日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS20] 地球科学としての海洋プラスチック

2021年6月5日(土) 15:30 〜 17:00 Ch.10 (Zoom会場10)

コンビーナ:磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、川村 喜一郎(山口大学)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、土屋 正史(国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境部門)、座長:川村 喜一郎(山口大学)

16:15 〜 16:30

[MIS20-10] モンゴル都市河川におけるマイクロプラスチック被覆物の化学的性状

*川東 正幸1、バットトゥルガ バットドゥラム1 (1.東京都立大学)

キーワード:バイオフィルム、発泡スチロール、有機物組成、含窒素官能基、顕微FT-IR

環境中に放出されたプラスチックは温度差,凍結融解,光や衝撃によって次第に劣化し,細かくなる一方で表面積を拡大し,環境中の様々な物質との反応性を変化させる。また,プラスチック表面に付着し増殖した微生物に由来する有機物も本来安定なプラスチックの反応性を変化させうる。このようなプラスチックの表面被覆物には微小な植物体残渣や粘土・シルトも含まれることから多様な反応性が予測された。これらの被覆物はプラスチックの存在場である環境の影響を受けることから,被覆物の特徴からプラスチックの存在した環境を予測することも可能だと考えられる。そこで,本研究では環境中のプラスチック表面における被覆物を分析対象とし,スペクトル解析からその特徴付けを行なった。

研究対象のプラスチックは,モンゴル国の首都ウランバートルを横断する都市河川の河岸より採取した発泡スチロールであり,環境中で崩壊して生成した一つの球状単位の 表面被覆物を分析対象とした。発泡スチロールは同国都市部では主なプラスチックごみであり,河川流域の流から下流まで広く分布する。発泡スチロール片の表面を顕微FT-IRで一定面積の照射領域を定めてスペクトルを取得した。発泡スチロール片を過酸化水素で処理し,表面被覆物を除去した表面からもスペクトルを取得し,両者の差スペクトルを表面被覆物由来スペクトルとして解析した。差スペクトルに現れた特徴的な吸収波数における吸収強度を主成分分析に供して,被覆物の構成構造単位に着目して分類を行なった。

差スペクトルに見られる吸収は一般的にみられる有機化合物由来の構造単位であり微生物,植物体および土壌動物由来の断片の混合物であると考えられた。異なる採取地点から得た発泡スチロールのスペクトルは多様であり,構成する有機物は採取地点や分布する位置によって大きく異なる可能性が考えられた。主成分分析から得た第一主成分は含窒素有機性官能基であるアミノ基やペプチド結合に由来する吸収が大きく貢献していたことから,被覆物が生きた微生物群集で構成されたる場合と死滅した後の残渣で被覆される場合を分類する指標として抽出されたものと考えられた。第一主成分により,微生物由来のタンパク質やアミノ酸で特徴づけられる発泡スチロールを区別できた。第二主成分は芳香環とカルボニルおよびカルボキシ基に由来する吸収が貢献していることからリグニンなどの植物残渣を表すものと解釈された。第二主成分は維管束植物が分布する比較的乾燥した河岸に滞留する発泡スチロールが正の値を示すことが窺えた。このように有機物を主体とした発泡スチロールの被覆物は移動過程も含めた存在場の環境に応じた変化や反応に関する情報をよく反映していることがわかった。