日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS16] 古気候・古海洋変動

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.23

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、山崎 敦子(九州大学大学院理学研究院)、山本 彬友(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[MIS16-P10] 貝形虫に基づく完新世における北極海西部の海洋変動

*山田 桂1、山口 滉介1、内田 昌男2、板木 拓也3、万徳 佳菜子2 (1.信州大学理学部地球学コース、2.国立環境研究所、3.産業技術総合研究所)

キーワード:完新世、古海洋変動、貝形虫

近年,後期更新世から完新世にかけて,数千年の間に起こる急激な気候変動が見出されている.それらのいくつかは北極海や北西大西洋で見出されており,北極海の海洋変動を正確に把握する重要性を示唆している.しかし,太平洋,大西洋からの流入に加えて陸から淡水が供給されることにより複雑な水塊構造を形成している北極海では,完新世の海洋変動の全容解明には至っていない.そこで,北極海に流入する大西洋水と太平洋水の両水塊の影響を受ける西部北極海において,水深200 m以浅に注目し,完新世の浅海域の海洋変動を明らかにすることを目的とした.本研究で用いた試料は,北米大陸から北極海に淡水を運ぶマッケンジー川河口に位置するマッケンジートラフの水深65 m地点と,太平洋水と大西洋水の境界付近に位置するチュクチ陸棚北端の水深197 m地点から得られた2つの海底コア試料である.これらのコアから得られた貝形虫の群集変化と殻のMg/Ca分析に基づいて検討した.マッケンジートラフのコアから産出した貝形虫は浅海種が多くを占め,群集の変化は塩分変動を示唆していると推察された.一方,チュクチ海のコアの貝形虫は太平洋水と大西洋水にそれぞれ卓越するタクサから構成され,各水塊の強度を示唆すると考えられた.Mg/Ca分析には,すでに古水温計が確立されているKrithe属に加えて,両コアを通して最も優占するSemicytherura complanataをそれぞれ数個体まとめて使用し,高知大学海洋コア総合研究センター所有のICP-AESを借用してMgとCa濃度を分析した.Krithe huntiのMg/Caから復元した古水温を基に,同じ試料からえられたS. complanataのMg/Ca-水温回帰式を得た.同種のMg/Caに基づく古水温変動によれば,チュクチ陸棚では約7000 cal year BPと2000 cal year BPに水温が高かった時期が見られた.両期間は大西洋水に卓越する貝形虫種の割合が増加していること,掘削地点は現在太平洋水と大西洋水が接する深度に位置していることから,一時的に大西洋水の影響が強くなった可能性がある.一方,マッケンジートラフ地域の底層水温は約5500~4900 cal year BPに高く,その後は比較的安定していたことが明らかになった.同コアの貝形虫群集から推察された塩分の時間変化に基づくと,マッケンジートラフの相対塩分は過去7700 cal year BPから現在まで長期的に上昇するとともに,約2600, 600, 200 cal year BPには一時的に上昇したことが判明した.約7000〜5000 cal year BPの完新世気候最適期以降,北半球の氷河は前進後退を繰り返しながら拡大し続けていることから,マッケンジートラフで見られる水温と塩分上昇はこの影響を受けたためと推察される.