日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS12] 惑星火山学

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.21

コンビーナ:野口 里奈(新潟大学 自然科学系)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、諸田 智克(東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)

17:15 〜 18:30

[MIS12-P02] 月・火星における溶岩チューブ洞窟と噴火口洞窟の存在可能性について

*本多 力1 (1.火山洞窟学会)

キーワード:溶岩流、溶岩チューブ洞窟、噴火口洞窟、月、火星

[はじめに]
富士山麓には溶岩チューブ洞窟の数(~150)が圧倒的に多いが,割れ目噴火口洞窟もいくつか(~4)存在する[1,2].火成活動のあった月・火星でも大量の玄武岩溶岩流を流したため溶岩チューブ洞窟が圧倒的と考えられるが,噴火口洞窟の存在可能性も否定できない.ここでは富士山の溶岩チューブ洞窟・婆々穴と割れ目噴火口洞窟・雷穴の比較を行い,月・火星での噴火口洞窟の存在可能性について検討した.

[富士山の溶岩チューブ洞窟・婆々穴と割れ目噴火口洞窟・雷穴]
図1,2に示すように両洞窟とも縦孔の下に空洞が連通する。婆々穴は二子山・天母山溶岩流内に形成された,深さ32mの縦穴開口部の下に連通した傾斜横穴空洞をもつ溶岩チューブ洞窟である.横穴チューブ空洞部分の床面には溶岩棚,溶岩流動痕,天井には溶岩鍾乳が見られ,典型的な溶岩チューブである特徴を示している(写真1).また,婆々穴横穴チューブ部の傾斜率4.8度,チューブ高さ5m~10m,から溶岩降伏値fB=H(ρg sinα)/4を求めると3.4x103~6.8x103Paとなり,地球の玄武岩として妥当な値を示している.雷穴は鑵子山溶岩流内に形成され,深さ10mの縦孔開口部の下に連通した長さ35m,高さ3m~6m,幅~7mの割れ目噴火口列の一部をなす横穴空洞をもつ噴火口洞窟である.雷穴横穴空洞の崩落した側壁の奥にスコリア層が見えていることからも(写真2).明らかにマグマが割れ目火口からドレンバックして空洞が出来たとみなせる.

[月・火星での噴火口洞窟の存在可能性]
月・火星の縦孔下に溶岩チューブ洞窟が想定されるとして空洞高さの推定(H=4fB/(ρg sinα))を表面傾斜度と月・火星の溶岩降伏値から行った[3,4,5]。月の縦孔Lacus Mortis Pitの例[3]では,推定される溶岩チューブ洞窟の空洞高さが縦穴深さに比較して大きく乖離(縦孔深さ112mに対して推定チューブ高さ2.5m~9.8m)しており,縦孔はマグマがドレンバックした噴火口洞窟である可能性が考えられる.火星のアルシア火山の山体急斜面(傾斜度1.0°~3.5°)の縦孔における推定値は縦孔深さと大きな乖離があり,噴火口洞窟の可能性が高い.一方,山麓の緩斜面(傾斜度0.12°~0.54°)にある縦孔では推定チューブ高さとほぼ同等な値を示すことから溶岩チューブ洞窟の存在可能性が高いと考えられる[4].火星エリシウム火山の山体急斜面(傾斜度~6°)の縦孔については縦孔深さと推定チューブ空洞高さの乖離が大きいことから噴火口洞窟の可能性が高いと考えられる[5].

[おわりに]
月・火星の縦孔下の空洞がチューブ洞窟以外に噴火口洞窟がある可能性がある。月・火星の縦孔下の空洞がどのようなものであるか明らかにするための縦孔内部構造の探査が,火成活動の理解と将来の基地利用のためにまず必要である.噴火口洞窟により噴火の形態,溶岩チューブ洞窟により噴火後の溶岩流動機構に迫れるのではないかと期待される.いずれにしろ将来の月・火星の地下基地としては溶岩チューブ洞窟,噴火口洞窟どちらとも利用可能と考えられる.

参考文献:
[1]小川孝徳(1991):富士宮の火山洞窟,富士宮市立郷土資料館,富士宮市教育委員会
[2]小川孝徳(1991):富士南麓の火山洞窟,裾野市教育委員会
[3]本多力(2019):PPS08-P01月の表面地形から推定する縦孔下の溶岩チューブ洞窟の空洞高さ,地球惑星科学連合2019年大会
[4]本多力(2017):P117火星のArsia Monsの縦穴における溶岩チューブ洞窟の存在可能性,日本火山学会秋季大会
[5]本多力(2018):SVC43-P02火星Elysium火山の溶岩降伏値と縦穴下の溶岩チューブ洞窟の存在可能性,地球惑星科学連合2018年大会