17:15 〜 18:30
[MIS21-P04] 伊豆-小笠原-マリアナ弧の深海熱水噴出域生物群集の連結性
キーワード:生物群集組成、遺伝的交流、熱水鉱床開発
深海熱水噴出孔の周辺に分布する生物群集は、熱水噴出に伴う化学合成に依存することで周囲の深海底と比較して高い生物量を有するという特徴がある。この生物群集は、数から数百キロメートルの距離をあけて海底に断続的に分布するにも関わらず、その環境に特化した特定の分類群が共通して分布している。伊豆-小笠原-マリアナ弧(IBM弧)は、日本列島からグアムの沖にかけて約2800キロメートルに渡って分布する海底火山弧であり、多数の熱水噴出域とそれに伴う生物群集が見つかっている。また、伊豆弧には高品位の鉱物を含む熱水鉱床が分布することが知られており、熱水鉱床開発の対象としても注目されている海域である。本研究では、IBM弧に分布する熱水噴出域生物群集の分布が水深等によって分断されているかを検証するため、生物群集の類似度解析とIBM弧の熱水噴出域に広く分布するユノハナガニを対象とした集団遺伝学的解析を行った。
IBM弧に分布する10の熱水噴出域生物群集について、生物種の在・不在データを用いてSørensenの類似度指数を算出し、クラスター解析を行った。その結果、IBM弧の熱水噴出域に分布する生物群集は1) 伊豆弧、2) 小笠原-マリアナ弧の水深1000メートル未満の海域、3) 小笠原-マリアナ弧の水深1000メートル以深の海域、それぞれに分布するものの3つのグループに区分されることが明らかになった。つまり、水深や熱水噴出を胚胎する地質構造の不連続性に応じて生物群集の類似性の分断が生じており、これらは生物の分散様式や生理的特徴と対応していると推察される。そこで、IBM弧を特徴づける生物の一つであるユノハナガニに対して、明神海丘、ベヨネース海丘(以上、伊豆弧)、日光海山(小笠原-マリアナ弧、水深472メートル)の集団においてミトコンドリアCOI遺伝子の部分塩基配列を比較した。その結果、熱水噴出域間は最大で集団間で統計的に有意である差異は認められなかったものの、日光海山から伊豆弧の熱水噴出域への個体の移出が他の個体の移動と比較して少ないと推測された。つまり、ユノハナガニのようにIBM弧に広く分布している種であっても、群集レベルで確認された不連続性と同様の分散の偏りが観察されると言える。ユノハナガニの受精卵および孵化幼生は実験室内で飼育が可能であり、その観察からは表層流による生物分散が示唆されており、プランクトン幼生による海域間の生物の移動は表層流の動態で説明が可能かもしれない。しかしながら、群集を構成するために最も重要である「生物が熱水噴出域を探索・着底するメカニズム」は未だ明らかになっておらず、今後取り組んでいくべき課題であると考えている。
IBM弧に分布する10の熱水噴出域生物群集について、生物種の在・不在データを用いてSørensenの類似度指数を算出し、クラスター解析を行った。その結果、IBM弧の熱水噴出域に分布する生物群集は1) 伊豆弧、2) 小笠原-マリアナ弧の水深1000メートル未満の海域、3) 小笠原-マリアナ弧の水深1000メートル以深の海域、それぞれに分布するものの3つのグループに区分されることが明らかになった。つまり、水深や熱水噴出を胚胎する地質構造の不連続性に応じて生物群集の類似性の分断が生じており、これらは生物の分散様式や生理的特徴と対応していると推察される。そこで、IBM弧を特徴づける生物の一つであるユノハナガニに対して、明神海丘、ベヨネース海丘(以上、伊豆弧)、日光海山(小笠原-マリアナ弧、水深472メートル)の集団においてミトコンドリアCOI遺伝子の部分塩基配列を比較した。その結果、熱水噴出域間は最大で集団間で統計的に有意である差異は認められなかったものの、日光海山から伊豆弧の熱水噴出域への個体の移出が他の個体の移動と比較して少ないと推測された。つまり、ユノハナガニのようにIBM弧に広く分布している種であっても、群集レベルで確認された不連続性と同様の分散の偏りが観察されると言える。ユノハナガニの受精卵および孵化幼生は実験室内で飼育が可能であり、その観察からは表層流による生物分散が示唆されており、プランクトン幼生による海域間の生物の移動は表層流の動態で説明が可能かもしれない。しかしながら、群集を構成するために最も重要である「生物が熱水噴出域を探索・着底するメカニズム」は未だ明らかになっておらず、今後取り組んでいくべき課題であると考えている。