日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] 山の科学

2021年6月4日(金) 13:45 〜 15:15 Ch.13 (Zoom会場13)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学山の環境研究センター)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)、座長:今野 明咲香(常葉大学)

14:20 〜 14:35

[MIS23-15] 地形要素との合致度による偽高山帯成因論の比較検討

*真庭 志歩1、池田 敦1 (1.筑波大学)

キーワード:偽高山帯、多雪山地、オオシラビソ、GIS、植生史

東北地方から中部地方にかけての一部の山域に、偽高山帯と呼ばれる、亜高山帯域にも関わらず針葉樹林が抜け落ちた場所が存在する。そこでは針葉樹林の代わりに草原やササ原、低木群落が優占する。その成因として、多雪地における雪圧による針葉樹の生育阻害(雪圧説)、完新世前半の温暖化による針葉樹林帯の縮小(追い出し説)、過去のオオシラビソの生育適地の有無を反映(オオシラビソ不足説)が挙げられてきた。本研究は、近年になって入手可能になった空間情報データを利用し、気候・地形要素が3つの説のどれに最も合うか検討する。
東北地方から中部地方にかけて34の山域を選び、亜高山帯相当の標高帯に分布する植生と気候・地形条件の関係を検討した。地理情報システム(GIS)上で環境省の2次メッシュ植生図よりオオシラビソ群集とシラビソ-オオシラビソ群集を抽出し、その分布割合を求めた。また、山域どうしで対象の標高帯全域の標高差・傾斜分布や年最深積雪を比較し、偽高山帯の有無と関連性があるか検討した。
34の山域のうち、9つの山域ではオオシラビソ群集が全体の30%以上を占め、オオシラビソが優占する。また、3つの山域ではシラビソ-オオシラビソ群集が全体の30%以上を占めている。シラビソ-オオシラビソ群集が優占する山域の積雪深は小さい。一方、八甲田山や八幡平のように非常に積雪が深くてもオオシラビソ群集が優占する山域もあれば、船形山のように積雪がさほど厚くないのにも関わらず、偽高山帯が拡がる山域もある。つまり、雪圧説では説明しきれない山域が存在する。また、山域どうしを比較すると、オオシラビソが存在する山域において必ずしも亜高山帯相当以上の標高差が大きいわけではなく、追い出し説とも矛盾する。オオシラビソ群集が優占する山域は、山域全体で傾斜が非常に緩やかな傾向がある。このことは、排水不良の緩傾斜地が豊富な場合のみ、そこをニッチとしていたオオシラビソ小林分が完新世後半に拡大できたというオオシラビソ不足説と一致する。したがって、オオシラビソ不足説が偽高山帯の分布を最もよく説明することができる。