17:15 〜 18:30
[MSD40-P08] 衛星搭載水蒸気観測用差分吸収ライダー(DIAL)の技術実証
キーワード:水蒸気、ライダー、豪雨災害、地球温暖化
○応募カテゴリ A.衛星観測ミッション
○衛星・センサ仕様
太陽非同期準回帰軌道の衛星を用い、高度250km、傾斜角35°、ビーム天底角22°の2ビーム測定を想定している。センサである水蒸気差分吸収ライダー(DIAL)の主な仕様は、望遠鏡口径0.8m、レーザ出力20mJ、波長1336nm、繰返し周波数500Hz(on/offペア)、電力240Wである。夏季日本水蒸気モデルを用いた誤差シミュレーションより、水平分解能20km、高度分解能300mで高度2.1kmまで誤差10%以下、600mで3.2kmまで10%以下、1000mで5.6kmまで20%以下で水蒸気の測定が可能である。WMOの水蒸気観測要求分解能で熱帯水蒸気分布モデルを用いると、3つの吸収線で高度20kmの下部成層圏まで誤差20%以下で計測可能である。
○期待される科学の成果
気温上昇により飽和水蒸気量が増加することによって、大気中の水蒸気量が増加し温室効果が加速される水蒸気フィードバックが起こり、温暖化が顕著になる可能性がある。一方、水蒸気の増加が雲の発生量を高める日傘効果による温暖化の抑制(雲フィードバック)は主に下層雲に対して不確実性が指摘されている。しかし、現状では温暖化の議論に耐える地球全域に亘る水蒸気分布の観測データが不足しており、精度の高い議論はできていない。さらに水蒸気は、OHラジカルの生成を通して、メタンの酸化など対流圏・成層圏の重要な化学プロセスにも関与している。これら水蒸気の重要性から、世界的な水蒸気分布データの質の向上が必要である。これは、長期の気候変動解析と短期の数値予報どちらにも有用である。衛星搭載ライダーで全球的な水蒸気観測を行い、水蒸気のフィードバックプロセスの理解を進めることにより、地球温暖化シナリオで現実的な水蒸気の増加レベルをシミュレーションすることが可能となる。
○アウトカム
近年日本では線状降水帯による豪雨の発生や台風の大型化が防災面から大きな社会問題となっている。これらの災害は予測精度を上げることにより減災が可能であるが、予測には特に海上の下部対流圏の水蒸気分布情報が重要であることが指摘されている。衛星搭載ライダーは日本周辺海上の水蒸気観測が可能であり、数値予報モデルへのデータ同化により予測精度の向上が期待できる。
○技術の特色
①優位性
現在の水蒸気観測は、ラジオゾンデ、地上リモートセンシング、衛星赤外線/マイクロ波センサにより行われているが、空間及び時間分解能に問題がある。さらに上部対流圏・下部成層圏の境界領域に空白域がある。また、受動的衛星観測は水平方向のカバー領域は広いが、鉛直分解能が不十分である。グローバルな水蒸気循環を定量的に評価するためには、精度、鉛直分解能及びカバーレンジが不足している。衛星搭載ライダーは、全球域の高分解能・高品質水蒸気データを提供するとともに、バイアス誤差が無いためパッシブリモートセンシング機器の校正にも利用できるとともに、衛星搭載センサによる面的な観測とのシナジー効果が期待できる。
②成熟度/人材確保と育成
これまでに、航空機搭載水蒸気DIALを大学、研究所、JAXA(NASDA)で開発し、試験観測に成功した実績がある。衛星搭載と対流圏界面高度の水蒸気観測を考慮した場合、DIALでは1350nm付近の吸収線の利用が有効であるが、この波長はCO2ライダー開発により実績があるQPM-OPA方式で容易に得ることが可能である。すでに航空機搭載を目指した本方式の水蒸気DIAL開発に着手している。
○開発・研究体制/関連団体
衛星観測水蒸気データ同化によるインパクトの検討を目指して、気象研究所の有識者と気象分野における水蒸気観測の必要性について意見交換会を行っている。また本提案に関してはレーザセンシング学会の衛星搭載ライダーに関するプロジェクト調査委員会において議論、提案間の調整を行っている。
○継続性/新規性/国際的分担
NASAはLASEとして航空機搭載水蒸気DIALを実用化し多くの成果を得ている。ESAではWALESと呼ばれる衛星搭載水蒸気差分吸収ライダーが提案されたが、現時点で具体的な計画はない。その要因の一つとして波長可変レーザの安定性への疑念が考えられる。我々が提案しているQPM結晶を用いたOPAシステムは世界トップクラスの技術で、one path amplifierは位相整合OPOより制約条件が緩和されるため宇宙利用での安定動作には有利である点に新規性がある。
○緊急性・タイムリーさ
日本における豪雨災害は年々増加しており防災・減災、国土強靱化のための対策は緊急性が高い。
○予算/低コスト化の取りくみ/将来展望
励起用レーザは、植生ライダー(MOLI)用に開発された宇宙用レーザ技術の応用が出来る。実証用DIAL装置の開発、航空機搭載検証実験までの開発コストは数億円程度、最終的な衛星搭載システム開発までは百億円程度と見積もられる。当面はTRLのクリアを目指したスケジュールを検討していく必要がある。
参考文献
阿保真他、衛星搭載差分吸収ライダーによるグローバルな水蒸気分布観測の提案、レーザセンシング学会誌、Vol.1, No.2, p.72, 2020.
