17:15 〜 18:30
[MIS21-P01] 種子島沖海底泥火山における表層堆積物中の希ガスの起源
キーワード:種子島沖、海底泥火山、希ガス
海底泥火山は高間隙水圧をもった堆積物が泥ダイアピルとして上昇し,海底に噴出した小丘である。日本では,南海トラフの熊野泥火山や種子島沖において見つかっている。今回は,前弧域である種子島沖で発見されている15の泥火山のうち4つの泥火山の表層堆積物から採取した希ガスを分析した。本研究の目的は,種子島沖海底泥火山における表層堆積物中の希ガスの測定結果を解析してガスの起源を考察し,他の海域における希ガスデータと比較することである。
サンプリングは2015年8月19日から9月1日及び2019年8月9日から18日にかけて白鳳丸を用いた航海において行われた。2015年の航海ではMV1及びMV14,2019年の航海ではMV2及びMV3の表層堆積物試料を採取した。MV1及びMV14のサンプリングにおいては,ピストンコアラーを採取した後,塩ビパイプに穴を開けて銅管をセットし,表層堆積物を詰めて金属クランプを用いて密閉した。MV2及びMV3についてはマルチプルコアラーのパイプにあらかじめ開けておいた穴に銅管をセットし,ピストンコアの際と同様に表層堆積物を採取した。銅管の中の表層堆積物中の希ガスはスイス連邦工科大学チューリッヒ校及び東京大学大気海洋研究所にて希ガス質量分析計を用いて測定した。
測定の結果,ヘリウム同位体比((3He/4He)raw)は,0.23〜0.96RAまでの値をとっており,いずれも大気平衡海水(ASW)の値である1RAよりも低い値となっている。MV1において最も小さい値を示しており(0.23RA),MV14において最も大きな値を示している(0.96RA)。MV3においては3つの深度でサンプリングしており,深い方が浅い方より高い値を示している。MV2の(3He/4He)raw値は0.63 RAであった。4He/20Ne値の結果は,MV3-1が最も高い18.4を示し,次にMV1,MV2,MV3-2,MV14の順に小さくなっていき,MV3-3が最小値である0.81を示す。いずれの泥火山においてもASWより誤差の範囲を超えて有意に高い。重い希ガス(Ar,Kr及びXe)の濃度についてはMV1及びMV14のデータが得られており,どの希ガス濃度においてもMV1よりもMV14の方がやや高い値を示していると言える。また,どちらの泥火山においてもASWの濃度より高い値となっている。
ASWによる影響を補正した(3He/4He)corrの結果は,MV1が約0.2 RA,MV2が0.6 RA,MV3が0.3〜0.6 RA,MV14が0.9RAであった。マントル起源ヘリウムの寄与率はMV1が約2%,MV2が約7%,MV3が約4〜7%,MV14は約12%という結果となった。4つの泥火山において,地殻起源ヘリウムによる影響は約88〜98%であり,採取されたヘリウムのほとんどが地殻起源であることが示唆された。他の前弧域において得られているヘリウム同位体比のデータをプロットすると,大きく2つの範囲に分かれた。一つは0.1〜0.8RAの範囲であり,熊野沖の大峰リッジやカディス湾の泥火山におけるデータである。もう一つは〜2.4RAの値を示す海底下数kmほどの深部におけるデータであり,マントル起源ヘリウムの存在が示唆されている。種子島沖におけるデータはヘリウム同位体比が低い方の範囲に相当する。MV1及びMV14においては,重い希ガス濃度によって推測された起源温度(NGT)がそれぞれ約150℃,100℃であった。種子島沖泥火山群においては粘土鉱物の脱水反応が起きていることが示唆されており,その反応が起こる温度が60〜160℃とされているため,重い希ガス濃度から推定されたNGTは妥当であると言える。また,種子島周辺の地温勾配を25〜50℃/kmとすると100〜150℃という温度は海底下2〜6 km辺りの温度という見積もりとなる。速度構造研究によると,種子島沖周辺において,これらの深度は上部地殻〜中部地殻にあたると考えられており,プレート境界は海底下約10 kmに位置していると見積もられているため,これらの希ガスの起源がプレート境界付近である明確な証拠にはなり得なかった。
