日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] 水惑星学

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.22

コンビーナ:関根 康人(東京工業大学地球生命研究所)、渋谷 岳造(海洋研究開発機構)、玄田 英典(東京工業大学 地球生命研究所)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)

17:15 〜 18:30

[MIS14-P02] 球状鉄コンクリーションの鉄殻成長過程の実験的解明

*岡村 裕之1、城野 信一1 (1.名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻)

キーワード:球状鉄コンクリーション、炭酸カルシウムコンクリーション

はじめに
米国ユタ州のナホバ砂岩とモンゴルのゴビ砂漠には,球状鉄コンクリーションを含んだ地層が存在する.球状鉄コンクリーションは数mm~数cmの大きさで,球状を成す.表面は鉄の殻(以下,鉄殻)で覆われており,内部は砂が詰まっているという特徴を持つ.これによく似たものが,NASAの火星探査車Opportunityにより,火星でも発見された.球状鉄コンクリーションは,一定条件下でしか形成されない.よって,地球の球状鉄コンクリーションの形成過程を明らかにすることは,火星の古環境を明らかにすることに繋がるとされている.これまで様々な形成モデルが提唱されていたが,不完全なものであった.2018年,名古屋大学の研究グループは地球の球状鉄コンクリーションの新形成モデルを提唱した.鉄コンクリーションは,もとはCaCO3コンクリーションであり,鉄に富む酸性の地下水との中和反応によって表面が「(1)溶解,(2)沈殿」プロセスを経て,鉄に置き換わったという仮説である(Yoshida et al .,2018).しかしこのモデルでは,鉄殻の成長速度,幅について,実験的には明らかにされていなかった.
研究目的
そこで本研究の目的は,人工的に鉄コンクリーションを作成し,鉄殻の(1)成長速度(浸透速度・沈殿速度・溶解速度),(2)幅の2つを測定し,形成プロセスに制約を与えることとした.地質学的な証拠から,地球の球状鉄コンクリーションの形成過程は火星のコンクリーションの形成過程にも適用できる.よって本研究は,火星の古代環境を知る手がかりに繋がり,ひいては古代生命の存在を議論する際の検討材料となる.
実験方法
現地のCaCO3コンクリーションの模擬物質として,CaCO3粉末,砂漠砂と同じ粒径(粒径150-180[μm])のガラスビーズ,蒸留水を捏ねて作成した人工CaCO3コンクリーションを使用した.また,鉄に富む酸性地下水で満たされた土壌をFeCl2溶液(mol濃度:1.07[mol/l])とガラスビーズを用いて再現した.人工CaCO3コンクリーションをシャーレに固定し,周囲にFeCl2土壌を詰め,形成環境を模擬した.これを自作した定点撮影装置に設置し,鉄殻が形成される様子をシャーレ裏側から5分間隔で撮影した.
実験結果と考察
撮影画像300枚を用いて画像解析を行い,鉄殻の幅を手動で測定した.結果,開始5分程で急速に溶液がCaCO3コンクリーションに浸透(約5.2x10-4[mm/s])し,その後ゆっくり成長(約3.4x10-7[mm/s])していく様子がグラフから見てとれた(図1).結果から,「(1)浸透,(2)溶解,(3)沈殿」というプロセスを経て鉄殻が成長していると考えられる.この結果をどう天然CaCO3コンクリーションと紐づけるか述べる.別の予備実験にて,人工CaCO3コンクリーションの水分量を0[g]にして同様の実験を行った.結果,本実験よりも分厚い鉄殻が形成された.このことから,コンクリーションの空隙率(人工CaCO3コンクリーションでは水分量)によって,浸透速度・幅が決定されることが予想される.天然CaCO3コンクリーションの空隙率は約10.2[%]であるが,この空隙率を人工CaCO3コンクリーションで再現することは技術的に困難である.よって,実現可能な空隙率約15~25[%]の人工CaCO3コンクリーションを作成し,空隙率と浸透速度・幅の較正を行う.これをもとに本実験の結果を補正すれば,空隙率10.2[%]時の浸透速度・幅を導出でき,天然CaCO3コンクリーションの反応を推定可能だと考えられる.また,浸透プロセスが存在するということは,これまで想定されていた,CaCO3コンクリーションの「表面から溶解する」モデルではなく,「溶液が浸透し終わった反応開始線から溶解する」モデルを検討する必要があるということだ.
結論
時間とともに成長する鉄殻を実験的にとらえることに初めて成功した.結果,従来の仮説にはなかった新プロセス「浸透」を発見した.従来モデルは,単にCaCO₃コンクリーションの表面が溶解して,鉄殻が形成されるという理解だったが,「浸透」の影響を数値計算や形成過程に組み込む必要があることが本実験から示唆される.「(1)浸透,(2)溶解,(3)沈殿」プロセスの妥当性をより評価するため,今後は周囲の溶液濃度・酸素濃度・人工CaCO3コンクリーションの水分量を変化させて同様の実験を実施し,鉄殻形成への影響を検討する.加えて,X線解析顕微鏡を用いて,元素マッピングも作成する.
参考文献
Yoshida H., Hasegawa H., Katsuta N., Maruyama I., Sirono S., Minami M., Asahara Y., Nishimoto S., Yamaguchi Y., Ichinnorov N. and Metcalfe R. (2018) Fe-oxide concretions formed by interacting with carbonate-acidic waters on Earth and Mars. Sci. Adv. 4:eaau0872. doi:10.1126/sciadv.aau0872