11:15 〜 11:30
[MTT42-08] 磁気並進を用いた混合粒子試料のその場分析
キーワード:磁気分離、物質同定、その場分析
先行研究では、強い磁性を有さない一般の固体粒子が、永久磁石レベルの磁場強度(B<0.6T)で並進することを初めて実証し、さらに並進速度で得た磁化率χを文献値と対照させることで、無制限に小さい粒子の物質同定が、原理的に加納であることを示した[1][2]。さらに同一の磁場空間で、異種粒子の集団を同じ位置から開放すると、それらは質量の大小に関係なく物質ごとの集団に分かれて並進した。現在の磁気科学では、主要元素として磁性イオンを含まない反磁性体に、力学的な運動を発生させるには、少なくとも10T以上の強磁場が必要とされている。今回、自然界に遍在する代表的な反磁性無機物である黒鉛(-52)、ダイヤモンド(-5.9)、シリコンカーバイト(-3.8)、コランダム(-4.2)、フォルステライト(-3.3)、マグネシア(-2.8)に関して、それらの磁気分離と物質同定の可能性を検証した(カッコ内はχの文献値[x10-7emu/g]を表す)。
上記の磁気並進の特性は、磁場空間内の粒子のエネルギー保存則から導かれる。すなわち磁場強度が一方向(+x軸方向)へ変化する空間に、反磁性あるいは常磁性の粒子を静かに開放すると、それらは物質固有の磁化率χの差異により、異なる速度で並進する[1][2]。単位質量当のχは、任意の2点xi, xj の間に成り立つエネルギー保存則に基づき、下式で求められる。
χ=(vi2 - vj2) (Bi2 - Bj2) -½ (1)
ここでvi, vj およびBi, Bj は、 xi, xj における粒子速度および磁場強度を表す。すなわち (1) 式の両辺で粒子質量が相殺されるため、微小な単一粒子の磁化率χが、質量を計測することなく得られる。さらに、永久磁石による磁場勾配により、同一位置で開放した異種粒子の集団を、異なる物質の集団に分離できる(微小重力の持続時間<0.5s)[2]。今回、上記の特性を高精度で観測する目的で、高感度カメラ(ZWO ASI290MC)を新たに導入した。これにより式(1)におけるv(x)およびB(x)の測定精度が格段に向上し、その結果、主要な無機反磁性粒子のχ計測、物質同定および磁気分離が実用化可能な精度(磁化率の差異δχ<1x10-7emu/g)で達成されつつある。今後、磁気並進を観測する空間および時間分解能を1桁程度向上させることで、μmサイズの粒子の分離と同定が、既存の方法よりもはるかに単純な行程で実施できる。
上記(1)式に基づく物質同定は、遠隔操作による固体粒子の探査・分析に有効である。無人探査機に搭載する分析装置の必要条件として、①小型で堅牢、②原理が単純で実証済み、③消費電力が低い、④希少試料を消費しない、などが挙げられる[3]。今回提案する方法は上記の条件を満たしており、これまでの固体分析の標準的な手法である質量分析計や赤外分光計を補完する機能を有している。さらにこの手法は、採取した試料中に含まれる想定外の未知物質の候補を効率的に識別するのに有効であり、その点でも探査機搭載用の機器として有用である[4]。近年材料科学の分野において、反磁性体、常磁性体の磁気分離は、試料に磁気ビーズを付加させて磁気力を増大させ、ターゲット物質を採取する技術が実用化されつつある[4]。これに対し(1)式に基づく手法では、ビーズ付加の行程を省略できるため、混合試料の無作為分析がより短時間で実行できる。
今回開発した装置は、小型の磁石、試料ホルダーおよび高速度カメラのみのコンパクトな構成をもつ[5]。従って、室内・野外を問わず、様々な試料採取の現場へ装置を移設し、分析を行うことができる。そして試料の材料評価が現場で迅速に進む。物質探査の現場では、採取した多数の試料の分析を後日専門の部門で一括して行うことが多い。従って、その結果を得るまでのタイムラグが、分析作業の効率を低下させる要因として無視できない。採取した試料の予備的な分析結果がその場で得られれば、材料合成や資源探査の作業効率向上に少なからず寄与する。
[1]Uyeda et al., (2010) J. Phys. Soc. Jpn. 79, 064709, [2] Hisayoshi, et al, (2016) Sci. Rep 6, 38431. [3]植田千秋 (2019) 機能材料 39, 35. [4] for example 渡辺恒雄 他(2006) 電気学会研究会資料 39 1-4, [5] Uyeda et al, (2019) Sci. Rep 9, 3931.
