10:15 〜 10:30
[MIS23-06] 北アルプスで認定された氷河の質量収支特性
★招待講演
キーワード:氷河、北アルプス、質量収支
北アルプス北部に存在する多年性雪渓のいくつかが現成氷河であることが,ほぼ確定的となった(福井・飯田2012,福井ほか2018)が,涵養・消耗機構や流動機構については未解明な点が残されている.特に,当該氷体に年間20mを超す多涵養/多消耗の質量収支特性や底面剪断力の大きな季節的変動が認められるなど,従来の研究では注目されてこなかった新しい課題も浮かび上がってきた.
本研究は,発表者らがこれまでに開発してきた地形と氷河流動のカップリングによるELA決定モデル(澤柿ほか2014a,b)を北アルプス北部の多年性雪渓に適用させて,多年性雪渓から氷河への遷移機構や氷体の形成・維持に関する物理的・気候的メカニズムを明らかにすることを目指している.これにより,氷河であると認定する段階からさらに踏み込んで,多年性雪渓から氷河への遷移機構や氷体の形成・維持機構を解明する段階に発展させようとするものである.
本研究で用いるELA決定モデルは,そもそも,氷河地形と涵養域面積比(AAR)に基づいて決定される過去の平衡線高度(paleo-ELA)が抱える問題点を解決すべく,3次元数値地形モデルで復元された氷河の動力学的妥当性を客観的・解析的に吟味できるように開発したものであるが,それと同時に,モデルで算出される解析結果を客観的根拠として地形学的な氷河復元にフィードバックすることも目指している.その基本的コンセプトは,3次元形状を与えた氷河においてある程度の期間一定の形状を維持していることを仮定し,あるボックスにおける流動場の収支を算出することで,表面質量収支の符号を推定する計算モデルである.こうしたモデルの特質から,このモデルを"ShapeRetaining(SR)Model"と呼んでいる.SRモデルの構築第1段階として,これまでに,観測データが豊富な欧州の典型的氷河でモデルの妥当性を検証・確認した(澤柿ほか2014a).さらに第2段階として,SRモデルを後期更新世の日高山脈に発達した山岳氷河に適用して,そのpaleo-ELAを算出している(澤柿ほか2014b).
本研究では,上記のSRモデルに改良を施し,現成氷河の可能性が指摘された北アプルス北部山域の3つの氷体に適用した.具体的には,立山東面に分布する「内蔵助雪渓(氷河)」,剱岳西面に分布する「池ノ谷雪渓(氷河)」,および後立山連峰の東面に分布する「カクネ里雪渓(氷河)」の3つである.SRモデルは地形と氷河流動のカップリングを基本原理としているため,入力データとして基盤地形と氷河表面高度が必要となる.そこでまず,これまでの現地調査で概要が判明している基盤地形と表面形状について,モデル計算に適用可能とするための数値化作業を行った.その際,氷体底部の基盤地形については,アイスレーダー探査の結果を用いて数値化した.
モデル計算の結果,カクネ里雪渓では,合流型で表面形状などの実態と整合したフラックスパターンが得られ,いわば「氷河らしい氷河」ということができることが判明した.一方,池ノ谷雪渓では,本来涵養域であるはずの氷体上流部のフラックスは負となり,上流部で融解しないとますます太ってしまう結果となった.逆に消耗域であるはずの下流部では,上流からの流入フラックス以上の表面涵養が氷体の維持に必要,という結果となった.これは,雪崩涵養が氷体の維持に不可欠なことを示唆する.内蔵助雪渓は,氷体全域にわたってフラックスの絶対値そのものが小さく,かろうじて氷河としての特性を維持しているものと判断される.
本研究は,発表者らがこれまでに開発してきた地形と氷河流動のカップリングによるELA決定モデル(澤柿ほか2014a,b)を北アルプス北部の多年性雪渓に適用させて,多年性雪渓から氷河への遷移機構や氷体の形成・維持に関する物理的・気候的メカニズムを明らかにすることを目指している.これにより,氷河であると認定する段階からさらに踏み込んで,多年性雪渓から氷河への遷移機構や氷体の形成・維持機構を解明する段階に発展させようとするものである.
本研究で用いるELA決定モデルは,そもそも,氷河地形と涵養域面積比(AAR)に基づいて決定される過去の平衡線高度(paleo-ELA)が抱える問題点を解決すべく,3次元数値地形モデルで復元された氷河の動力学的妥当性を客観的・解析的に吟味できるように開発したものであるが,それと同時に,モデルで算出される解析結果を客観的根拠として地形学的な氷河復元にフィードバックすることも目指している.その基本的コンセプトは,3次元形状を与えた氷河においてある程度の期間一定の形状を維持していることを仮定し,あるボックスにおける流動場の収支を算出することで,表面質量収支の符号を推定する計算モデルである.こうしたモデルの特質から,このモデルを"ShapeRetaining(SR)Model"と呼んでいる.SRモデルの構築第1段階として,これまでに,観測データが豊富な欧州の典型的氷河でモデルの妥当性を検証・確認した(澤柿ほか2014a).さらに第2段階として,SRモデルを後期更新世の日高山脈に発達した山岳氷河に適用して,そのpaleo-ELAを算出している(澤柿ほか2014b).
本研究では,上記のSRモデルに改良を施し,現成氷河の可能性が指摘された北アプルス北部山域の3つの氷体に適用した.具体的には,立山東面に分布する「内蔵助雪渓(氷河)」,剱岳西面に分布する「池ノ谷雪渓(氷河)」,および後立山連峰の東面に分布する「カクネ里雪渓(氷河)」の3つである.SRモデルは地形と氷河流動のカップリングを基本原理としているため,入力データとして基盤地形と氷河表面高度が必要となる.そこでまず,これまでの現地調査で概要が判明している基盤地形と表面形状について,モデル計算に適用可能とするための数値化作業を行った.その際,氷体底部の基盤地形については,アイスレーダー探査の結果を用いて数値化した.
モデル計算の結果,カクネ里雪渓では,合流型で表面形状などの実態と整合したフラックスパターンが得られ,いわば「氷河らしい氷河」ということができることが判明した.一方,池ノ谷雪渓では,本来涵養域であるはずの氷体上流部のフラックスは負となり,上流部で融解しないとますます太ってしまう結果となった.逆に消耗域であるはずの下流部では,上流からの流入フラックス以上の表面涵養が氷体の維持に必要,という結果となった.これは,雪崩涵養が氷体の維持に不可欠なことを示唆する.内蔵助雪渓は,氷体全域にわたってフラックスの絶対値そのものが小さく,かろうじて氷河としての特性を維持しているものと判断される.