日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-SD 宇宙開発・地球観測

[M-SD40] 将来の衛星地球観測

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.20

コンビーナ:本多 嘉明(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、高薮 縁(東京大学 大気海洋研究所)、Shinichi Sobue(Japan Aerospace Exploration Agency)、山本 晃輔(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[MSD40-P13] 災害対応・ベースマップおよび環境モニタリングに関するミッション(その2)

*山本 彩1 (1.(一般財団法人)リモート・センシング技術センター)

本提案の目的は、継続的な大規模災害時の観測およびベースマップ作製、ならびに長期にわたる定量的モニタリングによる地球資源の監視・解明である.ALOSシリーズの光学およびSARセンサは広い範囲を高い空間分解能で観測することにより,基盤情報(土地被覆、地形、標高)、防災・減災(変化抽出、地盤変動、浸水、不法投棄)、農林水産業(精密農業、食料安全保障、森林、漁業)、エネルギー(地質、埋蔵量、資源管理、汚染監視)、気候変動(氷河、流氷、洪水)、環境(沿岸環境、炭素ストック)など実利用的なものから、地球科学にいたるまで多岐にわたる分野で利用されてきている。米国Landsatシリーズが高く評価され、欧州がSentinelシリーズを長期的に計画・運用していることからも、継続的なモニタリングという観点から、ALOSシリーズの高分解能センサの継続が我が国の地球観測におけるプレゼンスを上げることにつながる。

■衛星・センサ仕様
軌道高度:約600㎞
衛星質量:2000−3000㎏

搭載センサ1:広域高分解能光学センサ
・設計寿命:7年
・分解能:パンクロ0.5m、マルチ2-3m
・波長帯:先進光学と同等(6バンド)
・ステレオ観測機能:パンクロ 直下・前方視・後方視
・走査幅:70㎞

搭載センサ2:広域高分解能SARセンサ
・設計寿命:7年
・観測モード(分解能)&観測幅:
スポットライトモード(1x3m&30km)
高分解能モード(3-10m&100km)
広域モード(10-100m&350km)
・周波数:Lバンド

■期待される科学の成果
(地球科学・気候変動問題に対する貢献)
広い観測幅(数十〜100km)での高解像度(数m以下)の地球規模の物理情報を提供することにより,LandsatやSentinelシリーズのような中分解能衛星では限界がある、詳細な災害時の被災域把握、平時の土地利用・土地被覆マップの作製や森林・農地における植生変動の把握が可能となる。これにより、気候変動による影響シミュレーションなど、各種シナリオにもとづいたモデル計算の際の境界条件を精緻なものにすることが可能であり、将来予測精度の改善が期待される.また、干渉解析による地表面変位計測が可能なSARデータの中で、Cバンド・Xバンドと比較して植生下の変位検出に優位性があるLバンドSARを用いることで、面的かつ広域に地表面変位のメカニズムが把握できることを活用し、各種データと組み合わせることで様々な成果を挙げることが期待できる。

■アウトカム
本提案における広域高分解能の光学・SARデータが全球スケールで整備されることにより、いつ発生するか予測の難しい災害対策における、網羅的な
ベースマップからの差分としての被害域抽出といった活用がまず着目される。国内では内閣府による戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期において、「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」 が開始されており、広域高分解能衛星がその中で果たす役割は大きく、活用が期待されている。また、国際的にも災害時の対策における基盤地理空間情報の整備は急務・不可欠であり、定期的な広域高分解能衛星データの有用性が求められている。防災・減災以外にも、例えば国際社会におけるSDGsへの取り組みを考えた際に、安定的な食料生産や水資源の確保、公衆衛生分野などにおいて、基幹となるベースマップの維持更新や、詳細な変化の監視に定期的な観測が、役立てられることが期待されている。また、国内におけるSociety5.0に示される将来の社会や、世界的なスマートシティを実現させる流れの中でも、広域高分解能衛星データによる基盤データが着目され、活用が期待されている。

