日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS25] 大気電気学:極端気象に関連する大気電気現象

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.18

コンビーナ:芳原 容英(電気通信大学 大学院情報理工学研究科)、王 道洪(岐阜大学)

17:15 〜 18:30

[MIS25-P02] 2020年度雷雲ガンマ線観測における高度測定用検出器GOOSEの展開と観測

*辻 結菜1、中澤 知洋1、久富 章平1、伊神 勇作1、小谷 大貴1、榎戸 輝揚2、和田 有希2、湯浅 孝行、土屋 晴文3、篠田 太郎4、大熊 佳吾1、Diniz Gabriel2 (1.名古屋大学、2.理化学研究所、3.原子力機構、4.名古屋大学宇宙地球環境研究所)

キーワード:雷雲ガンマ線、加速域の高度測定、電子検出器

冬季の日本海沿岸部では雷活動に伴ってガンマ線が観測されている。このガンマ線は雷雲中の静電場で加速された電子による制動放射が起源と考えられており、そのエネルギーは30 MeVに達する。具体的には、1 ms 以下の瞬間に放射されるgamma-ray flashと、雷雲そのものが数分にわたってガンマ線を放射するgamma-ray glowが知られている。この加速のメカニズムを解明するため、我々は GROWTH (Gamma-ray Observation of Winter Thunderclouds) 実験と題して2006年から冬季日本海沿岸部での観測を行なっている。本講演では2020年度の観測のうち、加速域の高度測定を目指した観測について報告する。

 FY2020の観測では、金沢市内の~2 km離れた2箇所にそれぞれ検出器を設置した。金沢市は雷が多発する地域であり、これまでにも多数の観測実績があることから、観測に適した場所といえる。FY2019は1台、FY2020では2台を展開して観測に臨んだ。設置した検出器 GOOSE (Gamma-ray Orientation Observing System with Electron-monitor) はコリメータ検出器と電子検出器からなる。コリメータ検出器は4つの検出器で構成され、そのうち3つは鉛板によりそれぞれ真上向き、30°東向き、30°西向きと 視野が制限された指向性を持つ。電子加速域の大きさがその高度より小さい時には、概ね点源で近似できる。風で流されるに従って、3つのコリメータ検出器のカウントレートに時間差が生じるため、逆にこれを用いて近似的に加速域の高度を推定できる。またその高度が100m以下と低い時には、30 MeV電子の大気中での飛程がこれより長いことから、地上でこれを直接検出できる。
 FY2020は10月末から観測を始め、2021年1月8日18時ごろと、2021年1月9日6時ごろにgamma-ray glow を観測した。どちらの日も雪が降っており、8日は風速16.6 m/sの西南西向きの風が、9日は風速 10 m/sの西向きの風が吹いていた。コリメータ検出器では、東西に傾いた検出器と比べて、真上向きの検出器で観測された光子数が1.5–2.5倍多かった。これは制動放射のビーミング効果を検出したと考えられる。またどちらのイベントでも、3つの検出器でgamma-ray glowを観測した時刻差は概ね10秒以下で、点源近似では高度は~150 m以下となる。このことから、加速器がその高度と比較して横に広がっていること、そして高度そのものも高くないことが示唆された。電子検出器でもgamma-ray glowと同期して荷電粒子の超過が検出された。その起源について解析中である。