日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS27] 歴史学×地球惑星科学

2021年6月6日(日) 15:30 〜 17:00 Ch.16 (Zoom会場16)

コンビーナ:加納 靖之(東京大学地震研究所)、磯部 洋明(京都市立芸術大学美術学部)、芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、岩橋 清美(国文学研究資料館)、座長:芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、玉澤 春史(京都市立芸術大学)

16:00 〜 16:15

[MIS27-06] 関東甲信越の史料を用いた安政江戸地震の余震活動の分析

*馬場 道人1、加納 靖之1 (1.東京大学地震研究所)

安政江戸地震は安政二年十月二日の夜四ツ時(1855年11月11日午後9時頃)に発生し、江戸市中を中心に関東一円に地震動被害をもたらした。宇佐美(2001)では本震の震央を東京湾北部と推定している。安政江戸地震において、本震についてはもちろんのこと、余震活動の詳細がわかる史料が多数残されている。そこで、本研究では既刊の地震史料集に加え、2000年代初頭に発見された『海老原文庫』や、都司(2003)が紹介した『大屋家日記』などを用いて、安政江戸地震の余震活動の分析を行った。

本研究では、まず安政江戸地震における余震活動の時間変化に注目した。『海老原文庫』に記録されている『安政地震書留之事』に残る安政江戸地震本震後の地震の記録と、江戸で記録された『破窓の記』などの余震記録が詳細に残っている史料の記録と比較した。また、日中や夜間の有感記録数の差についての比較も行った。史料ごとの余震の記録数の違いの理由としては、史料ごとの地震の分解能の違い、余震ごとの震央や規模の違いによる有感範囲の違いなどの理由が考えられる。本研究において、『安政地震書留之事』中の余震記録に対して大森・宇津公式を適用したところ、本震から3日目以降において『安政地震書留之事』に適用した大森・宇津公式の曲線と江戸で記録された史料による余震の記録数との間に良い一致が見られた。このことから、『安政地震書留之事』では『破窓の記』など一部の江戸の史料で本震直後に見落とされた余震を記録している可能性がある。

次に、安政江戸地震における余震活動の空間的変化に注目した。既刊の地震史料集に収録されている史料を「余震当日の記事なし」「余震当日の記事はあるが地震の記録なし」「余震当日の記事があり、地震の記録もある」「余震当日の記事があり、大きな地震の記録がある」の4つに分類し、関東地方におけるそれぞれの余震について有感記録分布図を作成した。そして、有感記録分布図を用いて、安政江戸地震の最大余震とされる安政二年十月七日の地震を含む4つの余震の有感範囲を推定した。その結果、Nakamura and Matsu’ura (2011)で最大余震とされている安政二年十月七日の地震について、それぞれの史料に残っている地震の発生時間や揺れの特徴を比較したところ、暮頃と夜に2度の地震があり、有感範囲がそれぞれ異なっている可能性があることがわかった。また、本研究で得られた余震の有感分布と本震の震度分布も含めて比較した。

本研究で得た余震の有感分布と本震の有感分布の違いについて、本震と余震の震源の位置や規模の違い、それぞれの記録の精度の違い、安政江戸地震の余震系列に含まれない地震や別の地域で発生した地震を含んでいるなどの可能性が考えられる。