17:15 〜 18:30
[MIS15-P03] 青森県下北半島北部関根浜に分布する古津波堆積物の波源推定
17世紀には,千島海溝,日本海溝を波源として17世紀地震津波と1611年慶長津波が発生したと考えられており,北海道太平洋沿岸部の十勝~釧路~根室沖と三陸海岸および仙台平野においてそれぞれの津波堆積物が確認されている.これらの津波が別々のものなのか,同一の地震によるものなのかについては未だに議論が続いている.本研究対象地域である下北半島は,千島海溝と日本海溝の中間地点に位置しているため,この地域における津波堆積物研究は,この問題を解決するために有用な情報を提供できると考えられるが,津波堆積物の研究事例が少ないのが現状である.近年,下北半島北部に位置する青森県むつ市関根浜における古津波堆積物研究によって,17世紀の津波で形成された可能性のある1枚のイベント堆積物が広域的に分布していることが明らかになった.本研究では,津波数値シミュレーションを用いてこの津波堆積物の波源を推定することを目的とする.
本研究では,日本海溝を波源とする1611年慶長津波 (> Mw 8.2),千島海溝を波源とする17世紀地震津波 (Mw 8.8),青森県沖で発生した1677年延宝三陸津波,下北半島北部に存在する海底活断層の隆起運動に伴う津波を数値計算の対象とした. 断層モデルは既存研究の10モデルを用い,1677年延宝三陸津波に関しては,津波高分布が似ているとされている1968年十勝沖津波のもので代用した.関根浜に対する津波の影響は,イベント堆積物が発見された露頭付近の奥行き300 mの沿岸低地への浸水率を求めることで評価した.本研究では,17世紀の地形は現在と大きく変わらないと仮定してJAGRUSを用いて計算を行った.
10個の波源モデルのうち,17世紀地震津波モデル (Mw 8.8, Ioki and Tanioka, 2016), 1611年慶長津波と17世紀地震津波が同一のイベントであるとするモデル (Mw 8.9, 岡村・行谷,2011), 千島・東北沖連動地震モデル(Mw 9.2, 北海道防災協議会,2012), 1611年慶長津波をMw 9.0とする福原・谷岡 (2017) モデルの4個のモデルで沿岸低地への浸水率が40%より大きくなり,関根浜に大きな影響及ぼしたと判断した.具体的には,17世紀地震津波モデル(Mw 8.8, Ioki and Tanioka, 2016)モデルで40%,その他のモデルは100%の浸水率であり,最も内陸部まで浸水が確認されたのは,千島・東北沖連動地震モデルである.それ以外の6個のモデルは浸水率が20%以下で関根浜に対する影響は小さいと判断した.したがって,本研究により,千島海溝南部で25 mより大きなすべり量をもつ3モデル,日本海溝北部で80 mのすべり量を持つ1モデルが,関根浜に存在する17世紀の古津波堆積物を説明可能な有力な波源であることが明らかとなった.つまり,三陸沖に波源を置く場合よりも千島海溝に波源を置いた場合の方が,関根浜は浸水しやすいと考えられる.
また,北海道胆振海岸と青森県東部沿岸地域には,波源が不明な17世紀の津波堆積物が分布している.関根浜と同様に浸水計算を行ったところ,千島・東北沖連動地震モデルのみが2地域の津波堆積物分布を説明できた.関根浜の計算結果も考慮すると,3地域の津波堆積物分布を説明できるのはこのモデルにのみ制約される.また,1640年駒ヶ岳噴火の山体崩壊に伴って発生した津波も,関根浜に分布する古津波堆積物の起源であると考えられる.その詳細なプロセスを復元したモデルは考案されていないが,海底地形から崩壊前の山体の地形を復元し,駒ヶ岳周辺の津波堆積物分布を説明できるような簡易的な津波伝播モデル (中西・岡村,2019) が考案されている.このモデルを用いて数値計算を行ったところ,関根浜に80〜90%の浸水および4.6 mの最大波高が見られたため,関根浜の古津波堆積物の波源である可能性は十分に考えられる.