上記の磁気並進の特性は、磁場空間内の粒子のエネルギー保存則から導かれる。すなわち磁場強度が一方向(+x軸方向)へ変化する空間に、反磁性あるいは常磁性の粒子を静かに開放すると、それらは物質固有の磁化率χの差異により、異なる速度で並進する[1][2]。単位質量当のχは、任意の2点xi, xj の間に成り立つエネルギー保存則に基づき、下式で求められる。
χ=(vi2 - vj2) (Bi2 - Bj2) -½ (1)
ここでvi, vj およびBi, Bj は、 xi, xj における粒子速度および磁場強度を表す。すなわち (1) 式の両辺で粒子質量が相殺されるため、微小な単一粒子の磁化率χが、質量を計測することなく得られる。さらに、永久磁石による磁場勾配により、同一位置で開放した異種粒子の集団を、異なる物質の集団に分離できる(微小重力の持続時間<0.5s)[2]。今回、上記の特性を高精度で観測する目的で、高感度カメラ(ZWO ASI290MC)を新たに導入した。これにより式(1)におけるv(x)およびB(x)の測定精度が格段に向上し、その結果、主要な無機反磁性粒子のχ計測、物質同定および磁気分離が実用化可能な精度(磁化率の差異δχ<1x10-7emu/g)で達成されつつある。今後、磁気並進を観測する空間および時間分解能を1桁程度向上させることで、μmサイズの粒子の分離と同定が、既存の方法よりもはるかに単純な行程で実施できる。
上記(1)式に基づく物質同定は、遠隔操作による固体粒子の探査・分析に有効である。無人探査機に搭載する分析装置の必要条件として、①小型で堅牢、②原理が単純で実証済み、③消費電力が低い、④希少試料を消費しない、などが挙げられる[3]。今回提案する方法は上記の条件を満たしており、これまでの固体分析の標準的な手法である質量分析計や赤外分光計を補完する機能を有している。さらにこの手法は、採取した試料中に含まれる想定外の未知物質の候補を効率的に識別するのに有効であり、その点でも探査機搭載用の機器として有用である[4]。近年材料科学の分野において、反磁性体、常磁性体の磁気分離は、試料に磁気ビーズを付加させて磁気力を増大させ、ターゲット物質を採取する技術が実用化されつつある[4]。これに対し(1)式に基づく手法では、ビーズ付加の行程を省略できるため、混合試料の無作為分析がより短時間で実行できる。
今回開発した装置は、小型の磁石、試料ホルダーおよび高速度カメラのみのコンパクトな構成をもつ[5]。従って、室内・野外を問わず、様々な試料採取の現場へ装置を移設し、分析を行うことができる。そして試料の材料評価が現場で迅速に進む。物質探査の現場では、採取した多数の試料の分析を後日専門の部門で一括して行うことが多い。従って、その結果を得るまでのタイムラグが、分析作業の効率を低下させる要因として無視できない。採取した試料の予備的な分析結果がその場で得られれば、材料合成や資源探査の作業効率向上に少なからず寄与する。
[1]Uyeda et al., (2010) J. Phys. Soc. Jpn. 79, 064709, [2] Hisayoshi, et al, (2016) Sci. Rep 6, 38431. [3]植田千秋 (2019) 機能材料 39, 35. [4] for example 渡辺恒雄 他(2006) 電気学会研究会資料 39 1-4, [5] Uyeda et al, (2019) Sci. Rep 9, 3931.