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[MIS16-P09] 中海の堆積物コアの藻類バイオマーカー分析による古環境変動の復元中海の堆積物コアの藻類バイオマーカー分析による古環境変動の復元
キーワード:汽水湖、中海、藻類バイオマーカー、アルケノン、アルキルジオール、古環境復元
藻類は汽水や湖沼環境において多様であり、環境変化に応じて敏感に群集組成や生産する化合物を変化させる。そのため、この性質を利用して藻類の生産したバイオマーカーは水圏の古環境復元に用いられている。特にハプト藻の生産するバイオマーカーである長鎖アルケノンは海洋の温度復元に広く用いられているバイオマーカーであるが、湖沼ではその発見例が少ない。日本では、北海道豊似湖と秋田県一ノ目潟、島根・鳥取県中海・宍道湖など2,3か所でのみ発見されている。また、長鎖アルキルジオール(C28-C32)は海洋や湖沼の堆積物に広く分布し、古環境指標として近年用いられている。特にC32 1,15-ジオールは淡水生の真正眼点藻が起源と考えられていて、河川などの淡水流入の指標として提案されている(Lattaud et al., 2016)。そこで本研究では藻類バイオマーカーの長鎖アルケノンと長鎖アルキルジオールの二つに注目し、それらが中海の環境変化をどのように記録しているのかを確かめるため、中海の堆積物コアのバイオマーカー分析を行った。
堆積物コアは中海の中心部Nk3C地点で2017年に回収された。コアの年代はCs、Pb同位体により決定し、最下部はおよそ600年前を示した。バイオマーカー分析は抽出した溶媒をカラムで分けた画分ごとにGC-MS、GC-FIDで分析した。調査地である中海は、高度経済成長による人為的な影響を強く受けている地域である。特に、1960~1980 年代の干拓・淡水化計画により生態系に大きな影響を与えたことが知られている。
藻類バイオマーカーとして、長鎖アルケノン、アルキルジオールが今回分析した全ての試料から検出された。長鎖アルケノンは干拓・淡水化事業の行われた時期より上位の層と下位の層で組成が異なった。上位層ではC37:4, C40 が存在し、3不飽和が優勢である一方で、下位層では C40 が存在せず2不飽和が優勢である。ハプト藻アルケノン生産種は種によってアルケノン組成の特徴が異なり、C37:4,C40 が見つかる上位層では内陸塩湖や沿岸に分布するGroup II の種が、下位層では外洋や沿岸に分布するGroup III の種がそれぞれ主要な生産種であることが示唆された。 また、アルキルジオールも干拓・淡水化事業の前後で組成が変化した。上位では淡水生真正眼点藻が豊富に含むC32 1,15-ジオール が優勢であり河川的、下位では海水生真正眼点藻が豊富に含むC30 1,15-diol が優勢であり浅海的な環境であったことが示唆された。これはアルケノン組成から推定された各層準の主要なアルケノン生産種の生息環境と一致する。これらのことから、中海では干拓・淡水化事業の時期に藻類の種に変化があり、アルケノンやアルキルジオールはその指標として有用であることが分かった。また、水温復元に用いられるアルケノン不飽和指数は、通常用いられるUK37が生産種の切り替わる層準付近で換算水温にして5 ℃以上に相当する飛躍を示したのに対して、湖沼アルケノン生産種に特化したアルケノン不飽和指数UK’’37 (Zheng et al., 2016)は大きな飛躍を示さず、現場の水温変化をより安定して記録している可能性がある。復元された水温変動は解像度が低いものの、江戸時代の4大飢饉や日本の17世紀以降の気候の時代区分と大局的に一致しているように見え、藻類バイオマーカー分析による古環境、さらには古気候変遷の復元の可能性が高いと期待できる。
堆積物コアは中海の中心部Nk3C地点で2017年に回収された。コアの年代はCs、Pb同位体により決定し、最下部はおよそ600年前を示した。バイオマーカー分析は抽出した溶媒をカラムで分けた画分ごとにGC-MS、GC-FIDで分析した。調査地である中海は、高度経済成長による人為的な影響を強く受けている地域である。特に、1960~1980 年代の干拓・淡水化計画により生態系に大きな影響を与えたことが知られている。
藻類バイオマーカーとして、長鎖アルケノン、アルキルジオールが今回分析した全ての試料から検出された。長鎖アルケノンは干拓・淡水化事業の行われた時期より上位の層と下位の層で組成が異なった。上位層ではC37:4, C40 が存在し、3不飽和が優勢である一方で、下位層では C40 が存在せず2不飽和が優勢である。ハプト藻アルケノン生産種は種によってアルケノン組成の特徴が異なり、C37:4,C40 が見つかる上位層では内陸塩湖や沿岸に分布するGroup II の種が、下位層では外洋や沿岸に分布するGroup III の種がそれぞれ主要な生産種であることが示唆された。 また、アルキルジオールも干拓・淡水化事業の前後で組成が変化した。上位では淡水生真正眼点藻が豊富に含むC32 1,15-ジオール が優勢であり河川的、下位では海水生真正眼点藻が豊富に含むC30 1,15-diol が優勢であり浅海的な環境であったことが示唆された。これはアルケノン組成から推定された各層準の主要なアルケノン生産種の生息環境と一致する。これらのことから、中海では干拓・淡水化事業の時期に藻類の種に変化があり、アルケノンやアルキルジオールはその指標として有用であることが分かった。また、水温復元に用いられるアルケノン不飽和指数は、通常用いられるUK37が生産種の切り替わる層準付近で換算水温にして5 ℃以上に相当する飛躍を示したのに対して、湖沼アルケノン生産種に特化したアルケノン不飽和指数UK’’37 (Zheng et al., 2016)は大きな飛躍を示さず、現場の水温変化をより安定して記録している可能性がある。復元された水温変動は解像度が低いものの、江戸時代の4大飢饉や日本の17世紀以降の気候の時代区分と大局的に一致しているように見え、藻類バイオマーカー分析による古環境、さらには古気候変遷の復元の可能性が高いと期待できる。