したがって,関根浜の古津波堆積物の波源として東北沖連動地震モデルで表される津波や1640年駒ケ岳山体崩壊に伴って生じた津波が適当であると推定される.今後は主に上記の二つのモデルを中心として,断層パラメータを変えることにより,津波堆積物分布に合わせた高精度な波源モデルを推定していく.
なお,本研究の一部は,日本科学協会の笹川科学研究助成による助成を受けたものである.
本研究では,日本海溝を波源とする1611年慶長津波 (> Mw 8.2),千島海溝を波源とする17世紀地震津波 (Mw 8.8),青森県沖で発生した1677年延宝三陸津波,下北半島北部に存在する海底活断層の隆起運動に伴う津波を数値計算の対象とした. 断層モデルは既存研究の10モデルを用い,1677年延宝三陸津波に関しては,津波高分布が似ているとされている1968年十勝沖津波のもので代用した.関根浜に対する津波の影響は,イベント堆積物が発見された露頭付近の奥行き300 mの沿岸低地への浸水率を求めることで評価した.本研究では,17世紀の地形は現在と大きく変わらないと仮定してJAGRUSを用いて計算を行った.
10個の波源モデルのうち,17世紀地震津波モデル (Mw 8.8, Ioki and Tanioka, 2016), 1611年慶長津波と17世紀地震津波が同一のイベントであるとするモデル (Mw 8.9, 岡村・行谷,2011), 千島・東北沖連動地震モデル(Mw 9.2, 北海道防災協議会,2012), 1611年慶長津波をMw 9.0とする福原・谷岡 (2017) モデルの4個のモデルで沿岸低地への浸水率が40%より大きくなり,関根浜に大きな影響及ぼしたと判断した.具体的には,17世紀地震津波モデル(Mw 8.8, Ioki and Tanioka, 2016)モデルで40%,その他のモデルは100%の浸水率であり,最も内陸部まで浸水が確認されたのは,千島・東北沖連動地震モデルである.それ以外の6個のモデルは浸水率が20%以下で関根浜に対する影響は小さいと判断した.したがって,本研究により,千島海溝南部で25 mより大きなすべり量をもつ3モデル,日本海溝北部で80 mのすべり量を持つ1モデルが,関根浜に存在する17世紀の古津波堆積物を説明可能な有力な波源であることが明らかとなった.つまり,三陸沖に波源を置く場合よりも千島海溝に波源を置いた場合の方が,関根浜は浸水しやすいと考えられる.
また,北海道胆振海岸と青森県東部沿岸地域には,波源が不明な17世紀の津波堆積物が分布している.関根浜と同様に浸水計算を行ったところ,千島・東北沖連動地震モデルのみが2地域の津波堆積物分布を説明できた.関根浜の計算結果も考慮すると,3地域の津波堆積物分布を説明できるのはこのモデルにのみ制約される.また,1640年駒ヶ岳噴火の山体崩壊に伴って発生した津波も,関根浜に分布する古津波堆積物の起源であると考えられる.その詳細なプロセスを復元したモデルは考案されていないが,海底地形から崩壊前の山体の地形を復元し,駒ヶ岳周辺の津波堆積物分布を説明できるような簡易的な津波伝播モデル (中西・岡村,2019) が考案されている.このモデルを用いて数値計算を行ったところ,関根浜に80〜90%の浸水および4.6 mの最大波高が見られたため,関根浜の古津波堆積物の波源である可能性は十分に考えられる.
したがって,関根浜の古津波堆積物の波源として東北沖連動地震モデルで表される津波や1640年駒ケ岳山体崩壊に伴って生じた津波が適当であると推定される.今後は主に上記の二つのモデルを中心として,断層パラメータを変えることにより,津波堆積物分布に合わせた高精度な波源モデルを推定していく.
なお,本研究の一部は,日本科学協会の笹川科学研究助成による助成を受けたものである.