日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS16] 古気候・古海洋変動

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.23

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、山崎 敦子(九州大学大学院理学研究院)、山本 彬友(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[MIS16-P03] 鹿島沖海底堆積物に含まれる浮遊性有孔虫Globigerina bulloidesの殻形態の多様性

*橋本 佑哉1、佐川 拓也2 (1.金沢大学理工学域、2.金沢大学理工研究域)

キーワード:浮遊性有孔虫、形態、鹿島沖

浮遊性有孔虫の一種Globigerina bulloidesは中緯度域を中心に広い緯度帯に生息し、先行研究(Iwasaki et al., 2017; Yamasaki et al., 2008)によって亜寒帯域及び熱帯・亜熱帯域ではそれぞれ異なる殻の特徴を持った個体が確認されている。その様な殻の形態について着目した日本近海の研究にDomitsu and Oda. (2005)があり、日本海では殻の形態の違いが大きく2種に分類でき、それは温暖・寒冷水塊に対応すると報告した。しかし、太平洋側ではその様に網羅的に水塊と殻形態を論じた研究はない。そこで、本研究では暖流の黒潮と寒流の親潮が衝突し、混合が起こることで緯度方向の水温勾配が大きくなる鹿島沖に着目し、その様に混合水塊の変動に対応するG. bulloidesの殻形態の多様性について殻を観察し定量的に計測することから検討した。研究には完新世、融氷期、最終氷期のサンプルから各120個体拾い出した180-250 μmのG. bulloidesを用いた。計測はデジタル顕微鏡を用いて撮影した画像上にて行った。計測項目は短径 [最後から1番目のチェンバー (F-1) と最後から3番目のチェンバー (F-3) 間の最大距離]、長径 [最終チェンバー (F) 最後から2番目のチェンバー(F-2) 間の最大距離]、投影面側からみた有孔虫の面積 [Foraminiferal area (FA)]、有孔虫の各チェンバーの面積、殻の巻き方向の計5項目である。また殻の厚さの違いを見るために、SEMによる断面観察も行った。計測の結果得られたデータを用い殻形態の違いを反映する定量的な指標とするために、短径と長径の比 (短径/長径)、Fの面積とF-3の面積の比 (F/F-3) をとった。そして各サンプルについてヒストグラムを作成し、それを年代の異なるもの同士で値や殻形態の比較を行った。結果は、短径/長径の値には同サンプル内で値のばらつきを確認し、値が大きいほど殻概形が円に近く、値が小さいほど殻外形が縦長に近いといったことを確認した。F/F-3に関しても同様に殻概形の違いを反映し、両指標には逆相関が見られた。また、値の両端に位置する個体群の代表個体の殻の概形にはサンプル間で大きな違いは見られないが、観察結果から殻の厚さには温暖な時代のサンプルの個体は寒冷な時代のサンプルの個体と比べると薄いといったことが確認できた。これは、Domitsu and Oda. (2005) で報告された温暖な水塊には殻の薄い個体が優勢で寒冷な水塊には殻の厚い個体が優勢であることと整合的な結果となったが、融氷期の個体の殻の厚さは中間的なものであったことから、やはり、Domitsu and Oda. (2005) の分類は鹿島沖の分類には適応できないことを裏付けるものとなった。そして、巻き方向別に短径/長径の平均値を比較したが大きな違いは見られなかったことから、巻き方向と殻形態の違いの関連性は低いことがわかった。今回の研究から指標は確かに殻概形を反映するものであったが、水塊の異なるG. bulloidesを分類するためには更に厚さに関する定量的なデータも必要であり、鹿島沖に関しては中間的な形態を持つものを考慮する必要があることを確認した。