■技術の特色
① 優位性:光学に関しては、数m~サブメートル級の高分解能画像を数十kmという広範囲で観測する技術について優位性がある。LバンドSARの開発・運用に対しては他国に対する優位性が高い。さらに、光学データとSARデータが同時に運用され、融合的に利用されることにより、それぞれ単独での利用に比べて、相互補完のメリットや得られる情報の精度向上など多様な効果が期待される。
② 成熟度:ALOSシリーズおよび情報収集衛星の開発により、現行技術については技術的に十分成熟している。ALOS/PRISMで実現した衛星進行方向のステレオ観測技術に加え、ALOS-3で開発された方向変更観測技術は、緊急性の高い観測にも迅速に対応可能である。SARにおけるDBFについても国内メーカーの技術を用いて広域高分解能観測が実現可能である。
③ 人材確保と育成:ALOS-4に至るまでのALOSシリーズで培った技術を持つ人材を確保し、新しいALOS後継シリーズに対応させることで、今後も人材を維持し、その次世代の育成に繋げることができる

■開発体制
JAXAによる開発

■研究体制
ALOSで培ったJSS,METIや大学・研究機関等との共同研究体制

■関連団体
日本地球惑星科学連合,日本リモートセンシング学会,日本写真測量学会,海洋学会,雪氷学会,気象学会、日本森林学会、日本農学会など。関係省庁(国交省、経産省、農林水産省、海上保安庁、環境省など)との利活用検討体制

■継続性/新規性
ALOS-1,2の成功があり、ALOS-3,4が次年度打ち上げられようと準備されている状況。宇宙開発戦略本部による工程表には、先進光学衛星後継機①②、先進レーダ衛星後継機①②の記載があるとともに、「●継続的に開発・運用等」との記載もされている。ALOSシリーズのプレゼンス向上のためには、途切れずに継続することが必要。

■緊急性・タイムリーさ
ALOSの運用停止以降、光学系の高分解能センサに関してはALOS-3の運用が切望されている状況。シリーズとしての継続性を担保するためには、ALOS-3の設計寿命である7年後の2026年までに打ち上げる必要がある。
SARについても、ALOS-4の設計寿命が7年であるため,確実に継続するためには2026年度までに打ち上げる必要がある

■国際的分担
災害については、これまで同様に国際災害チャータや、センチネルアジアの枠組みにおける分担体制が構築されている。国際協力の観点からも、各国の衛星と組み合わせて利用するためには、相互にデータ・解析結果を提供しあう関係を築いておく必要があり、日本側から観測データを提供できる状態を維持することが重要である。また、LバンドSARデータは他国にない有用な情報を提供できることから、他国のX、CバンドSARとの協力体制を構築しやすい

■予算
現在予算処置なし

■低コスト化への取り組み
今までのALOSシリーズのノウハウの利活用や情報収集衛星で培った技術の流用などにより、コスト圧縮の可能性がある。

■将来展望
これまで実利用化における課題となっていた観測頻度の向上・確保に対して、近年増えてきている民間企業などによる小型衛星によるコンステレーション観測のアプローチが、一つの解決策を示している。一方で、これら小型衛星による観測のみでは継続的な観測における値の信頼性の担保が現状不十分となる可能性があり、Planet衛星がLandsatなどの観測結果を元に校正検証しているように、ALOSシリーズのような広域高分解能観測が可能な大型衛星をデータの基盤として、小型衛星のデータも価値を増すような相乗効果を狙うことが期待できる。
また、広域高分解能センサはデータ量が増大する傾向方向にあるため、要素技術としてのデータ伝送の高速化、データオンボード処理、データ中継衛星などデータダウンリンク環境も含めた宇宙システムのさらなる効率化の検討も必要である。

■実利用の可能性
必要な時の観測データが必要なタイミングで入手できることが小型衛星とのコラボレーションやプラットフォームの整備で進むこと、また、その上で機械学習・深層学習などのAI解析技術と組み合わせて人手を解さずとも必要な情報に変換できるようになることによって初めて、実利用化が進むことが期待される。上記のような環境要因は現状のICTの発展に伴って徐々に整備されつつある。
事例としては、ALOSから得られた地形データ(AW3D)の様々なプロジェクトでの利用、スマート農業における高品質な作物をより多く収穫するための実証、道路・鉄道や様々な設備などの社会インフラのモニタリングにおいてSARデータによる干渉解析結果の利用が注目されはじめていること、高分解能衛星の多波長観測結果による深浅測量・詳細な土地被覆/土地利用の把握などが、実利用またはその兆しとして捉えられる。本提案の広域高分解能衛星の今後の実現と前述の環境の整備がタッグを組むことで、これらの実利用がさらに広がる可能性がある。