日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS18] 地球掘削科学

2021年6月4日(金) 10:45 〜 12:15 Ch.19 (Zoom会場19)

コンビーナ:黒田 潤一郎(東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座 岩石鉱物学研究室)、藤原 治(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、氏家 恒太郎(筑波大学生命環境系)、座長:黒田 潤一郎(東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門)、安川 和孝(東京大学大学院工学系研究科エネルギー・資源フロンティアセンター)

11:15 〜 11:30

[MIS18-03] アジアモンスーン変動史解明のための東シナ海再掘削の提案

★招待講演

*久保田 好美1、池原 研2、松崎 賢史3、石野 沙季2、三澤 文慶2、大坪 誠2、木下 正高4、亀尾 桂3、田村 千織3、新井 隆太5、土岐 知弘6、満留 由来6、蔡 之榕7、竹原 景子8、加藤 広大8、桑野 太輔9、松尾 晃嗣郎10、鈴木 啓太11、堀内 美咲11、片山 陽平12、奥村 智13、多田 隆治14、入野 智久15、荒井 晃作2、井上 卓彦2、佐川 拓也16、池原 実8、岡崎 裕典10、堀川 恵司17 (1.国立科学博物館、2.産業技術総合研究所、3.東京大学 大気海洋研究所、4.東京大学 地震研究所 、5.国立研究開発法人海洋研究開発機構、6.琉球大学、7.京都大学、8.高知大学、9.千葉大学、10.九州大学、11.日本海洋事業株式会社、12.株式会社マリン・ワーク・ジャパン、13.株式会社MOL マリン、14.東京大学 理学系研究科、15.北海道大学、16.金沢大学、17.富山大学)

キーワード:アジアモンスーン、国際統合深海掘削計画、東シナ海、第四紀、千年スケール、鍾乳石

東アジア夏季モンスーンは,梅雨に代表される東アジアの水循環を支配する気候システムである。東アジア夏季モンスーンは人口が集中する東アジア地域に洪水や干ばつといった災害をもたらすため,将来予測の精度向上とそのための変動メカニズムの解明が急がれる。しかし,東アジア夏季モンスーンの長期変動予測(50年以上の周期)は困難であり,観測記録よりも長い長期変動のメカニズムを明らかにできる古気候・古海洋学的な研究が不可欠である。

東シナ海北部は,長江からの淡水流入が表層塩分を変えるため,東アジア夏季モンスーン地域の降水量を復元するのに適した海域である。筆者らの先行研究では,IODP Exp. 346の東シナ海北部サイトU1429において,有孔虫化石の化学分析から過去40万年の水温と,降水量(塩分)指標である海水の酸素同位体比(δ18Ow)を復元した。このサイトでは,速い堆積速度(30〜70cm/ky)の良質なコアを得ることができた。この海洋堆積物コアからは,浮遊性有孔虫化石を用いて水温・降水量(塩分)といった気候の基本的なパラメータを数値で復元可能という点でアジアモンスーン記録のスタンダードと見なされる中国鍾乳石といった他の陸上モンスーン記録よりも優れている。U1429の解析の結果,千年規模の東アジアの気候変動が北大西洋高緯度域の気候変動に強く依存することを示した。この北大西洋と東アジア地域の関係は,全球的な千年スケールの変動の振幅が増大した150万年前頃から始まった可能性が高いが,過去150万年間を通してのリンクのメカニズムについては証拠が乏しく,まだよくわかっていない。近年の気候・海洋モデル研究では,将来,北大西洋深層水循環が著しく弱化する可能性が指摘されており,東アジアの気候とのリンクのメカニズム解明が急務である。また,中国鍾乳石の記録は過去70万年前までしかデータが存在しないため,それより古い時代については東シナ海の記録がアジアモンスーン地域のスタンダードになる可能性を秘めている。

そこで筆者らは,東シナ海北部においてさらに150万年前までの高時間解像度の良質で連続的な堆積物を得るため,U1429付近でのIODP再掘削を提案する予定である。

2013年のIODP U1429地点掘削時には,海底下200mの深度で砂層(層厚不明)に阻まれ,それ以深(40万年以前の堆積物)の掘削が断念された。そこで,2021年1月〜2月の白鳳丸KH-21-3航海では,より良い掘削候補地点を抽出するため,成層した地層が既存のデータでよく見えているU1429サイトの南東部に絞ってサイトサーベイを実施した。本調査では,卓越周波数の高い音源であるMini-GIガンを用いたマルチチャンネル反射法地震探査と,ピストンコアラー,マルチプルコアラーによる堆積物採取を行った。本論では,その結果の報告とともに将来の東シナ海IODP掘削にむけた提案の概要についても発表する。