものの強雨が少なく傾斜が中程度の北海道(窒素7.9%、リン7.3%)、対象面積が比較的大きく強雨が多く傾斜が中程度の鹿児島県(窒素7.9%、リン6.8%)などで窒素・リンの年間流出量が高かった。また、対象面積が比較的小さく強雨と傾斜が中程度の東京都(窒素0.2%、リン0.1%)・石川県(窒素0.3%、リン0.3%)、対象面積が比較的小さく強雨が中程度で傾斜が小さい滋賀県(窒素0.3%、リン0.3%)などで窒素・リンの年間流出量が小さかった。
今後、2011年の都道府県間産業連関表を用いた解析により、日本各地域の食料等の消費と窒素・リンの流出量の定量的関係を推計し、各都道府県の窒素・リンフットプリントを算出する予定である。本研究の結果は、国内地域の栄養塩流出対策において重要なサプライチェーンを示すことで、食料システム全体の栄養塩管理の適正化に貢献するものである。
参考文献:
今井啓, 石渡輝夫(2007) 統計資料等を用いて整理した都道府県別の土壌侵食因子の地域性について, 寒地土木研究所月報, 645: 49–54.
有働恵子(2019) 気候変動の我が国の砂浜への影響, 混相流, 33 (1): 28-35.
神山和則, 谷山一郎, 大倉利明, 中井信 (2012) 土壌侵食量推定のための1kmメッシュデータの作成, インベントリ―, 10: 3–9.
谷山一郎 (2003) 農耕地からの表面流去水の発生に係わる土壌要因の解明とMIの策定. 農林水産業及び農林水産物貿易と資源・環境に関する総合研究, 農林水産技術会議事務局, 414: 149–152.