日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] 山の科学

2021年6月4日(金) 09:00 〜 10:30 Ch.13 (Zoom会場13)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学山の環境研究センター)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)、座長:有江 賢志朗(新潟大学)

09:00 〜 09:15

[MIS23-01] 北アルプス上高地の岩盤重力変形斜面に生じた線状凹地で掘削した3コアの層序と年代

*苅谷 愛彦1、高岡 貞夫1 (1.専修大学文学部環境地理学科)

キーワード:岩盤重力変形、地すべり、完新世、泥炭、焼岳

北アルプス・上高地(長野県松本市)では,山地斜面や尾根に岩盤重力変形(DSGSD)による地形が発達する.西穂高岳(標高2909 m)の周辺には第四紀花崗閃緑岩が広く分布し,それから成る斜面はDSGSDで著しく変形している.これにより閉塞・半閉塞の線状凹地や低崖列,斜面の膨らみ(バルジ)などの特徴的な地形が形成されている.本研究では, DSGSD由来の線状凹地底部に生じた2つの池溏と1つの湿地でハンドコアリングを行い,合計3本のコアを得た:1)きぬがさの池(KNG2017コア),2)西穂池(NSH2018コア),および3)西穂山荘南A湿地(SMA2019コア). これらのコアから,高山帯・亜高山帯における完新世の地形変化,環境変化と自然史を構築するのに有益な地質学的・年代学的情報が得られた.
 3つの線状凹地は更新世最末期(KNG2017で約20 cal ka以降)から完新世前半(NSH2018とSMA2019で約8cal ka)の間に形成され始めた.調査した線状凹地とその周辺の斜面では,この時代までにDSGSDの本格的な活動が始まり,特徴的な地形が生じたと考えられる.その後,腐植質シルトの堆積や泥炭の集積が,線状凹地底部で始まった.これは調査地やその周囲において,植生の侵入や被覆が始まったことを示唆する.腐植質シルトと泥炭が生じるタイミングは約8 cal ka(KNG2017),約4.2 cal ka(NSH2018),約6.3 cal ka(SMA2019)であった. 3つのサイト間における腐植質シルトや泥炭の形成開始時期の違いは,地球規模ないし地域スケールでの気候および微・小地形の状況に影響を受けたものと見られる.3つのサイトにはまた,焼岳火山由来の火山灰薄層が約4 cal kaと約2.3 cal kaに堆積し,示準面の挿入に有用となった.発表ではコア柱状図,年代データ及び時間-深度図を提示する.