日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS16] 古気候・古海洋変動

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.23

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、山崎 敦子(九州大学大学院理学研究院)、山本 彬友(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[MIS16-P16] モンゴル北部の湖底堆積物から復元する最終氷期以降の植生変遷

*今岡 良介1、志知 幸治2、長谷川 精1、Niiden Ichinnorov3、勝田 長貴4、 Davaasuren Davaadorj5、村山 雅史1、岩井 雅夫1、出穂 雅実6 (1.高知大学、2.森林総合研究所、3.モンゴル古生物研究所、4.岐阜大学、5.モンゴル国立大学、6.東京都立大学)

キーワード:花粉分析、植生復元、最終氷期、永久凍土、地球温暖化

モンゴル北部は永久凍土帯と砂漠帯の境界部に位置し,気候変動に対して極めて鋭敏な地域である.本研究では,モンゴル北部に位置するサンギンダライ湖の湖底堆積物に含まれる花粉群集および元素組成の変化から,現在は森林ステップで特徴付けられる同地域の植生と環境が,過去3万年間でどのように変化したかの復元を試みた.そして,周辺域(ロシア南部やモンゴル南部)の花粉記録とも比較して時空間的な植生変遷を復元し,温暖化によって東アジアの環境や植生がどのように変化していくのかの予測も試みた.本研究で用いた試料は,2016年にサンギンダライ湖で採取した表層コア(82cm長)と,2019年に掘削したボーリングコア(約13m長)である.本発表では,XRFコアスキャナーを用いた高解像度元素組成分析に基づく古環境変動と,花粉分析に基づく植生変遷の結果について報告する.まず,14C年代測定の結果,表層堆積物コアの最深部の年代は約2800年前に相当することが明らかになった.ボーリングコアの年代モデルはまだ暫定的であるが,茶褐色泥層からなる上位4m部が完新世に,4mより下位の黒灰色中粒砂と茶褐色シルト層の互層が最終氷期に相当すると考えられる.元素組成分析の結果,砂層でSi/Ti比が高く,シルト層でMn/Fe比(湖底還元度の指標)とCa/Ti(炭酸塩量の指標)が高く,また泥層ではCa/Tiが低くなっており,最終氷期には氾濫原と浅い塩湖が繰り返される環境であったのに対し,完新世には現在と同様に湖水位が高い環境に変わったことが明らかになった.また花粉分析とバイオーム復元(Tarasov et al., 2000)の結果,最終氷期にはヨモギ属などの草本花粉が占有し,砂漠及びステップ植生が卓越していた一方で,完新世にはマツ属などの樹木花粉が増加し,相対的に湿潤な環境を示すステップ及びタイガ植生へと植生が変化したことが明らかになった.以上の結果と,ロシア南部コトケル湖(Shichi et al., 2009)やモンゴル南部オログ湖(Yu et al., 2017)の花粉データとも比較検討した結果,最終氷期にはロシア南部はステップ植生,モンゴル北部はステップ及び砂漠植生,そしてモンゴル南部はステップ環境が卓越していた。一方で完新世にはロシア南部は森林植生,モンゴル北部はステップ及びタイガ植生,そしてモンゴル南部は砂漠植生が卓越していた。以上のことから,最終氷期にロシア南部及びモンゴル北部は凍土凍結により乾燥環境であったが,モンゴル南部は不連続永久凍土帯に位置することで相対的に湿潤環境であったことが示唆された.一方で完新世には凍土融解によりロシア南部及びモンゴル北部が湿潤環境に変わり,モンゴル南部は凍土消失により乾燥環境に変わったことが示唆された.



文献

Shichi, K., et al. (2009). Late Pleistocene and Holocene vegetation and climate records from Lake Kotokel, central Baikal region. Quaternary International, 205, 98-110.

Tarasov, P. E., et al. (2000). Last glacial maximum biomes reconstructed from pollen and plant macrofossil data from northern Eurasia. Journal of Biogeography, 27, 609-620.

Yu, K., et al. (2019). Late Quaternary environments in the Gobi Desert of Mongolia: Vegetation, hydrological, and palaeoclimate evolution. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 514, 77-91.