日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] 山の科学

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.20

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学山の環境研究センター)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム)

17:15 〜 18:30

[MIS23-P02] 北アルプス,白馬連山における周氷河性平滑斜面の違い

*深田 愛理1、奈良間 千之1 (1.新潟大学)


キーワード:周氷河性平滑斜面、地形、白馬岳、杓子岳、UAV

1.はじめに

 北アルプスでは,西側が緩傾斜面で,東側が急傾斜面の非対称山稜の地形を不連続で確認できる.非対称山稜の緩傾斜面は,その成因から周氷河性平滑斜面と呼ばれる(Klaer,1962).周氷河性平滑斜面上の砂礫地では,斜面の形態,堆積物,表層岩屑の移動量,移動を引き起こす周氷河作用について研究がおこなわれ,傾斜,礫径,地中のマトリックス,植生が斜面の形成に関わることが明らかにされてきた.(たとえば,高山地形研究グループ, 1978;相馬ほか, 1979).しかしながら,周氷河性平滑斜面について,地形変化や礫の移動などの現成の形成プロセスの面的な広がりと違いについて十分な報告はない.

そこで本研究では,UAV(Phantom4-RTK)やセスナ機からの空撮画像を用いて多時期のオルソ補正画像作成し,北アルプスの白馬岳と杓子岳周辺の周氷河平滑斜面を比較することで,周氷河性平滑斜面の形成プロセスや斜面の違いについて検討した.また,2014年~2017年に観測した地温データを用いて,凍結融解作用の年々変動とその影響について考察した.

2.地域概要

本研究では,北アルプスの白馬岳と杓子岳の2つの周氷河性平滑斜面を対象とした.この稜線の東側斜面は,急崖や岩壁の急傾斜面であるが,西側斜面は周氷河作用を受けた平滑斜面が広がる.

白馬岳山頂周辺は,古生界の砂岩・頁岩の分布地にあたり,稜線近くまでハイマツや風衝草原がおおい,砂礫地と植生地が入り組んだ条線土が広がっている(小泉,1979). 一方,杓子岳山頂周辺は流紋岩域で,植生のない砂礫斜面が広がり,基盤が露出している箇所も見られる.

3.研究方法

 2020年に取得したUAV(Phantom4-RTK)やセスナ機からの空撮画像とSfM-MVS技術ソフトを用いて,オルソ補正画像を作成した.白馬岳と杓子岳の2つ周氷河性平滑斜面において,傾斜,礫径,礫の長軸方向,地質,植生域の分布のデータをArcGISで作成して,それぞれの関係について検討した.また,1976年の国土地理院の航空写真と2020年のセスナ空撮からそれぞれ作成したオルソ補正画像から植生分布を比較し,約45年間の周氷河性平滑斜面の植生域の変化についても調べた.さらに,本研究室において2014年~2017年にかけて調査地周辺の丸山,白馬山荘,頂上宿舎の3点で観測した地温データを用いて凍上回数の違いついて比較した.

4.結果

 周氷河性平滑斜面の平均傾斜は,稜線から50mの範囲で白馬岳が25.2±8.0°,杓子岳が29.8±7.4°であり,杓子岳の方が傾斜は急である.礫径は,珪長岩の杓子岳で小さく,斜面上部の礫は下部に比べて小さかった.さらに礫径の長軸方向と斜面の傾斜方向は杓子岳で一致している礫の割合が大きかった.植生は,白馬岳で分布面積の割合が大きく,とくに珪長質凝灰岩の場所でその傾向がみられた.1976年と2020年の植生域の面積を比較した結果,植生面積は増加していた.また,1976年と2020年ともに植生域は礫域に比べ傾斜が大きかった.2014年~2017年の地温を比較したところ,丸山では2014年~2015年の凍上回数より2015年~2016年の凍上回数の方が多かった.一方,白馬山荘では2014年~2015年の凍上回数より2015年~2016年の凍上回数は少なかった.2014年~2017年の地温を比較したところ,年と場所の違いによる地温の変動に違いがみられた.

5.考察

 傾斜が小さい場所で植被率が高く,植生比率が高い場所では土層が発達する (小泉,1979).植生域の傾斜が礫域よりも大きかった理由として,礫の移動プロセスが十分でなく,土層が発達していることが挙げられる.また,白馬岳と杓子岳において平均傾斜角と凍上回数の違いによる礫の移動量の違いについて検討したところ,凍上回数によって礫の移動距離が大きく異なった.凍結融解作用の年々変動は,傾斜の違いによる礫の移動距離の差を大きくする.さらに,小泉(1979)などの先行研究と比較し,傾斜,礫径,地中のマトリックス,植生から現在の礫の移動について考察したところ,白馬岳では杓子岳に比べて礫の移動距離が小さい.また,杓子岳では,礫径が3~10㎝の場所では年間約15㎝程度の移動があり,礫径が10㎝以上の場所では約8㎝程度の礫の移動があると推測される.

6.参考文献

Klaer, W. (1962): Die periglazial Hohenstufe in den Gebirgen Vorderasiens. Zeitschrift fur Geomor phologie, 6, 17-32.

高山地形研究グループ(1978):『白馬岳高山帯の地形と植生』

相馬秀広・岡沢修一・岩田修二(1979):白馬岳高山帯におけ る砂礫の移動プロセスとそれを規定する要因.地理学評論, 52, 562-579.

小泉武栄(1992):日本における周氷河性平滑斜面の研究.地理学評論,65A-2,132-142

小泉武栄(1979):高山の寒冷気候下における岩屑の生産・移動と植物群落.Ⅰ.白馬山系北部の高山荒原植物群落.日本生態誌29,71-81