日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 水惑星学

2021年6月5日(土) 15:30 〜 17:00 Ch.02 (Zoom会場02)

コンビーナ:関根 康人(東京工業大学地球生命研究所)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、座長:玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)、関根 康人(東京工業大学地球生命研究所)、臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)

16:15 〜 16:30

[MIS14-16] 地下水輸送を考慮した陸惑星の大気・水循環に関する理論的研究

*谷口 啓悟1,2、関根 康人1、小玉 貴則3、野田 夏実4、玄田 英典1、阿部 彩子5 (1.東京工業大学地球生命研究所、2.東京工業大学 理学院 地球惑星科学系、3.東京大学、4.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、5.東京大学大気海洋研究所)


キーワード:陸惑星、大気、地下水

地球のような生命が存在するためには,液体の水が必要不可欠である.そのため,液体の水が存在可能な気候条件や,惑星規模での水循環や水分布を明らかにすることは,生命が存在可能なハビタブル惑星の普遍的な理解に対して重要である.これまでの大気循環モデル (GCM) を用いた理論研究により,表層の水の総量の違いから,湿潤な気候の水惑星と,乾燥した気候の陸惑星に気候状態が二分されると考えられてきた (Abe et al., 2011; Kodama et al., 2018).本研究ではGCMに加え,GCMでは考慮されない地下水の循環を考慮し,陸惑星の気候状態の多様性や,新たな気候状態が出現する可能性を調べることを目的とする.
 数値シミュレーションでは,大気のダイナミクスや放射過程を3次元的に計算する大気循環モデルagcm5.4g (Kodama et al., 2018)と,地下水の輸送を3次元的に計算する地下水循環モデルGETFLOWS (Tosaka et al., 2000)を用いる.この両モデルで整合的な気候状態・水循環を実現させるため,本研究では以下の3ステップにわけて計算を行う.ステップ0では,陸惑星の高緯度に存在する氷床の空間分布を調べるため,ある平均的な気候場を設定し,その条件での降雪や蒸発をGCMにより計算した.その結果,高緯度に水が存在する場合は,蒸発と降雪がつり合う緯度まで氷床が拡大しうることがわかった.このような場合,氷床底面での底面融解により液体の水が発生し,それが地下の圧力勾配を駆動力として中低緯度に移動される.ステップ1では,得られた氷床の空間分布や気候場に基づき,地下水循環モデルにより氷床底面で発生する地下水の輸送ダイナミクスを計算した.その結果,透水率が増加するにしたがって,極度に乾燥した中低緯度まで地下を通じて水が輸送されることが分かった.特に,透水率が105~106 mdより高く,表層や浅部地下が礫や砂で構成される場合,効率的な地下水輸送によって水が存在する領域が低緯度まで広がる.最後に,ステップ2では,地下水循環モデルで導かれた表面水分布における大気循環や気候状態を,GCMを用いて調べた.その結果,透水率が高く(105~106 md以上),水の存在する末端緯度がハドレーセル内に到達する場合,ハドレー循環により低緯度全体が湿潤となり,極度に乾燥した陸惑星から湿潤な水惑星への気候状態のシフトが起きることが分かった.
 これらの数値シミュレーションによる結果は,これまで考えられていなかった表層や浅部地下の地質状態(礫・レゴリス・岩盤)によっても,惑星気候は大きく影響を受けることを示している.特に,表層水分布としては陸惑星の性質(高緯度に氷床が存在する)を持ちつつ,気候状態としては水惑星の性質(低緯度が湿潤になる)を兼ね備えた,新たな惑星の気候状態の存在を示唆するものである.また,陸惑星は水惑星に比べ広いハビタブルゾーンを有すると考えられてきたが,この中間的な気候状態は,陸惑星のような少ない水量を持つ惑星であっても,表層・浅部地下の地質状態によっては,必ずしも広いハビタブルゾーンをもつわけではないことも示唆している.