16:30 〜 16:45
[MIS14-17] 初期地球への彗星衝突による局所還元場の形成可能性について
キーワード:初期地球、衝突蒸気雲、生命前駆物質
小天体が惑星に高速度で衝突すると, 衝撃加熱によって小天体が蒸発し, 衝突蒸気雲が形成される. 初期地球に還元的な場を局所的に作り出す過程の一つとして, 衝突蒸気雲内の化学反応が考えられている. これまでの衝突実験によると, 衝突蒸気雲内の化学反応によって生命前駆物質を含むような還元的な分子が形成されることがわかっている. 一方で, 衝突実験では惑星スケールの衝突の再現が困難であること, 10km/sを超える衝突速度を達成することが困難であることなどにより, 理論的な手法の研究も重要となってくる.
衝突蒸気雲内の化学反応に関する理論的研究の一つであるIshimaru et al. (2010)では, 1次元球対象の理想的な衝突蒸気雲の運動と, その内部で起きるHCNO系の化学反応を同時に解くような数値モデルを構築し, 高温状態(>3000K)からの断熱膨張・冷却を考慮して, 最終的に凍結される化学組成(クエンチ組成)を見積もった. そして, これらの結果をガリレオ衛星への彗星衝突に応用し, 形成される有機物の量などを議論した.
本研究では, 初期地球における海洋への彗星衝突によって発生する衝突蒸気雲のクエンチ組成を調べた.まず衝突計算コードiSALE(2次元円筒座標系)を用いた天体衝突計算を行うことで, 海洋および海洋地殻への彗星衝突によって発生する衝突蒸気雲の物理的過程を追い, 衝突蒸気雲の温度圧力変化を調べた. そして得られた温度圧力変化のもとでHCNO系の化学反応計算を行い, クエンチ組成を見積もった.
天体衝突計算の結果, 衝突蒸気雲のピーク温度圧力は, 圧力についてはIshimaru et al. (2010)の見積もりと整合的であったが, 温度については 1/2~1/3程度であることがわかった. これは先行研究が1次元平行平板衝突の仮定に基づいてピーク温度を見積もっていたこと, 氷の比熱比・蒸発熱の温度依存性を考慮していなかったためだと考えられる.また, 彗星の直径が海洋の厚さ程度より大きくなると, 彗星の海洋地殻への貫入が起きるため, 氷と岩石の衝撃波特性の違いによって衝突蒸気雲のピーク温度圧力が上昇することがわかった.
衝突蒸気雲内の化学反応計算の結果, 初期地球への彗星衝突によって得られるクエンチ組成は, H2, H2O, COを多く含んだ組成になることがわかった. また, 強還元的な化学種(CH4, NH3)や生命前駆物質(HCN)に関しては, 衝突速度(15km/s)が同じ場合でも, Ishimaru et al. (2010)の結果よりも, 10~1000倍以上富むような組成であった.これはIshimaru et al. (2019)において衝突蒸気雲のエントロピーを高く見積もりすぎていたためである.
また, 衝突過程で彗星と海洋が混合した衝突蒸気雲が形成されることを考慮し, 化学反応計算にH2Oを混ぜた場合の計算を行った. その結果, 海洋の混合率が高くなるほどクエンチ組成における還元的な窒素, 炭素化合物の割合は小さくなり, 酸化的な窒素, 炭素化合物およびH2のモル分率は大きくなることがわかった. これは混合したH2Oが還元的な窒素, 炭素の酸化に使われたためである.
地球の脱出速度~15km/s程度の衝突速度の場合, 強還元的なクエンチ組成が得られ, 初期地球において生命前駆物質の生成に有利な環境をもたらすことが可能であるとわかった. 一方で, 地球への彗星衝突速度はさらに高速であることが多いため, 単純なHCNO系の反応では初期地球に強還元的な環境をもたらすことは難しいが, 彗星に含まれる金属元素が触媒になることによって(e.g., Sekine et al., 2006), 彗星の高速衝突でも強還元的環境がもたらされた可能性はあるかもしれない.
衝突蒸気雲内の化学反応に関する理論的研究の一つであるIshimaru et al. (2010)では, 1次元球対象の理想的な衝突蒸気雲の運動と, その内部で起きるHCNO系の化学反応を同時に解くような数値モデルを構築し, 高温状態(>3000K)からの断熱膨張・冷却を考慮して, 最終的に凍結される化学組成(クエンチ組成)を見積もった. そして, これらの結果をガリレオ衛星への彗星衝突に応用し, 形成される有機物の量などを議論した.
本研究では, 初期地球における海洋への彗星衝突によって発生する衝突蒸気雲のクエンチ組成を調べた.まず衝突計算コードiSALE(2次元円筒座標系)を用いた天体衝突計算を行うことで, 海洋および海洋地殻への彗星衝突によって発生する衝突蒸気雲の物理的過程を追い, 衝突蒸気雲の温度圧力変化を調べた. そして得られた温度圧力変化のもとでHCNO系の化学反応計算を行い, クエンチ組成を見積もった.
天体衝突計算の結果, 衝突蒸気雲のピーク温度圧力は, 圧力についてはIshimaru et al. (2010)の見積もりと整合的であったが, 温度については 1/2~1/3程度であることがわかった. これは先行研究が1次元平行平板衝突の仮定に基づいてピーク温度を見積もっていたこと, 氷の比熱比・蒸発熱の温度依存性を考慮していなかったためだと考えられる.また, 彗星の直径が海洋の厚さ程度より大きくなると, 彗星の海洋地殻への貫入が起きるため, 氷と岩石の衝撃波特性の違いによって衝突蒸気雲のピーク温度圧力が上昇することがわかった.
衝突蒸気雲内の化学反応計算の結果, 初期地球への彗星衝突によって得られるクエンチ組成は, H2, H2O, COを多く含んだ組成になることがわかった. また, 強還元的な化学種(CH4, NH3)や生命前駆物質(HCN)に関しては, 衝突速度(15km/s)が同じ場合でも, Ishimaru et al. (2010)の結果よりも, 10~1000倍以上富むような組成であった.これはIshimaru et al. (2019)において衝突蒸気雲のエントロピーを高く見積もりすぎていたためである.
また, 衝突過程で彗星と海洋が混合した衝突蒸気雲が形成されることを考慮し, 化学反応計算にH2Oを混ぜた場合の計算を行った. その結果, 海洋の混合率が高くなるほどクエンチ組成における還元的な窒素, 炭素化合物の割合は小さくなり, 酸化的な窒素, 炭素化合物およびH2のモル分率は大きくなることがわかった. これは混合したH2Oが還元的な窒素, 炭素の酸化に使われたためである.
地球の脱出速度~15km/s程度の衝突速度の場合, 強還元的なクエンチ組成が得られ, 初期地球において生命前駆物質の生成に有利な環境をもたらすことが可能であるとわかった. 一方で, 地球への彗星衝突速度はさらに高速であることが多いため, 単純なHCNO系の反応では初期地球に強還元的な環境をもたらすことは難しいが, 彗星に含まれる金属元素が触媒になることによって(e.g., Sekine et al., 2006), 彗星の高速衝突でも強還元的環境がもたらされた可能性はあるかもしれない.