16:45 〜 17:00
[MIS18-18] 中部沖縄トラフ野甫熱水地帯で観測された温度潮汐変動とその原因
キーワード:沖縄トラフ熱水活動、潮汐変動、黒鉱養殖装置
中部沖縄トラフ熱水域では,活発な熱水噴出域が数多く発見されている.その中の一つが伊平屋小海嶺の南側に位置する野甫(のほ)熱水地帯である.内閣府の戦略的イノベーション想像プログラム(SIP)により,2016年3月から12月まで,中部沖縄トラフ野甫熱水掘削孔 Hole C9017Bの孔口に黒鉱養殖装置が設置された.本装置には,2対の温度・圧力計,流量計,ロードセルおよび記録装置が設置されており,一部を除いて設置期間中に連続記録が得られた.
Hole C9017Bの掘削は海底下50mまで行われ,その後スクリーンケーシングが約20m分設置された.孔口に取り付けられた黒鉱養殖装置は,孔口から上方に伸びる内径2インチのパイプ内部,およびその上部に取り付けられた黒鉱養殖タンク(Cellと呼ぶ)上部の2か所に温度計・圧力計が取り付けられ,2分間隔でデータが得られた.本講演では,記録された温度・圧力の変動について記載し,その原因を考察する.
記録データを検討したところ,パイプ・Cell内の温度・圧力に潮汐(M2)に一致する周期的変動と非周期的変動が観測された.観測初期では,平均温度は75-76℃,潮汐変動の(片)振幅は0.3℃程度であった.Hole C9017Bに黒鉱養殖装置を設置した直後に潮汐変動が開始していることから,孔内から上昇する熱水の熱エネルギーが潮汐に同期して変動していることが分かる.一方,計器の分解能不足ではあったが,圧力データにも振幅・位相ともに理論潮汐モデルNAOTIDE (Matsumoto et al., 2000) のM2文潮に一致すると思われる変動が記録された.すなわち黒鉱養殖装置内の圧力変動は,海洋潮汐に一致することが分かった.
温度潮汐変動は,パイプ・Cell内ともに,NAOTIDEによる圧力推定値に対して150°程度位相が遅れている(ほぼ反転している).そのような温度変動のメカニズムとして,周囲の海水の流れ(潮汐に対応して周期的に運動)によるCell外部からの温度擾乱,パイプ内部を通過する熱水の速度変化に起因する動圧変動や熱伝導による放熱,を考えたが,いずれも十分に温度変動を説明できるとは言い難い.そこで,地下において実際に熱水の湧出温度・圧力が潮汐により変動しているのではないか,と考えた.
Jupp & Schultz (2004)は,噴出する熱水の温度・圧力・流速が潮汐の影響を受けるメカニズムを1次元多孔質および熱伝導モデルを用いて論じている.それによれば,今回観測された150°程度の位相差を説明するためには,地下の浸透率がある程度大きく,潮汐応答が到達する深度が深くてダルシー速度も大きいことが必要となることが分かった.
さらに,地下の間隙やクラックが潮汐応力変化と共に変動している可能性もある.水の圧縮率は固体より大きいため,潮汐により地下のクラックが開閉するであろう.本講演では,モデル解析によりもっともありうるモデルを提案する.
一方,潮汐以外の非周期的変化として,観測期間中8月頃から徐々に熱水の計測温度が低下(30-40℃まで)し,それに伴い潮汐に同期した温度変動の振幅が増加した.この原因の一つとして,黒鉱養殖装置のパイプが沈殿物により詰まりを起こした可能性が最も高いと考えている.
Hole C9017Bの掘削は海底下50mまで行われ,その後スクリーンケーシングが約20m分設置された.孔口に取り付けられた黒鉱養殖装置は,孔口から上方に伸びる内径2インチのパイプ内部,およびその上部に取り付けられた黒鉱養殖タンク(Cellと呼ぶ)上部の2か所に温度計・圧力計が取り付けられ,2分間隔でデータが得られた.本講演では,記録された温度・圧力の変動について記載し,その原因を考察する.
記録データを検討したところ,パイプ・Cell内の温度・圧力に潮汐(M2)に一致する周期的変動と非周期的変動が観測された.観測初期では,平均温度は75-76℃,潮汐変動の(片)振幅は0.3℃程度であった.Hole C9017Bに黒鉱養殖装置を設置した直後に潮汐変動が開始していることから,孔内から上昇する熱水の熱エネルギーが潮汐に同期して変動していることが分かる.一方,計器の分解能不足ではあったが,圧力データにも振幅・位相ともに理論潮汐モデルNAOTIDE (Matsumoto et al., 2000) のM2文潮に一致すると思われる変動が記録された.すなわち黒鉱養殖装置内の圧力変動は,海洋潮汐に一致することが分かった.
温度潮汐変動は,パイプ・Cell内ともに,NAOTIDEによる圧力推定値に対して150°程度位相が遅れている(ほぼ反転している).そのような温度変動のメカニズムとして,周囲の海水の流れ(潮汐に対応して周期的に運動)によるCell外部からの温度擾乱,パイプ内部を通過する熱水の速度変化に起因する動圧変動や熱伝導による放熱,を考えたが,いずれも十分に温度変動を説明できるとは言い難い.そこで,地下において実際に熱水の湧出温度・圧力が潮汐により変動しているのではないか,と考えた.
Jupp & Schultz (2004)は,噴出する熱水の温度・圧力・流速が潮汐の影響を受けるメカニズムを1次元多孔質および熱伝導モデルを用いて論じている.それによれば,今回観測された150°程度の位相差を説明するためには,地下の浸透率がある程度大きく,潮汐応答が到達する深度が深くてダルシー速度も大きいことが必要となることが分かった.
さらに,地下の間隙やクラックが潮汐応力変化と共に変動している可能性もある.水の圧縮率は固体より大きいため,潮汐により地下のクラックが開閉するであろう.本講演では,モデル解析によりもっともありうるモデルを提案する.
一方,潮汐以外の非周期的変化として,観測期間中8月頃から徐々に熱水の計測温度が低下(30-40℃まで)し,それに伴い潮汐に同期した温度変動の振幅が増加した.この原因の一つとして,黒鉱養殖装置のパイプが沈殿物により詰まりを起こした可能性が最も高いと考えている.