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[MIS15-P10] 津波堆積物認定における地質学的情報の不確実性に関する予察的検討
キーワード:津波堆積物、認定手法、確率論的評価
巨大津波の発生履歴を評価する上で、地層中に存在する古津波堆積物は重要な資料である。2011年の東日本大震災以降、日本各地で古津波堆積物が精力的に調査され、自治体のハザードマップ作成や、原子力発電所の津波評価に活用されてきた。しかし、地質調査という側面から津波堆積物の認定には不確実性が伴う。イベント堆積物に現世の津波堆積物と多くの類似性が認められる場合は、その要因が津波であると認定が可能であるものの、類似性に乏しいイベント堆積物に対する解釈は未確立である。地質調査の不確実性を考慮するために、著者ら[1]はイベント堆積物の起因事象を確率的に評価する手法を考案した。この手法では、類似性が乏しい場合にも、起因事象である可能性のある複数の自然現象が抽出されるという利点がある。しかし、当手法を実務利用するためには、地質学的情報およびその解釈における不確実性評価が課題として残された。
本研究では地質学的情報に含まれる偶然的不確実性を評価するために、2012年に国内19地点で取得された東日本太平洋沖地震津波堆積物[2]を分析し、津波堆積物が有する痕跡のばらつきを調べた。この調査では浸水域を9分割した各区域から津波の有無に関わらず一試料が採取されており、主観的な調査地点の選定が避けられているという点において、古津波堆積物を対象としたボーリング調査に類似している。試料の分析結果の概要は濱田ら[3]、伊藤ら[4]などで報告されているが、本研究では、調査地点ごとの傾向ではなく、津波堆積物の一般的なばらつきを把握するために、全ての地点の津波堆積物の分析結果を統合して分析した。
イベント堆積物の供給源推定に用いられる珪藻遺骸について、津波堆積物の主要な供給源と考えられる海浜砂と、陸上の非浸水域土壌を区分できる指標について検討した結果、堆積物における海生種の有無ではなく、堆積物中の全珪藻遺骸における海生~汽水種の割合が最良の指標として選出された。津波堆積物の半数は海生~汽水種を10%以上含んでおり、その比率が高まるほど海浜砂に類似する。一方、海生~汽水種を含まない津波堆積物は全体の約8%あり、最良の指標を用いた場合においても、珪藻を用いた供給源推定に不確実性があることが確認された。つまり、現世の津波堆積物である3.11津波堆積物においても、珪藻分析により海起源と推定できる試料は約92%であり、約8%は海起源ではないと解釈されうる。
このような不確実さは試料数にも依存し、試料数が増加すれば解釈の確度が高まる。例えば、複数の試料を分析した結果、いずれも海生~汽水種が0%であれば、海起源ではない可能性が極めて高いという解釈に繋がる。逆に、分析試料数が少ない場合は、調査結果の不確実性が高い。このように、不確実さ評価は、津波堆積物調査において必要とされる調査地点数、分析数量を判断する上でも重要な情報となる。
発表においては、津波堆積物認定指標に用いられる珪藻以外の項目についての不確実さを紹介するとともに、津波堆積物調査の工学的利用に向けた不確実さ評価の活用方法について議論を行う予定である。
引用文献:
[1] 吉井匠, 田中姿郞, 伊藤由紀, 濱田崇臣, 松山昌史, 不確実性を考慮したイベント堆積物の認定⽅法 -津波堆積物への適⽤-, 日本地球惑星科学連合大会2019年予稿集, 2019.
[2] 吉井匠, 濱田崇臣, 佐々木俊法, 田中姿郞, 伊藤由紀, 松山昌史, 渡辺雅一, 奥澤康一,東北地方太平洋沖地震津波により形成された津波堆積物の堆積学的特徴, 日本地球惑星科学連合大会2014年予稿集, 2014.
[3] 濱田崇臣, 吉井匠, 佐々木俊法, 松山昌史, 田中姿郞, 伊藤由紀, 奥澤康一, 渡邊雅一, 東北地方太平洋沖地震3.11津波堆積物中の珪藻化石の分布調査, 応用地質学会研究発表会講演論文集, 2017.
[4] 伊藤由紀, 吉井匠, 田中姿郞, 濱田崇臣, 松山昌史, 津波堆積物中の有機元素分析および安定同位体比分析とその評価, 日本地球惑星科学連合2017年予稿集, 2017.
本研究では地質学的情報に含まれる偶然的不確実性を評価するために、2012年に国内19地点で取得された東日本太平洋沖地震津波堆積物[2]を分析し、津波堆積物が有する痕跡のばらつきを調べた。この調査では浸水域を9分割した各区域から津波の有無に関わらず一試料が採取されており、主観的な調査地点の選定が避けられているという点において、古津波堆積物を対象としたボーリング調査に類似している。試料の分析結果の概要は濱田ら[3]、伊藤ら[4]などで報告されているが、本研究では、調査地点ごとの傾向ではなく、津波堆積物の一般的なばらつきを把握するために、全ての地点の津波堆積物の分析結果を統合して分析した。
イベント堆積物の供給源推定に用いられる珪藻遺骸について、津波堆積物の主要な供給源と考えられる海浜砂と、陸上の非浸水域土壌を区分できる指標について検討した結果、堆積物における海生種の有無ではなく、堆積物中の全珪藻遺骸における海生~汽水種の割合が最良の指標として選出された。津波堆積物の半数は海生~汽水種を10%以上含んでおり、その比率が高まるほど海浜砂に類似する。一方、海生~汽水種を含まない津波堆積物は全体の約8%あり、最良の指標を用いた場合においても、珪藻を用いた供給源推定に不確実性があることが確認された。つまり、現世の津波堆積物である3.11津波堆積物においても、珪藻分析により海起源と推定できる試料は約92%であり、約8%は海起源ではないと解釈されうる。
このような不確実さは試料数にも依存し、試料数が増加すれば解釈の確度が高まる。例えば、複数の試料を分析した結果、いずれも海生~汽水種が0%であれば、海起源ではない可能性が極めて高いという解釈に繋がる。逆に、分析試料数が少ない場合は、調査結果の不確実性が高い。このように、不確実さ評価は、津波堆積物調査において必要とされる調査地点数、分析数量を判断する上でも重要な情報となる。
発表においては、津波堆積物認定指標に用いられる珪藻以外の項目についての不確実さを紹介するとともに、津波堆積物調査の工学的利用に向けた不確実さ評価の活用方法について議論を行う予定である。
引用文献:
[1] 吉井匠, 田中姿郞, 伊藤由紀, 濱田崇臣, 松山昌史, 不確実性を考慮したイベント堆積物の認定⽅法 -津波堆積物への適⽤-, 日本地球惑星科学連合大会2019年予稿集, 2019.
[2] 吉井匠, 濱田崇臣, 佐々木俊法, 田中姿郞, 伊藤由紀, 松山昌史, 渡辺雅一, 奥澤康一,東北地方太平洋沖地震津波により形成された津波堆積物の堆積学的特徴, 日本地球惑星科学連合大会2014年予稿集, 2014.
[3] 濱田崇臣, 吉井匠, 佐々木俊法, 松山昌史, 田中姿郞, 伊藤由紀, 奥澤康一, 渡邊雅一, 東北地方太平洋沖地震3.11津波堆積物中の珪藻化石の分布調査, 応用地質学会研究発表会講演論文集, 2017.
[4] 伊藤由紀, 吉井匠, 田中姿郞, 濱田崇臣, 松山昌史, 津波堆積物中の有機元素分析および安定同位体比分析とその評価, 日本地球惑星科学連合2017年予稿集, 2017.