日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS17] 結晶成⻑、溶解における界⾯・ナノ現象

2021年6月5日(土) 15:30 〜 17:00 Ch.03 (Zoom会場03)

コンビーナ:木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)、三浦 均(名古屋市立大学大学院理学研究科)、佐藤 久夫(日本原燃株式会社埋設事業部)、座長:三浦 均(名古屋市立大学大学院理学研究科)

16:15 〜 16:30

[MIS17-09] 相図により明らかになったノルセサイトの隠された安定性

*麻川 明俊1、礒部 馨1、畝田 廣志1、越後 至1、小松 隆一1 (1.山口大学大学院創成科学研究科)

キーワード:ノルセサイト、相図、溶液媒介転移

ノルセサイトBaMg(CO3)2はDouble carbonateの中で、大気圧下で比較的容易に合成することができることから、永年鉱物学の問題であったドロマイト問題を解決するための最適なモデル結晶である。ノルセサイトは従来、準安定状態の炭酸バ リウムから溶液を介して結晶化(溶液媒介転移)すると言われている。そのため、一般的に ノルセサイトの結晶化駆動力はノルセサイト と炭酸バリウムの溶解度の差となる。 一方、我々の予備実験ではノルセサイトの 溶解過程においても pHが 2 段階で変化することがわかってきた。ノルセサイトが溶解し始めると、pHはたった数分で一旦上昇し、その後 pHは一定になる。更に 20分経過すると、 pHは約20000分にかけて緩やかに減少し、再度一定となる。この pHの上昇過程は炭酸塩の 溶解と対応しており、一方、pHの緩やかな減少は炭酸バリウムの生成と対応することがわ かっている。 ここで、ノルセサイトの溶液媒介転移と 2 段階変化を示す溶解過程を比較すると、ノルセサイトの溶解後の炭酸バリウムの生成は熱力学的に矛盾することになる。この不一致がノルセサイトの結晶化の理解をさらに複雑にしていると考えられる。そこで、我々は炭酸バリウムとノルセサイトの含むカチオン種が違うことから、溶液内の Ba2+と Mg2+の比が熱力学的に重要な役割を果たすと発想した。本研究 ではノルセサイトの熱力学的安定性と Ba2+と Mg2+の比の相関を調べた。温度T=40~90℃の純水50mLにノルセサイト100mgを添加し、溶液のpH を計測しながら約1ヶ月間、加熱撹拌をし続けた。約 1ヶ月間のノルセサイトを溶出させた溶液は ICP 発光分光分析と全有機炭素測定により Ba2+, Mg2+, CO32-濃度を測定した。ノルセサイトが安定性を確認するため、残留物を粉末 XRD回折測定により計測した。
 その結果、ノルセサイトを純水中に約1ヶ月間溶解させると、60℃以上で残留物内に炭酸バ リウムが生成することがわかった。また、溶液内の Ba2+とMg2+の濃度比は 70℃以上でBa2+リッチとなり、70℃以下でMg2+リッチとなった。一方、ノルセサイトの飽和溶液(化学量論組成:Ba2+:Mg2+=1:1)での炭酸バリウムは 70℃以上で過飽和から未飽和になった。これらの結果より、我々はノルセサイトを含む水溶液の系は化学量論組成よりも安定な鞍点となる組成を有すると結論付けた。