日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] 口頭発表

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[M-IS15] 津波堆積物:東北地方太平洋沖地震後10年の成果と今後の展望

2021年6月6日(日) 15:30 〜 17:00 Ch.17 (Zoom会場17)

コンビーナ:山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)、石澤 尭史(東北大学 災害科学国際研究所)、渡部 真史(中央大学)、谷川 晃一朗(国立研究開発法人産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:渡部 真史(中央大学)、谷川 晃一朗(国立研究開発法人産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

16:30 〜 16:45

[MIS15-07] 河川を横断する津波により形成された津波堆積物の特徴とX線CTを用いた津波堆積物の検出

*岩城 昂平1、高清水 康博2、西村 裕一3、千葉 崇4 (1.新潟大学大学院自然科学研究科、2.新潟大学人文社会・教育科学系、3.北海道大学大学院理学研究院、4.秋田県立大学生物資源科学部)

キーワード:津波堆積物、X線CT、粒度組成

沿岸湿地を遡上する津波が残す堆積物は海から陸側へ向かって薄層化・細粒化し,良淘汰になることが一般的に知られている. 一方で,河川を横断する津波がどのような堆積物を形成するのかについて分からないことが多い.そこで本研究では河川流路を横切る津波が堆積物にどのような影響を与えるのかを検討した.また,津波堆積物の分布範囲は,古津波の浸水範囲の指標としてよく使われるが, 一般的に浸水範囲と肉眼により識別できる堆積物分布の間には乖離が見られ,実際の浸水範囲は堆積物分布よりも広範囲とされる. そこで,本研究ではこの乖離を小さくし,より正確に津波堆積物分布を再現するためのX線CT画像による識別の有効性を検証する.
調査地域は北海道胆振海岸の勇払であり,高清水ほか(2007,2013)の調査地域の西部である. 海岸砂丘の背後には,後背湿地と放棄流路跡と考えられる沼地が点在している.試料は実験室へ持ち帰り,柱状図記載,X線CT画像撮影,および粒度分析を行った. また,粒度分析前には有機物減量処理を行い,津波堆積物層準における一定体積中の砂泥成分の質量を計量し,砕屑物粒子含有量を求めた.また, この層準の平均CT値を求めた.
内陸への津波堆積物の層相は,砂層,砂質泥炭層,そして泥炭層中に砂粒が散在する程度にしか見えなくなり,最終的には津波堆積物の識別ができなくなった. 肉眼では海岸線から1592 m 地点まで,X線CTでは1633 m 地点(現在調査を行ったもののうち最も内陸部)まで分布を確認することができた. 試料採取領域の平均CT値とその領域に含まれる砕屑物粒子密度の間には正の相関関係があった.このことは,試料から平均CT値が含有砕屑物量のプロキシとなることを示しており,X線CTを用いた津波堆積物の識別が有効である可能性を示している.
層厚は局所的な変化を示しながら大局的には海から陸側へ薄層化した.ただし,旧河川流路地形(地形の凹部)では局所的な層厚化が認められた. これは, 流速の低下に伴って多くの粒子を堆積させた,あるいは窪みや水中に堆積したことで侵食を受けにくかった可能性がある.
最頻粒径値は内陸細粒化,泥分含有量は内陸へ増加傾向が見られた.これらは,津波が遡上するに伴い営力が減少し,粗粒な粒子から沈積させていくためと解釈される.一方で,旧流路内陸側最頻粒径値は粗粒化した. これは, 流路内の河川堆積物を津波が取り込んだ可能性を示しているだろう.最頻粒径値はその後再び内陸細粒化傾向を示した.