日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS15] 津波堆積物:東北地方太平洋沖地震後10年の成果と今後の展望

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.19

コンビーナ:山田 昌樹(信州大学理学部理学科地球学コース)、石澤 尭史(東北大学 災害科学国際研究所)、渡部 真史(中央大学)、谷川 晃一朗(国立研究開発法人産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

17:15 〜 18:30

[MIS15-P02] 青森県,下北半島北部関根浜における群列掘削調査に基づくイベント堆積物の特徴とその分布

*石村 大輔1、山田 昌樹2、石澤 尭史3、青木 かおり4、佐藤 海生2 (1.東京都立大学大学院都市環境科学研究科地理学教室、2.信州大学理学部理学科地球学コース、3.東北大学災害科学国際研究所、4.東京都立大学火山災害研究センター)

キーワード:津波堆積物、下北半島、B-Tmテフラ

2011年東北地方太平洋沖地震・津波以降,日本国内外の津波堆積物研究は飛躍的に増加した.その結果,新たに津波堆積物が多数発見され,歴史・観測記録との対比が行われ,かつより長期間(数千年間)における津波の頻度などが明らかにされてきた.このような証拠を元に,数値計算を用いて過去の津波の実態(波源(津波の発生場所),波高,波の速度,浸水域)が再現され,長期間の情報に基づく津波ハザードの評価が進んでいる.一方,歴史記録のない地域や複数の歴史津波が短い期間内に存在する地域では,地球科学的に求められる津波堆積物の年代の誤差が大きいため,津波堆積物がどの歴史津波に対応するのか不明であり,その波源推定も困難になる.本研究で対象とする津軽海峡に面する下北半島北部は,北海道と東北地方の間に位置し,太平洋側(東北沖や北海道沖)で生ずる津波のいずれもが侵入する可能性のある地域である.さらに,北海道駒ケ岳や渡島大島など火山活動に伴う津波も江戸時代に発生しており,予想される津波の波源が数多く存在する地域でもある.本地域における最も重要な課題は,北海道で認められる17世紀津波と東北地方太平洋岸で認められる1611年慶長三陸津波の波源に関してである.両者が独立した別の津波なのか,同一の津波なのか,現在でも議論が続いており,これらの波源の特定は,津波ハザードだけでなく,日本海溝で起きる地震・津波メカニズム(頻度や波源)を理解する上でも重要である.実証的に両者の特定を行うためには,両者の分布域の中間地点において津波堆積物調査を行う必要があり,北海道では17世紀の津波堆積物に注目してレビューと問題提起が行われている(高清水,2014).一方,東北地方太平洋岸の三陸海岸では,数多くの津波堆積物が確認されているのに対し,下北半島東岸では,沿岸部の砂丘が高く,津波堆積物調査の適地は限られるため,研究が限られる.本報告では,下北半島北端の津軽海峡に面する青森県関根浜で見出されたイベント堆積物について報告する.

 青森県関根浜は,大間崎と尻屋崎の間に位置する.調査地域周辺は,更新世海成段丘と砂丘地形が広がり,海岸のすぐ背後には比較的標高の高い地形が分布する.2011年東北地方太平洋沖地震津波の際は,周辺で2〜6 mの遡上高が記録されている(東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ(http://www.coastal.jp/ttjt/)).

 著者らは2018年に海岸露頭調査を,2020年に内陸の湿地で掘削調査を実施した.海岸露頭は,海岸に平行な微高地(標高5 m程度)に露出している.掘削調査は,更新世海成段丘の開析谷中で行った.2018年にハンドオーガーにて予察調査を行い,2020年にハンディジオスライサー(GS)を使用して,9本の掘削を実施した.露頭およびGS試料については,写真撮影,記載,X線CT撮影,粒度分析,放射性炭素年代測定,火山灰分析を実施した.

 結果,2ヶ所の海岸露頭では,最上部では土壌堆積物中に,中部〜下部では湿地堆積物中に10層以上の粗粒なイベント堆積物が挟在している.また,2層の降下テフラが確認された.上位のものは,白頭山—苫小牧(B-Tm)テフラ(AD946;Oppenheimer et al., 2017)であり,下位のものは,十和田—中掫(To-Cu)テフラ(約6 ka;Mclean et al., 2018; Ishimura and Hiramine, 2020)である.B-Tmテフラの上位には,4層のイベント堆積物が分布し,その中でも直下の土壌が520-460 calBP(1430-1490 calAD)を示す砂層は,下面に明瞭な侵食痕を伴い,大きな流速が推定される.B-Tmの下位にも,明瞭な侵食痕や級化構造を示す砂層が複数分布する.

 開析谷中の掘削調査では,予察的なハンドオーガー掘削で深度70 cmほどに明瞭な砂層が分布し,その直下の年代は530-490 calBP(1420-1460 calAD)を示した.また粒度分析の結果,この砂層は,海岸を構成する砂と同様の粒度分布を示す.GS調査は海岸から200-400 mの距離の標高6-8 m地点で実施した.GS調査の結果,予察調査で認められた砂層は掘削地点の最奥部まで肉眼およびX線CT画像でB-Tmテフラの上位に確認された.海側のGSコア中で,この砂層は複数のユニットからなる層厚10-15 cmの砂層であり,内陸部へ向かって薄層化し,最奥部では不明瞭な砂層となる.これらのことは,海側からの侵入した津波によって運搬された可能性を示唆する.この砂層以外にもB-Tmテフラの下位には10 cm以下の砂層と30 cm以上の複数のユニットからなる砂層の2種類が存在する.これらも15世紀以降のイベント堆積物同様に津波堆積物の候補である.発表までには,粒度分析と年代測定を追加し,報告する予定である.


なお,本研究は,日本科学協会の笹川科学研究助成による助成を受けたものである.本研究の一部は,高知大学海洋コア総合研究センターの共同利用(採択番号:20B052)による.