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[MSD40-02] ひまわり後継衛星のセンサーの検討状況について
キーワード:静止気象衛星、ひまわり、後継衛星計画、可視・赤外イメージャ、ハイパースペクトル赤外サウンダ、雷イメージャ
1.はじめに
気象庁で運用している静止気象衛星ひまわり8号・9号については,2022年度頃に8号から9号へとその役割を交代しつつ,2029年度頃に運用を終える予定である.ひまわりは気象庁の気象業務だけでなく,国内外で幅広く利用されており,宇宙からの気象観測体制を切れ目なく維持していくためには,2028年度にはその後継となる衛星を打ち上げる必要がある.わが国の宇宙基本計画でも,ひまわり8号・9号の後継の静止気象衛星は,遅くとも2023 年度までに製造に着手し,2029 年度頃に運用を開始することを目指す,とされている.
その一方,近年の気象災害は,台風のみならず,線状降水帯に伴う集中豪雨など極端な気象現象が顕著に現れるようになっている.これらの監視・予測のためには大気の気温や水蒸気の状態を常時,広範囲かつ立体的に観測することが重要である.静止衛星であるひまわりには,日本を含む広く西太平洋を常時監視できるという極軌道衛星などの周回衛星にはない長所がある.この強みを活かしつつ,ひまわりの後継衛星に最新の技術を導入することでその気象観測・予測能力を飛躍的に向上させて,自然災害の防止に寄与していくことが喫緊の課題となっている.
その一方,世界気象機関では,2040年頃の静止気象衛星への具備が望ましいセンサーとして,高頻度観測機能を備えた多バンドの可視・赤外イメージャや,ハイパースペクトル赤外サウンダ,雷イメージャ,紫外・可視・近赤外サウンダを推奨している.本発表では,後継衛星でのこれらのセンサーの性能や利用方法,搭載の可能性等の検討状況を報告する.
2.検討中のセンサー
可視・赤外イメージャについては,後継衛星では,現行の8号・9号の観測性能からの機能強化ができないかを検討している.具体的には観測バンドの追加や波長帯の変更,領域観測機能の強化,観測・処理・配信時間の短縮,観測データの品質向上などである.
ハイパースペクトル赤外サウンダは,大気や雲・地表面などからの赤外放射を高い波数分解能で測定し,気温や水蒸気などの大気の鉛直構造を観測するセンサーである.静止衛星搭載型の同センサーは,すでに中国や欧州で運用中または運用予定である.また米国でも次世代静止気象衛星での搭載の検討が始まっている.台風・線状降水帯の予測精度向上や防災気象情報の高精度化の実現に向けて,同センサーの搭載はひまわり後継衛星でも極めて有力な機能になると考えられる.気象衛星調整会議においても,全球の気温・水蒸気のプロファイルを取得して,数値予報の更なる精度向上に寄与するために,各国の静止気象衛星がハイパースペクトル赤外サウンダを搭載し,同センサーによる観測で地球を取り囲んだ状態(Geo-Ring)を目指すことが重要とされている.同センサーは,これまでのひまわりには搭載されていないため,気象庁ではその搭載の可能性や期待される効果について具体的な検討を行っている.例えば,数値予報に与える効果を客観的に評価するために観測システムシミュレーション実験を実施している.
雷イメージャについては,航空産業への情報提供や,台風の強度予報への活用などが考えられるが,こちらもこれまでのひまわりには搭載されていない.米国の静止気象衛星にはすでに搭載され,観測データも公開が始まっているため,それらのデータを利用して,同センサーの性能や利用法などについて調査をすすめるとともに,その搭載の可否について検討を行っている.
紫外・可視・近赤外サウンダについては,オゾン,微量気体,エーロゾルの観測が可能で,主として大気汚染物質の監視などに利用される.それらの主要な排出源となっている東アジア・南アジアは,ひまわりの観測領域からするとかなり西に位置しており,ひまわりの観測で効果的な成果が得られるか,慎重に評価する必要がある.
3.おわりに
国土交通省の交通政策審議会気象分科会は,2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方を提言として取りまとめている.その中では,重点的な取組事項の一つとして観測・予測精度向上のための技術開発が謳われており,気象・気候に関わる具体的な目標として,「半日前からの早め早めの防災対応等に直結する(線状降水帯の発生・停滞等に伴う集中豪雨の)予測精度の向上」や,「数日前からの大規模災害に備えた広域避難に資する台風・集中豪雨などの予測精度向上」が挙げられている.また,これらの目標を実現するための具体的な取組内容として,気象衛星を含む気象庁の基幹的かつ総合的な観測網について,更なる充実・高度化を進めることとされている.気象庁では,2030年の目標達成に向けて,ひまわり後継衛星も用いながら安全・安心な社会を実現できるよう取り組んでいく.
