12:00 〜 12:15
[MIS18-06] 南半球高緯度域IODP Site U1516に記録された白亜紀OAE2のC40アルケノン炭素同位体比層序とその意義
キーワード:炭素同位体比、アルケノン、白亜紀
IODP Exp. 369 Site U1516の白亜系のバイオマーカーに確認されたC40アルケノンを用いた炭素同位体比層序を構築した結果,OAE2の鋭いエクスカーションが確認された.
堆積物から抽出されるアルケノン(直鎖型アルキルケトン)分子は植物プランクトンであるハプト藻類が排他的に合成する有機物であり,かつ続成にも強いことから,第四紀および新第三紀の海底堆積物から古海洋環境を評価する際には重要なツールとして用いられている.古水温を定量的に評価するために用いられるのはアルケノン分子のうち炭素数37(C37アルケノン)のもので,直鎖状の構造の中に2から4つの不飽和部位(炭素の二重結合)を持つ.この不飽和分子の比率が古水温と直線的関係を持つことが判っている.一方,過去の温暖な地質時代である古第三紀や白亜紀からもC37アルケノンは検出されているが,高温であったためか2不飽和のものしかみつかっておらず,古水温推定には利用できない.それらの時代からは炭素数37から41までの2不飽和アルケノンの報告がある.
本研究では,南半球高緯度の古インド洋南縁部に位置していたオーストラリア大陸の南西沖で掘削が行われたIODP Exp. 369 Site U1516の後期白亜紀の試料から炭素数37, 38, 39および40のアルケノン分子(C40アルケノン)を確認した. C40アルケノンの2不飽和のもの(C40:2Et) の含有量は他のアルケノン類に比べて高かった.また白亜紀の試料から世界で初めて3不飽和のもの(C40:3Et)も検出した.
C40:2Etの含有量は,特にセノマニアン階最上位にある黒色粘土層(海洋無酸素事変:OAE2に関連する堆積物)で特に高かったが,それより下位では小さく,上位では黒色粘土岩から30cm以上離れた試料からは全く検出されなかった.これはTOCの変動と調和的であった.
黒色粘土層を挟む12試料からC40:2Etの炭素同位体比を分析することができた.下位側の3つの試料を除いて炭酸カルシウムの含有量が低いため炭酸塩を用いた炭素同位体比曲線が得られていない層準に相当するが,ここは炭素同位体比層序による国際対比を行う上では最も重要な範囲である.本研究ではC40:2Etの炭素同位体比層序を用いてこれを補填することができた.炭素同位体比は下位から上位に向かって1‰程度の変動があるものの徐々に上昇していき,黒色粘土層最上部付近で最大値-29‰を取り,低下傾向に転じる.これはOAE2の炭素同位体比極大層準の一つが,黒色粘土層最上部付近にある事を示している.炭素同位体比エクスカーションの幅は約4‰にもおよび,このピークがOAE2の下部を代表するものであることを示唆している.この解釈が正しければ古インド洋南縁部では,OAE2による有機物濃集は,炭素同位体比の正への最初の立ち上がり期間のみに限定的にあったことになる.今後,詳細な生層序や浮遊性有孔虫の個体ごとの炭素・酸素同位体比分析の結果と合わせて更に検討を進めていく必要がある.
堆積物から抽出されるアルケノン(直鎖型アルキルケトン)分子は植物プランクトンであるハプト藻類が排他的に合成する有機物であり,かつ続成にも強いことから,第四紀および新第三紀の海底堆積物から古海洋環境を評価する際には重要なツールとして用いられている.古水温を定量的に評価するために用いられるのはアルケノン分子のうち炭素数37(C37アルケノン)のもので,直鎖状の構造の中に2から4つの不飽和部位(炭素の二重結合)を持つ.この不飽和分子の比率が古水温と直線的関係を持つことが判っている.一方,過去の温暖な地質時代である古第三紀や白亜紀からもC37アルケノンは検出されているが,高温であったためか2不飽和のものしかみつかっておらず,古水温推定には利用できない.それらの時代からは炭素数37から41までの2不飽和アルケノンの報告がある.
本研究では,南半球高緯度の古インド洋南縁部に位置していたオーストラリア大陸の南西沖で掘削が行われたIODP Exp. 369 Site U1516の後期白亜紀の試料から炭素数37, 38, 39および40のアルケノン分子(C40アルケノン)を確認した. C40アルケノンの2不飽和のもの(C40:2Et) の含有量は他のアルケノン類に比べて高かった.また白亜紀の試料から世界で初めて3不飽和のもの(C40:3Et)も検出した.
C40:2Etの含有量は,特にセノマニアン階最上位にある黒色粘土層(海洋無酸素事変:OAE2に関連する堆積物)で特に高かったが,それより下位では小さく,上位では黒色粘土岩から30cm以上離れた試料からは全く検出されなかった.これはTOCの変動と調和的であった.
黒色粘土層を挟む12試料からC40:2Etの炭素同位体比を分析することができた.下位側の3つの試料を除いて炭酸カルシウムの含有量が低いため炭酸塩を用いた炭素同位体比曲線が得られていない層準に相当するが,ここは炭素同位体比層序による国際対比を行う上では最も重要な範囲である.本研究ではC40:2Etの炭素同位体比層序を用いてこれを補填することができた.炭素同位体比は下位から上位に向かって1‰程度の変動があるものの徐々に上昇していき,黒色粘土層最上部付近で最大値-29‰を取り,低下傾向に転じる.これはOAE2の炭素同位体比極大層準の一つが,黒色粘土層最上部付近にある事を示している.炭素同位体比エクスカーションの幅は約4‰にもおよび,このピークがOAE2の下部を代表するものであることを示唆している.この解釈が正しければ古インド洋南縁部では,OAE2による有機物濃集は,炭素同位体比の正への最初の立ち上がり期間のみに限定的にあったことになる.今後,詳細な生層序や浮遊性有孔虫の個体ごとの炭素・酸素同位体比分析の結果と合わせて更に検討を進めていく必要がある.