○衛星・センサ仕様
太陽非同期準回帰軌道の衛星を用い、高度250km、傾斜角35°、ビーム天底角22°の2ビーム測定を想定している。センサである水蒸気差分吸収ライダー(DIAL)の主な仕様は、望遠鏡口径0.8m、レーザ出力20mJ、波長1336nm、繰返し周波数500Hz(on/offペア)、電力240Wである。夏季日本水蒸気モデルを用いた誤差シミュレーションより、水平分解能20km、高度分解能300mで高度2.1kmまで誤差10%以下、600mで3.2kmまで10%以下、1000mで5.6kmまで20%以下で水蒸気の測定が可能である。WMOの水蒸気観測要求分解能で熱帯水蒸気分布モデルを用いると、3つの吸収線で高度20kmの下部成層圏まで誤差20%以下で計測可能である。
○期待される科学の成果
気温上昇により飽和水蒸気量が増加することによって、大気中の水蒸気量が増加し温室効果が加速される水蒸気フィードバックが起こり、温暖化が顕著になる可能性がある。一方、水蒸気の増加が雲の発生量を高める日傘効果による温暖化の抑制(雲フィードバック)は主に下層雲に対して不確実性が指摘されている。しかし、現状では温暖化の議論に耐える地球全域に亘る水蒸気分布の観測データが不足しており、精度の高い議論はできていない。さらに水蒸気は、OHラジカルの生成を通して、メタンの酸化など対流圏・成層圏の重要な化学プロセスにも関与している。これら水蒸気の重要性から、世界的な水蒸気分布データの質の向上が必要である。これは、長期の気候変動解析と短期の数値予報どちらにも有用である。衛星搭載ライダーで全球的な水蒸気観測を行い、水蒸気のフィードバックプロセスの理解を進めることにより、地球温暖化シナリオで現実的な水蒸気の増加レベルをシミュレーションすることが可能となる。
○アウトカム
近年日本では線状降水帯による豪雨の発生や台風の大型化が防災面から大きな社会問題となっている。これらの災害は予測精度を上げることにより減災が可能であるが、予測には特に海上の下部対流圏の水蒸気分布情報が重要であることが指摘されている。衛星搭載ライダーは日本周辺海上の水蒸気観測が可能であり、数値予報モデルへのデータ同化により予測精度の向上が期待できる。
○技術の特色
①優位性
現在の水蒸気観測は、ラジオゾンデ、地上リモートセンシング、衛星赤外線/マイクロ波センサにより行われているが、空間及び時間分解能に問題がある。さらに上部対流圏・下部成層圏の境界領域に空白域がある。また、受動的衛星観測は水平方向のカバー領域は広いが、鉛直分解能が不十分である。グローバルな水蒸気循環を定量的に評価するためには、精度、鉛直分解能及びカバーレンジが不足している。衛星搭載ライダーは、全球域の高分解能・高品質水蒸気データを提供するとともに、バイアス誤差が無いためパッシブリモートセンシング機器の校正にも利用できるとともに、衛星搭載センサによる面的な観測とのシナジー効果が期待できる。
②成熟度/人材確保と育成
これまでに、航空機搭載水蒸気DIALを大学、研究所、JAXA(NASDA)で開発し、試験観測に成功した実績がある。衛星搭載と対流圏界面高度の水蒸気観測を考慮した場合、DIALでは1350nm付近の吸収線の利用が有効であるが、この波長はCO2ライダー開発により実績があるQPM-OPA方式で容易に得ることが可能である。すでに航空機搭載を目指した本方式の水蒸気DIAL開発に着手している。
○開発・研究体制/関連団体
衛星観測水蒸気データ同化によるインパクトの検討を目指して、気象研究所の有識者と気象分野における水蒸気観測の必要性について意見交換会を行っている。また本提案に関してはレーザセンシング学会の衛星搭載ライダーに関するプロジェクト調査委員会において議論、提案間の調整を行っている。
○継続性/新規性/国際的分担
NASAはLASEとして航空機搭載水蒸気DIALを実用化し多くの成果を得ている。ESAではWALESと呼ばれる衛星搭載水蒸気差分吸収ライダーが提案されたが、現時点で具体的な計画はない。その要因の一つとして波長可変レーザの安定性への疑念が考えられる。我々が提案しているQPM結晶を用いたOPAシステムは世界トップクラスの技術で、one path amplifierは位相整合OPOより制約条件が緩和されるため宇宙利用での安定動作には有利である点に新規性がある。
○緊急性・タイムリーさ
日本における豪雨災害は年々増加しており防災・減災、国土強靱化のための対策は緊急性が高い。
○予算/低コスト化の取りくみ/将来展望
励起用レーザは、植生ライダー(MOLI)用に開発された宇宙用レーザ技術の応用が出来る。実証用DIAL装置の開発、航空機搭載検証実験までの開発コストは数億円程度、最終的な衛星搭載システム開発までは百億円程度と見積もられる。当面はTRLのクリアを目指したスケジュールを検討していく必要がある。
参考文献
阿保真他、衛星搭載差分吸収ライダーによるグローバルな水蒸気分布観測の提案、レーザセンシング学会誌、Vol.1, No.2, p.72, 2020.