気象庁で運用している静止気象衛星ひまわり8号・9号については,2022年度頃に8号から9号へとその役割を交代しつつ,2029年度頃に運用を終える予定である.ひまわりは気象庁の気象業務だけでなく,国内外で幅広く利用されており,宇宙からの気象観測体制を切れ目なく維持していくためには,2028年度にはその後継となる衛星を打ち上げる必要がある.わが国の宇宙基本計画でも,ひまわり8号・9号の後継の静止気象衛星は,遅くとも2023 年度までに製造に着手し,2029 年度頃に運用を開始することを目指す,とされている.
その一方,近年の気象災害は,台風のみならず,線状降水帯に伴う集中豪雨など極端な気象現象が顕著に現れるようになっている.これらの監視・予測のためには大気の気温や水蒸気の状態を常時,広範囲かつ立体的に観測することが重要である.静止衛星であるひまわりには,日本を含む広く西太平洋を常時監視できるという極軌道衛星などの周回衛星にはない長所がある.この強みを活かしつつ,ひまわりの後継衛星に最新の技術を導入することでその気象観測・予測能力を飛躍的に向上させて,自然災害の防止に寄与していくことが喫緊の課題となっている.
その一方,世界気象機関では,2040年頃の静止気象衛星への具備が望ましいセンサーとして,高頻度観測機能を備えた多バンドの可視・赤外イメージャや,ハイパースペクトル赤外サウンダ,雷イメージャ,紫外・可視・近赤外サウンダを推奨している.本発表では,後継衛星でのこれらのセンサーの性能や利用方法,搭載の可能性等の検討状況を報告する.
2.検討中のセンサー
可視・赤外イメージャについては,後継衛星では,現行の8号・9号の観測性能からの機能強化ができないかを検討している.具体的には観測バンドの追加や波長帯の変更,領域観測機能の強化,観測・処理・配信時間の短縮,観測データの品質向上などである.
ハイパースペクトル赤外サウンダは,大気や雲・地表面などからの赤外放射を高い波数分解能で測定し,気温や水蒸気などの大気の鉛直構造を観測するセンサーである.静止衛星搭載型の同センサーは,すでに中国や欧州で運用中または運用予定である.また米国でも次世代静止気象衛星での搭載の検討が始まっている.台風・線状降水帯の予測精度向上や防災気象情報の高精度化の実現に向けて,同センサーの搭載はひまわり後継衛星でも極めて有力な機能になると考えられる.気象衛星調整会議においても,全球の気温・水蒸気のプロファイルを取得して,数値予報の更なる精度向上に寄与するために,各国の静止気象衛星がハイパースペクトル赤外サウンダを搭載し,同センサーによる観測で地球を取り囲んだ状態(Geo-Ring)を目指すことが重要とされている.同センサーは,これまでのひまわりには搭載されていないため,気象庁ではその搭載の可能性や期待される効果について具体的な検討を行っている.例えば,数値予報に与える効果を客観的に評価するために観測システムシミュレーション実験を実施している.
雷イメージャについては,航空産業への情報提供や,台風の強度予報への活用などが考えられるが,こちらもこれまでのひまわりには搭載されていない.米国の静止気象衛星にはすでに搭載され,観測データも公開が始まっているため,それらのデータを利用して,同センサーの性能や利用法などについて調査をすすめるとともに,その搭載の可否について検討を行っている.
紫外・可視・近赤外サウンダについては,オゾン,微量気体,エーロゾルの観測が可能で,主として大気汚染物質の監視などに利用される.それらの主要な排出源となっている東アジア・南アジアは,ひまわりの観測領域からするとかなり西に位置しており,ひまわりの観測で効果的な成果が得られるか,慎重に評価する必要がある.
3.おわりに
国土交通省の交通政策審議会気象分科会は,2030年の科学技術を見据えた気象業務のあり方を提言として取りまとめている.その中では,重点的な取組事項の一つとして観測・予測精度向上のための技術開発が謳われており,気象・気候に関わる具体的な目標として,「半日前からの早め早めの防災対応等に直結する(線状降水帯の発生・停滞等に伴う集中豪雨の)予測精度の向上」や,「数日前からの大規模災害に備えた広域避難に資する台風・集中豪雨などの予測精度向上」が挙げられている.また,これらの目標を実現するための具体的な取組内容として,気象衛星を含む気象庁の基幹的かつ総合的な観測網について,更なる充実・高度化を進めることとされている.気象庁では,2030年の目標達成に向けて,ひまわり後継衛星も用いながら安全・安心な社会を実現できるよう取り組んでいく.