日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS16] 古気候・古海洋変動

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.23

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、山崎 敦子(九州大学大学院理学研究院)、山本 彬友(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[MIS16-P04] 樹木年輪セルロース酸素同位体比データを用いた奄美大島の過去200年間における気候特性の検討

*増岡 晃大1、庄 建治朗1、大畠 雅史2、李 貞3、中塚 武3 (1.名古屋工業大学、2.大成建設、3.名古屋大学)


キーワード:樹木年輪セルロース、酸素同位体比、相対湿度、奄美大島、リュウキュウマツ

樹木年輪セルロースに含まれている酸素同位体比は,樹木周辺の生理学的要因に関わらず,気候学的な降水の酸素同位体比と相対湿度を反映していることが確かになっており,過去の気候を復元する有効なプロキシである.本研究では奄美大島で採取されたリュウキュウマツ(Pinus luchuensis)3個体を対象に1年輪を12分割し,樹木年輪セルロースに含まれる酸素同位体比を測定することで奄美大島における気候特性について検討する.
測定に用いた樹木年輪試料として,鹿児島県奄美大島名瀬朝仁新町の千年松公園に生育していたリュウキュウマツ(以下,千年松)と,鹿児島県奄美市名瀬浦上町の有盛神社に生育していたリュウキュウマツ2個体(以下,サンテラ松,ウンテラ松)を用いた.円盤標本から採取したサンプルをダイヤモンドホイールソーを用いて木口面に対して厚さ2mm程度の薄板に切り出し,セルロースを抽出した.幅の広い場合は24分割,狭い場合は6分割または2分割した.同位体測定には名古屋大学環境学研究科に設置された熱分解元素分析計と同位体比質量分析計のオンラインシステム(TCEA-Delta V Advantage)を用いた.測定した期間は,千年松:1788年〜1816年,サンテラ松1799年〜1847年,1914年,1915,1923年〜1927年,1986年〜1994年,ウンテラ松:1830年〜1975年,1948年〜1952年,1971年〜1990年,2002年〜2013年である.これらの測定結果を図に示す.
3個体の観測データの得られる期間のセルロース酸素同位体比データと名瀬測候所の旬平均相対湿度データを照合することで年層内の各セグメントの形成時期の推定を行う.1961年〜2012年の37年輪についての12分割した各セグメントの酸素同位体比と旬ごとの平均相対湿度との相関を分析した結果,樹木の早材形成期にあたる第1セグメントが3月上旬〜4月中旬頃,晩材形成終了期にあたる第12セグメントが11月下旬〜12月頃と推定された.
奄美大島の古文書『大嶋代官記』によると,天保4年(1833年)の旧暦の正月から3月(新暦2月下旬から4月)にかけて長雨が降ったと記述が存在する.測定した酸素同位体比データについても1833年の第1セグメント前後は例年に比べ湿潤傾向を示す結果が得られた.また長雨などの古文書記録が見つかっていない1833年以外について酸素同位体比データから1804年,1819年にも春の長雨といった事象が起こっていたことを示唆するような1833年同様の酸素同位体比の値をとっている.約15年周期で同じような気候現象が起きていたことが考えられる.近年のデータから1983年が1833年と同様に第1セグメント前後の酸素同位体比が低い類似したデータが得られた.