日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS18] 地球掘削科学

2021年6月4日(金) 10:45 〜 12:15 Ch.19 (Zoom会場19)

コンビーナ:黒田 潤一郎(東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座 岩石鉱物学研究室)、藤原 治(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、氏家 恒太郎(筑波大学生命環境系)、座長:黒田 潤一郎(東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門)、安川 和孝(東京大学大学院工学系研究科エネルギー・資源フロンティアセンター)

11:45 〜 12:00

[MIS18-05] IODP深海掘削で得られたジュラー白亜系陸成堆積物の有機地球化学的特徴とその意義

*福島 柊汰郎1、長谷川 卓1 (1.金沢大学)

キーワード:バイオマーカー、IODP Expedition 369

海底の堆積物・岩石に記録されたデータの回収、海底下の環境のモニタリングから地球史及びダイナミクスを調査する国際深海科学掘削計画IODP: International Ocean Discovery Program の 369 次航海においてSite U1515では①テチス海南縁部の堆積物、②時代はジュラ 紀-前期白亜紀、③陸成堆積物、④埋没進度が小さく有機 地球化学的に未熟性であるという 4 条件を備えた堆積物試料が掘削された(Huber et al, 2019)。このような試料の有機地球化学的研究例はこれまでになく、Site U1515の堆積物試料に対して有機地球化学的研究を進めることで有機地球化学的に新たな知見が得られることが大いに期待できる。そのような研究を進める前段階として、本研究においてはSite U1515堆積物試料に含まれるバイオマーカー(生物の分子化石)に対して基礎的な調査を行った。具体的には、試料に研究対象となり得るバイオマ ーカーが分析に必要量含まれるのか、具体的にどのようなバイオマーカーが含まれ,それらの多様性はどの程度か、またそれらのバイオマーカーの保存状態(熱熟成度)は研究に適しているのかといったバイオマーカーの記載を行うことを目的として研究を進めた。このような同一条件の研究例がない未知試料に対してバイオマーカー分析を行うことは未知の地域で野外調査を行い、そこで化石記載を行うことと同意義の重要性を持っており、今後の研究展開のための礎を作るものである。

 U1515A のジュラ紀から前期白亜紀の堆積物と目される範囲に対して8試料でガスクロマトグラフィー(GC)及び ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)を行った結果、いずれの試料にも研究に有用なバイオマーカーが分析に十分量含まれていることが分かった。含まれるバイオマーカーを大分するとn-alkane、脂肪族hopanoid、脂肪族steroid、芳香族炭化水素類、フェノール 性ジテルペノイド、hopanone・steroidketoneの 8種類であり、n-alkane、脂肪族hopanoid、脂肪族steroid、steroidketone の分布から8試料はいずれも未熟性な陸成堆積物であることが示唆された。フェノール性ジテルペノイドとn-alkaneの分布からは古植生を鑑みることができ、堆積物へ流入する有機物において8試料のいずれにおいても陸上高等植物が支配的であったことが考察された。また、その中でも試料によって支配的な有機物流入源となった植物グループが異なることが分かった。フェノール性ジテルペノイドに関しては、さらに先行研究(Marynowski et al., 2006)との比較から、かつてジュラ紀から少なくとも前期白亜紀にはそれらの起源となる針葉樹が南北半球にわたって分布していたことが初めて明らかになった。