日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21] 化学合成生態系と泥火山:流体噴出の生物・化学・物理プロセス

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.17

コンビーナ:宮嶋 佑典(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)、井尻 暁(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、土岐 知弘(琉球大学理学部)

17:15 〜 18:30

[MIS21-P02] 地下浅部構造と流体移動経路:日本海東縁酒田沖、表層型メタンハイドレート賦存域の例

*浅田 美穂1、佐藤 幹夫1、横田 俊之1、後藤 秀作1 (1.産業技術総合研究所)

キーワード:表層型メタンハイドレート、音響マッピング、高分解能三次元画像マッピング、異スケール観測マッチアップ

日本海東縁の酒田沖では、南東側を逆断層によって区切られ紡錘形を成す海丘(以後酒田海丘(仮称)と呼ぶ)頂部の海底下浅部に表層型メタンハイドレート(MH)の賦存が知られている(天満・後藤、2018)。表層型MHの形成に寄与する地下由来のメタンを含む流体は、海底付近の独立栄養動物群集を養い、また海水と反応して炭酸塩岩を沈殿させる。地下由来流体の浸み出しに関係する生物や岩石の分布は、海底面に直接露出していない表層型MHの分布やメタン浸み出し場の特定に有効だと考えられる。しかし海底面におけるそれらの分布と海底面下に隠れるガス排出場の位置関係は必ずしも明らかではない。

酒田海丘では既に複数回にわたる調査航海が実施されており、船舶およびAUVを用いた音響マッピングと、ROVによる海底目視観察、海洋電磁探査、高分解能三次元地震探査、掘削同時検層(LWD)、サンプル採取等が行われてきた(森田、2015;天満・後藤、2018;横田、2020)。AUVによる地形調査によると、本海丘は、長径約15km、短径約10 kmの北東-南西方向に細長い紡錘形を成し、逆断層により区切られる南東側の比高は約120mである。海丘頂部には、長径約1km×短径300〜400 mで深さ約12 mの、急斜面に縁取られた陥没地形が存在する。陥没地形の内側には南北二カ所のテラスと、陥没地形中央付近に単独の丘が、陥没地形の外側には緩やかな高まりがある。測深に用いた音響信号の後方散乱強度は、陥没地形を縁取る急斜面で最も大きく、陥没地形内テラスと陥没地形の外側(北東側、東側及び南西側)の高まりで比較的大きく、周辺へ向けて段階的に小さくなっている。AUV搭載のSBP探査によると、本海丘は、海丘の伸長方向に軸を持ちよく成層した背斜構造を成し、成層構造を切る小規模な正断層がよく発達している。これらの断層は海丘の北西側斜面で数が多いが、最も浅い(海底面に近い)層を変形させる断層は少ない。成層構造を複数箇所で切る小規模な音響的ブランキングが、海丘の北東側に多い。海丘頂部の陥没地形の直下では大きな音響的ブランキングによって地下浅部構造が抽出できない。

酒田海丘頂部にて2020年6月に、第一開洋丸(海洋エンジニアリング(株))を用いた1K20航海にて、ROV-Kaiyo3000に搭載した高分解能三次元画像マッピングシステム「SeaXerocks 1」による海底面の観察を実施した。陥没地形の中では海水が濁って見える傾向がありヒトデやイカなど大型生物も多い。陥没地形周縁内側斜面の一部と中央の丘で特に生物量が多く、バイオマットや比較的大きな炭酸塩岩と思われる岩石片が観察される。本観測の限りでは、海底面にはMHを確認できない。陥没地形内側の南北にある二カ所のテラスと、陥没地形外側の高まりは広く堆積物に覆われるが、稀に岩石露頭と、小規模な点状の生物マットがある。

海底下浅部構造と海底面における生物や岩石分布の比較を試みた。陥没地形周辺の地下浅部は殆どの部分が音響的ブランキングにより構造を認識出来ず、生物・岩石分布にかかわる情報を抽出することが難しい。海底下浅部には断層がわずかに認識出来るが、ROVによる観察ではその直上に生物群を観察できないことが多い。特に海底面に到達しない断層の直上海底には生物や岩石が認められない。ROVで観察した一部の生物群等はごく限られた範囲に小規模に見られたことと合わせると、本海域においては、海底下の断層等を通した流体が堆積物中を拡がりにくいことにより、ガス供給路のごく周辺のみに限定された生物・岩石分布が発生すると考えられる。陥没地形内部に比較的多い生物と岩石分布が見られるのは、地層に沿う流体移動がある層が陥没地形の形成により斜面に露出し、周辺よりも多い流体の排出があるためだと考えられる。

本研究は、経済産業省のメタンハイドレート開発促進事業の一部として実施した。

参考文献:
天満・後藤(2018)第33回メタンハイドレート開発実施検討会、資料7-2(経済産業省)
森田(2015)日本海表層型メタンハイドレート胚胎域における 2014 年度 AUV 詳細調査、日本地球惑星科学連合2015年大会、MIS24-02、講演要旨(5月27日、千葉)
横田(2020)高分解能三次元反射法地震探査の結果 、表層型メタンハイドレートの研究開発、2020年度一般成果報告会資料(産業技術総合研究所)