種子島沖海底泥火山群において,表層堆積物中のヘリウム同位体比の結果からMV1〜MV3及びMV14にそれぞれ違いはあるが,ヘリウムの約9割は地殻起源であることが示唆された。また,重い希ガス濃度からはMV1及びMV14においての希ガスの起源温度が見積もられ,採取されたヘリウムは海底下約2〜6 kmから来たものと考えられる。したがって,表層堆積物中のヘリウム同位体比及び重い希ガス濃度からは,いずれにおいても希ガスの起源がプレート境界付近である明確な証拠は得られなかった。
サンプリングは2015年8月19日から9月1日及び2019年8月9日から18日にかけて白鳳丸を用いた航海において行われた。2015年の航海ではMV1及びMV14,2019年の航海ではMV2及びMV3の表層堆積物試料を採取した。MV1及びMV14のサンプリングにおいては,ピストンコアラーを採取した後,塩ビパイプに穴を開けて銅管をセットし,表層堆積物を詰めて金属クランプを用いて密閉した。MV2及びMV3についてはマルチプルコアラーのパイプにあらかじめ開けておいた穴に銅管をセットし,ピストンコアの際と同様に表層堆積物を採取した。銅管の中の表層堆積物中の希ガスはスイス連邦工科大学チューリッヒ校及び東京大学大気海洋研究所にて希ガス質量分析計を用いて測定した。
測定の結果,ヘリウム同位体比((3He/4He)raw)は,0.23〜0.96RAまでの値をとっており,いずれも大気平衡海水(ASW)の値である1RAよりも低い値となっている。MV1において最も小さい値を示しており(0.23RA),MV14において最も大きな値を示している(0.96RA)。MV3においては3つの深度でサンプリングしており,深い方が浅い方より高い値を示している。MV2の(3He/4He)raw値は0.63 RAであった。4He/20Ne値の結果は,MV3-1が最も高い18.4を示し,次にMV1,MV2,MV3-2,MV14の順に小さくなっていき,MV3-3が最小値である0.81を示す。いずれの泥火山においてもASWより誤差の範囲を超えて有意に高い。重い希ガス(Ar,Kr及びXe)の濃度についてはMV1及びMV14のデータが得られており,どの希ガス濃度においてもMV1よりもMV14の方がやや高い値を示していると言える。また,どちらの泥火山においてもASWの濃度より高い値となっている。
ASWによる影響を補正した(3He/4He)corrの結果は,MV1が約0.2 RA,MV2が0.6 RA,MV3が0.3〜0.6 RA,MV14が0.9RAであった。マントル起源ヘリウムの寄与率はMV1が約2%,MV2が約7%,MV3が約4〜7%,MV14は約12%という結果となった。4つの泥火山において,地殻起源ヘリウムによる影響は約88〜98%であり,採取されたヘリウムのほとんどが地殻起源であることが示唆された。他の前弧域において得られているヘリウム同位体比のデータをプロットすると,大きく2つの範囲に分かれた。一つは0.1〜0.8RAの範囲であり,熊野沖の大峰リッジやカディス湾の泥火山におけるデータである。もう一つは〜2.4RAの値を示す海底下数kmほどの深部におけるデータであり,マントル起源ヘリウムの存在が示唆されている。種子島沖におけるデータはヘリウム同位体比が低い方の範囲に相当する。MV1及びMV14においては,重い希ガス濃度によって推測された起源温度(NGT)がそれぞれ約150℃,100℃であった。種子島沖泥火山群においては粘土鉱物の脱水反応が起きていることが示唆されており,その反応が起こる温度が60〜160℃とされているため,重い希ガス濃度から推定されたNGTは妥当であると言える。また,種子島周辺の地温勾配を25〜50℃/kmとすると100〜150℃という温度は海底下2〜6 km辺りの温度という見積もりとなる。速度構造研究によると,種子島沖周辺において,これらの深度は上部地殻〜中部地殻にあたると考えられており,プレート境界は海底下約10 kmに位置していると見積もられているため,これらの希ガスの起源がプレート境界付近である明確な証拠にはなり得なかった。
種子島沖海底泥火山群において,表層堆積物中のヘリウム同位体比の結果からMV1〜MV3及びMV14にそれぞれ違いはあるが,ヘリウムの約9割は地殻起源であることが示唆された。また,重い希ガス濃度からはMV1及びMV14においての希ガスの起源温度が見積もられ,採取されたヘリウムは海底下約2〜6 kmから来たものと考えられる。したがって,表層堆積物中のヘリウム同位体比及び重い希ガス濃度からは,いずれにおいても希ガスの起源がプレート境界付近である明確な証拠は得られなかった。