日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-SD 宇宙開発・地球観測

[M-SD40] 将来の衛星地球観測

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.20

コンビーナ:本多 嘉明(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、高薮 縁(東京大学 大気海洋研究所)、Shinichi Sobue(Japan Aerospace Exploration Agency)、山本 晃輔(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[MSD40-P03] 高層大気の化学・力学場の動態把握のためのFTS衛星観測ミッション

*江口 菜穂1、Walker Kaley2、齋藤 尚子3、吉田 幸生4、芳村 圭5、取出 欣也5、藤原 正智6、河谷 芳雄7、山下 陽介7、Nassar Ray8、Jones Dylan2、Plummer David8、Strong Kimberly2 (1.九州大学、2.University of Toronto、3.千葉大学、4.国立環境研究所、5.東京大学、6.北海道大学、7.海洋研究開発機構、8.Environment and Climate Change Canada)

キーワード:フーリエ変換分光器、高層大気、大気微量気体成分、同位体

成層圏のオゾン層破壊や人為起源温室効果ガスの大気中濃度の増加による対流圏の温暖化および成層圏の寒冷化は現在進行形の気候変動現象である。現在の気候の理解および将来の気候変動の予測には、全球規模での大気微量成分、雲の継続的な観測が必要不可欠である。

本ミッションではFTS (Fourier-Transform Spectrometer) を用いて、近赤外から熱赤外域の波長(4~14 μm、分解能 0.02cm-1)の太陽掩蔽観測を実施する。本手法により中部対流圏から下部熱圏 (8~100 km) における多種類の大気微量成分 (同位体含む) と氷雲の高鉛直分解能 (1.5 km~ ) の観測が可能である。

本ミッションによって、成層圏内の化学過程の精緻化や新しい機構の解明、また対流圏上層の水蒸気、HDOの情報により数値モデルによる予報精度の向上が期待される。さらに成層圏の化学過程を詳細に再現することにより、成層圏の力学場の再現性の向上、それによる中層大気の大気変動が対流圏に与える力学的効果がより現実的に再現が可能となり、気候変動予測の精度向上を介して、社会生活や政策への貢献が期待される。



1.応募カテゴリ: A. 衛星観測ミッション

2.[衛星] 軌道:太陽非同期 (non-sun-synchronous), solar occultation、軌道高度:650km、軌道傾斜角:65度
[搭載センサ] FTS、観測波長:4~14 μm、分光分解能:0.02 cm-1、鉛直分解能:1.5~4 km、Line of sight:200 km、積分時間:2秒、測器質量:50kg、消費電力:65W、設計寿命:5年

3.期待される科学の成果:

・中部対流圏から下部熱圏までの温室効果ガス、水蒸気とその同位体およびオゾン関連気体成分や氷雲の全球規模かつ高鉛直分解能の観測から、地球大気の化学、放射過程および圏をまたいだ水循環や物質循環の動態を把握する。

・気候モデルが不得意とする圏間の相互作用および大気上層の微量気体成分や力学過程の情報のインプットによる気候予測精度の向上

・成層圏オゾンに関連する成分の観測によって、成層圏化学・力学モデルの精度向上、および水蒸気とその同位体の観測によって、気象予報モデルの精度向上が図られる。

4.アウトカム:

・対流圏の温暖化による成層圏気候への影響、およびオゾン層を介した成層圏からの対流圏への気候影響の評価。成層圏の化学・力学過程を精緻化することにより気候モデルの低温バイアス (数度) の軽減が期待される [例えば、Yook et al.,2019]。

・水蒸気同位体を用いることによる気象場の予報精度の向上。それによる極端現象の予報精度向上が期待される。IASIの水蒸気同位体を用いた結果、10%の気象場(風場、湿度場)の予報の精度向上が確認された [Toride et al., 2019]。

・温室効果ガスの成層圏シンクの絶対量の評価が可能となり、炭素インベントリー (排出量) の不確定性量の削減により、より正確な気候予測や排出量にかかわる政策を介して社会に貢献する。

