日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS26] ガスハイドレートと地球環境・資源科学

2021年6月6日(日) 15:30 〜 17:00 Ch.12 (Zoom会場12)

コンビーナ:戸丸 仁(千葉大学理学部地球科学科)、八久保 晶弘(北見工業大学)、谷 篤史(神戸大学 大学院人間発達環境学研究科 人間環境学専攻)、後藤 秀作(産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)、座長:八久保 晶弘(北見工業大学)、谷 篤史(神戸大学 大学院人間発達環境学研究科 人間環境学専攻)

15:45 〜 16:00

[MIS26-07] BSRとBGHSから読み取るガスハイドレート賦存海域の堆積物速度異常とその意義

*松本 良1、大川 史郎1 (1.明治大学)

キーワード:ガスハイドレート、BSR、速度異常、フリーガス

海上反射地震探査で、ガスハイドレート(メタンハイドレート)の安定領域基底深度(GBHS)にはポラリティーが反転する強い反射イベント(BSR)が出現し、海洋メタンハイドレートの探査における有効な手がかりとなっている。BSRの広域的な時間深度(TWT)は、太平洋側・南海トラフ域では0.32秒程度、日本海では0.18-0.20秒程度である(Tsuji et al.,2004; Matsumoto et al., 2004)。遠洋〜半遠洋堆積物の平均的P波伝搬速度1.50km/秒を使って、BSR深度はそれぞれ240m、135-150mと見積もることができる。しかし、南海トラフの調査海域に掘削された複数の調査孔はBGHSが海底から263mである(Tsuji et al., 2004; Matsumoto et al., 2004)。この違いは、海底からハイドレート分布下限までの堆積物のVp速度が1.50km/秒ではなく、それよりやや大きな1.64km/秒であることを意味する。高い速度は、含有されるハイドレート(Vp~3.8km/秒:Waite et al., 2009)に由来する。

日本海では状況は異なる。ハイドレートはBGHS―BSR直上にも存在するが、多くはガスチムニー構造内に塊状濃集帯を作る(Matsumoto et al.,2017)。メタンハイドレートのBGHSは基本的には温度と圧力で決まり、地温勾配を与えられれば海水中のメタンハイドレートのBGHSは一義的に求めることが出来る。水深約900mの上越沖海鷹海脚の地温勾配は10.0 +/-1.0℃、底層水の温度は0.2℃である(Tomaru et al., 2019; Matsumoto et al., 2017)。したがって、BGHSの深度は海底より100 +/- 10mbsf と見積もることができる。一方、BGHSの深度は、BSR深度を貫く掘削によって直接的に確認されている。海鷹海脚に掘削された多数のLWD孔は、100mbsf から 120mbsf にハイドレートの分布基底を認めている。温度・圧力から得られた深度とほぼ同じである。

上越沖、海鷹海脚と上越海丘の広範囲に認められるBSRの時間深度TWTは0.20秒、ハイドレートが密集するガスチムニー内では0.12秒〜0.14秒である。LWDで得られたBGHS深度とBSR深度から区間速度を計算すると、ハイドレートをほとんど含まないガスチムニーの外では1.0km/秒、ハイドレートが密集するガスチムニー内では1.40〜1.70km/秒となった。ガスチムニーの外の堆積物速度は水の速度(1.50km/秒)よりも小さく、海洋堆積物として異常である。このような低い速度は堆積物中にガスバブルが存在することによってのみ説明可能であり、上越沖の広い範囲にフリーガスが発達することを示唆する。ガスチムニー内の速度は水の速度や平均的な表層堆積物より大きめではあるが、ガスチムニー内に体積分率で25〜80%の塊状ハイドレート (Vp=3.8km/秒)が存在することを考慮すると、やはり、異常に小さいと言える。

以上の観察と考察から、フリーガスの発達がメタンハイドレートの発達に極めて重要な役割を担っていること、フリーガスの発達はBSRとBGHSの精査から広域的に評価できる、との結論を得た。現在、堆積物中のフリーガスの存在を明らかにするため、BSR記録を精査し、地温勾配記録と掘削記録から見積もったBGHS深度と比較する作業を進めており、予察結果を報告したい。