5.技術の特色:

①優位性:FTSによって赤外域波長を高波数分解能で広範囲に観測することで、多成分の微量気体成分 (同位体含む) を同時に取得できる。それによって、上層大気の化学・力学過程の理解が進む。高緯度範囲 (±80度; 軌道傾斜角65度の場合)、高高度範囲 (雲頂高度~100㎞) を高鉛直分解能 (1.5~4㎞) で測定することで、中部対流圏から熱圏下部の圏間の連続した物質交換過程の詳細な議論が期待できる。

②成熟度:ACE-FTS, GOSATシリーズによる近赤外から熱赤外域のFTS観測経験あり。

③人材確保と育成:既存の技術を応用することで人件費の削減を図るが、人材育成および科学技術発展のため、各国の研究者に数名ずつ若手研究者を配置し、シニア世代から培ってきた知見、技術の継承と次世代の衛星分野の人材育成、分野の活性化と衛星ミッションの国際的競争力の強化を目指す。

6.開発体制:
測器開発は主にCanadian Space Agency。案が採用になった場合、JAXAの関わり方を調整する。ソフトウェアは千葉大、環境研、九大で実施

7.研究体制:
日本・海外の研究機関と大学による国際協力体制。
ハードウェア:カナダ、JAXA(TBD)
ソフトウェア:千葉大 (齋藤)、環境研 (吉田)、九大 (江口)、Environmental Canada (Nassar)
データ提供:(案)Tellus、または、JAXA G-portal
解析:九大 (江口)、千葉大 (齋藤)、東大 (芳村)、University of Toronto (Walker, Strong)
検証:北大 (藤原) (TBD)
数値モデル:JAMSTEC (河谷、山下)、University of Toronto (Jones), Environmental Canada (Plummer)。

8.関連団体:日本気象学会、日本大気化学会、日本リモートセンシング学会、日本地球惑星科学連合、Canadian Meteorological and Oceanographic Society, Canadian Space Agency

9.継続性/新規性:
[新規性] 高鉛直分解能で、中部対流圏から下部熱圏の同位体を含む多種類の微量大気成分同時観測は初の試みである。また水蒸気同位体を得ることで、上層大気を含む水循環の全球的な理解を得ることができる。

[継続性] ACE-FTSでの高高度の微量大気成分の観測実績やGOSATシリーズでの近赤外から熱赤外の高スペクトル分解能の導出手法の継続と発展を期待する。またMLS、ACE-FTS、MIPAS等との連続的な長期観測によって気候変動に寄与する高層大気の微量気体成分の全球規模観測データの蓄積が期待される。。

10.緊急性・タイムリーさ:温暖化対策は世界規模での喫緊の課題である。オゾン層破壊も気候変動によってどのように変化するか不明な点が多い。国際的にみて大気上層の大気微量成分をターゲットとした地球観測衛星の実行段階にあるプロジェクトは皆無である。NASA、ESA主導の地球観測衛星の寿命を考慮すると早急に次期衛星の打ち上げを検討すべきである。

11.国際的分担:測器開発およびソフトウェアの開発をCSAと共同で実施する。データ提供を日本側が担当する。

12.予算:予算規模125-150億円。

13.低コスト化の取り組み:

・測器およびソフトウェア共に既存の技術を応用することでコストカットを目指す。

・ACE-FTSの研究チームの協力を仰ぐことで人件費及び開発期間短縮によるコストカットが期待できる。

・他の測器との打ち上げおよびプラットフォームの相乗りによる打ち上げ、運用コストのカットを図る。

14.将来展望:同位体を含む多種類の微量気体成分の導出から、特に成層圏化学過程の精緻化やさらなる未知の化学機構の発見が期待される。

15.実利用の可能性:中層大気を含めた全球規模での温室効果ガスの観測および圏間の相互作用の理解の進展から気候変動予測モデルの精緻化を通じて、異常気象や極端現象の予測の高精度化によるリスク管理等の政策への提言が期待できる。